事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

子どもたちは安心できる環境さえあればどんどん輝いていける
子どもの自主性を育む、大人のまなざしとは
(あかしフリースペース☆トロッコ)

2023.06.16 UP

日本財団助成事業

兵庫県明石市は子育て支援施策に力を入れている自治体として知られ、保育料や医療費などの経済的な軽減はもちろん、子育て環境の整備や教育にも注力しています。
 明石市では、2021年9月から子ども第三の居場所「あかしフリースペース☆トロッコ(以下、「明石拠点」)と表記」の運営を開始しました。その運営について、拠点マネージャーの令子さん、スタッフのあいさんにお話を伺いました。

子育て支援に積極的な明石市に拠点を置く子ども第三の居場所「あかしフリースペース☆トロッコ」

子ども一人ひとりが落ち着いて過ごせる環境

明石拠点マネージャー、令子さん(以下、令子さん):
 「あかしフリースペース☆トロッコ」は学習・生活支援モデルの拠点です。
 明石市に拠点を置くこども財団が借り上げた民家2棟をリフォームした施設には、団らんができる広いリビングに加えて、少人数で過ごせる部屋も設けました。ピアノや読書などができるスペースもあります。
 明石拠点は、明石市が主体となって「子ども第三の居場所」の開所を決めました。こども財団に運営の側面的支援を、B&G財団に資金面・運営面での応援も受けながら、教育委員会や教育部局、民間団体が連携をとって拠点を運営しています。

明石拠点マネージャー 令子さん

明石拠点マネージャー 令子さん

スタッフ、あいさん(以下、あいさん)
 今の社会では学校以外にフリースクールという選択肢があります。しかし有料のフリースクールに通うことが経済的に難しい場合も少なくありません。そんな中で、同様の支援が無料で受けられる居場所があることは、多くの子どもにとって大きな助けになると思います。

令子さん:
 なかにはフリースクールの存在すら知らない人もいますが、明石拠点は教育委員会との連携を密に行っているため、学校の先生やソーシャルワーカーの方から必要な子どもには紹介してもらえます。

子どもが自分たちで問題を解決していく「子ども会議」

令子さん:
 明石拠点では、子どもたちの声や想いを大切にするために、週1回子どもがテーマを決めて対話する「子ども会議」を開催しています。子どもたちのあいだで起きた問題について、子どもたち同士がしっかり話し合って、自分たちで解決していく場です。

あいさん:
 大人の一方的な意見の押しつけや、誰かを糾弾するような雰囲気にはならないようにしています。そこで、話し合いのルールを子どもたちと私たちも含め、みんなで決めました。具体的には、好きなことを言っていい。人の話を遮らずに最後まで聞く。人の意見を否定しないなど、会のはじめに司会の子どもが、紙に書き出したものを読み上げます。
 子どもたちは自分たちで決めたことは守ろうとします。たとえば、掃除については今までに何度も話し合いを重ねました。「やりたい人がやればいい」「週1回でいいのでは」「早く来た人から担当場所を決める」「掃除場所一覧を作ろう」……何度もやり方を変えて今の「くじ引きで決める」ことで落ちつきました。今のところは掃除の決め方について不満は出ていませんが、今後またみんなで話し合い、やり方を変えていくかもしれません。
 子どもたちって、私たちでは思いつかないようなアイデアを持っていて、自分たちで解決していく能力を持ってるんですよね。安心して失敗できる場をつくってあげさえすれば、子どもたちは自分たちの力をどんどん発揮していきます。

  • 「子ども会議」に真摯に取り組む子どもたち

  • 「子ども会議」に真摯に取り組む子どもたち

「子ども会議」に真摯に取り組む子どもたち

同じ境遇の保護者同士が悩みを共有できる「おやカフェ」

令子さん:
 もう一つ、私たちが力を入れて取り組んでいる活動が、不登校などの子どもの子育てに悩む保護者同士が交流できる「おやカフェ」です。二部制で、明石拠点に通う子どもの保護者の部、そうではない保護者が参加できる部があります。
 子どもの不登校などに悩む保護者の方が安心して話せるような場は、増えてきてはいます。しかしインターネットで探してもなかなか情報が得られないケースが多いんです。おやカフェも第三の居場所と同じように、学校の先生やソーシャルワーカーの方が紹介してくれることがよくあります。
 ただ、学校に行けない日が増えてはいるものの、まだ完全に不登校にはなっていない子どもの保護者には、「うちはまだ不登校じゃないから」と避ける傾向にあるのが現在の課題です。実はその時期が一番、悩みも迷いもあって、しんどい時期ともいえるんです。そういうときに来てもらえれば、親が楽になることで、子どもも楽になるので、なんとか対応できないかなと方策を練っているところです。

  • 和やかに会話が弾む「おやカフェ」

  • 和やかに会話が弾む「おやカフェ」

和やかに会話が弾む「おやカフェ」

B&G財団からの運営支援でより強固な組織に

令子さん:
 明石拠点では、運営面でもB&G財団の支援を受けています。より充実した拠点運営を図るため、組織基盤強化支援と広報PR支援プログラムに参加しました。

あいさん:
 連携や情報共有の方法など、スタッフ同士の関係性を改善するアドバイスをいただけて、より風通しがよくなりました。スタッフの関係性は子どもへの向き合い方にも直結するので、とても重要な支援をしていただいています。

令子さん:
 組織としては、ビジョンやミッションを明確にすることができました。これまでは、「こういうことをしたいよね」「こうありたいよね」という共通認識はあったものの、明確ではない部分がありました。スタッフ同士が話し合う際にも、あるはずの共通認識がぼやけているので、話がまとまらなかったり、対立してしまったりしてうまく合意がとれない場面があったんです。

あいさん:
 今回、ビジョンやミッションをスタッフみんなで話し合って明確にできました。私たちは今、それをもって話し合いができる状態にあるので、ブレがとても小さくなっています。支援を受けたことで、まさに組織の基盤が強くなったなと実感しています。

  • 明石拠