「子ども第三の居場所」
2025年度 子ども第三の居場所「フォローアップ研修会」が11月27日・28日の2日間、日本財団ビルで開催され、全国44拠点から46人の拠点マネージャーが出席。また、オンラインでも60人を超える拠点関係者が参加した。
この会議は、子ども第三の居場所の拠点マネージャーや担当者を対象に、専門家による講演やワークショップを通じてスキル向上を図るとともに、各拠点での取り組みなどを共有し、各拠点の課題解決や運営改善につなげることを目的に開催した。
| 実施日 | 1日目:2025年11月27日(木) 14:00~18:30 2日目:2025年11月28日(金) 9:00~12:00 |
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| 場所 | 日本財団ビル 2階 大会議室 |
| 出席者 | <子ども第三の居場所> ・現地 拠点マネージャー 46人 ・オンライン 拠点マネージャー、自治体担当者 65人 <B&G財団> ・常務理事 朝日田 智昭 ・常務理事 岩井 正人 |
| 実施内容 | <1日目> 一、開会 一、主催者挨拶 一、B&G財団からの説明 一、参加者紹介 一、基調講演 一、ワークショップ <2日目> 一、講演 一、ワークショップ 一、閉会 |
主催者挨拶
B&G財団常務理事の朝日田は、出席者への参加のお礼と、日頃の子どもたちへの活動に対する感謝を述べ、「今回の会議を通じて、保護者とのかかわり方に関する新たな知見を得るとともに、参加者同士がネットワークを築き、いつでも相談し合える体制を整えてほしい」と語った。
朝日田常務理事
基調講演
子ども第三の居場所と保護者 ~ともに歩む関わりのかたち~
富山短期大学 幼児教育学科 准教授 明柴 聰史 氏
子どもの居場所は、単なる遊び場や学習支援の場にとどまらず、「セーフティネット」かつ「サードプレイス」として、自己肯定感や非認知能力を育む重要な役割を担っている。多様なニーズに応え、誰もが気軽に訪れられる「社会的実家」となることで、子どもの心身の不調を早期に発見し、問題の未然予防につながるほか、子どもの主体性と権利を尊重する場としての意義も大きい。
現代は、外国にルーツを持つ家庭や不登校・引きこもりなど、抱える課題が複雑化している。こうした中で、保護者支援には孤立を防ぐ「ハブ機能」が求められている。専門性を活かしつつ地域と連携し、インクルーシブ(包括的)で偏見のない、安全な場をつくることがますます重要になっている。
保護者の課題となる行動には、その背景や特性が影響していることが多い。そのため、伝え方の工夫や想像力が信頼関係を築く鍵となる。攻撃的に見える態度も、保護者からのSOSとして受け止め、「味方である」ことを丁寧に伝えながら、伴走者として関係を深めていくことが大切だ。
支援にあたっては、まず境界線をしっかりと設定し、無理な要求には毅然と対応する姿勢が求められる。そのうえで、専門機関と協力しながら、連携の要としての役割を果たしていくことが重要である。また、子育ての楽しさや子どもの成長を具体的なエピソードで共有し、保護者の努力を認めてねぎらうことで、共感に基づく関係を築くことができる。
保護者支援は「新たな業務」ではなく、子どもの最善の利益を守るための基盤である。皆さんは、子ども支援と保護者支援の最前線に立つ専門家としての自覚と責任、誇りを持ちながら、決して一人で抱え込まず、チームで、さらに地域と連携して、さまざまな課題に向き合ってほしい。
明柴氏
ワークショップ①
テーマ①:「家庭と居場所の違いや温度差をどう埋める?」
事例共有:佐賀県みやき拠点 小川 美穂子 氏
三重県伊賀拠点 杉本 智美 氏
ワークショップ①では、まず「家庭と居場所における価値観の違いや温度差をどう埋めるか?」を取り上げた。
佐賀県みやき拠点の「療育の必要性を感じていない保護者にどう伝えるか」、三重県伊賀拠点の「子どもの学習の困りごとをどのように伝えるか」という実例に基づき、グループごとに対応策について意見交換を行った。
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みやき拠点 小川氏(事例説明)
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伊賀拠点 杉本氏(事例説明)
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グループワークの様子
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和やかに意見を交わす参加者たち
ワークショップ①
テーマ②:「居場所としてどこまで保護者の要望に応えるべき?」
事例共有:岩手県一関拠点 小野寺 雄馬 氏
佐賀県伊万里拠点 大瀧 真由 氏
続いて、「居場所としてどこまで保護者の要望に応えるべきか?」というテーマで議論を進めた。
ここでは、岩手県一関拠点の「精神的に不安定な保護者にどう対応するべきか」、佐賀県伊万里拠点の「過度な要求にどう対応するべきか」といった実例が紹介され、参加者はそれぞれの課題に応じた対応策をグループで検討した。
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一関拠点 小野寺氏(事例説明)
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伊万里拠点 大瀧氏(事例説明)
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活発に議論する参加者たち
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グループごとに話し合った対応策を発表
講演
あなたと私を守るために ~心の境界と支援の本質~
一般社団法人sol代表理事、作業療法士 中山 千春 氏
熊本県高森町では、特に発達障害以外の理由で学校に通えない子どもたちへの支援の必要性が高まっていた。そこで、私たちの団体は「フレデリック」を立ち上げ、居場所づくりに取り組んだ。2021年に週1回の開所を開始し、その後、熊本県内で初となる公設民営型教育支援センターとして町の委託事業に発展。今年5月から新たな施設で、「子どもの第三の居場所」として事業を開始し、利用者は高森町のみならず阿蘇圏域や熊本市内まで広がった。日中は不登校児の居場所、放課後は生活困窮やヤングケアラー親子の支援に取り組んでいる。
助けたいという気持ちが、時に支援を受ける側や支援者自身に苦痛をもたらすことがある。そのため、支援者は「心の境界」を理解し、自分と他者との適切な距離を保つことが大切である。また、子どもや保護者が自己肯定感を育むためには、まず支援者自身が自分をよく知ることが必要になる。
「心の境界」は、自我を風船に例え、その膜の厚さでイメージすると理解しやすい。膜が薄すぎると感情に巻き込まれて精神的負担が増え、逆に厚すぎると冷たく感じられることがある。過度な思いやりは燃え尽き症候群やうつのリスクを高めるため、自己を守りつつ相手を支援する姿勢が重要となる。
支援現場では、子どもや保護者が過去の人物と支援者を重ねる「転移」と、支援者が感情的に引きずられる「逆転移」という心理現象が起こることがある。支援者は自身の感情を冷静に分析し、シンパシー(単なる共感)ではなく、エンパシー(相手の立場に立って理解すること)を重視して対応することが求められる。
保護者支援では、「安心・安全な場の保障」「緩やかなつながりの重視」、そして「親という役割を一旦横に置いて、その人自身を尊重すること」が大切になる。支援とは、相手を変えることではなく、お互いが生きやすくなる関係性を育むことであり、その結果、家族の健やかな関係性を築くことにつながっていく。
中山氏
ワークショップ②
テーマ:支援者として持つべき心の境界線について
一般社団法人sol代表理事、作業療法士 中山 千春 氏
講演に続いて、中山氏による精神分析などの知見に基づくグループワークが実施された。
このグループワークは「親の育ち場プログラム」と呼ばれ、保護者が親としての役割を一時的に離れ、自分の人生を振り返るグループカウンセリングである。
幼少期、小学生時代、中高生時代など複数回に分けて段階的に振り返ることで、普遍的な共感や自己肯定感を育み、保護者同士の信頼関係の構築を目指すプログラムを体験するグループワークが行われた。
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グループワークの様子
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2人1組で傾聴練習(積極的質問と静かな傾聴)
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3人1組での共有ワーク
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紙を使った描画ワーク
子ども第三の居場所「フォローアップ研修会」では全国の拠点マネージャーが集まり、保護者支援や子ども支援に関する最新の知見や実践事例を共有した。今後も連携と学びを深めながら多様な課題に柔軟に対応し、子どもや保護者が安心して過ごせる居場所づくりに取り組んでいく。
家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」は、2025年11月現在、全国264ヵ所に設置。B&G財団では、今後も様々な課題を抱える全国の子どもたちの居場所づくりに関する支援を実施していく。
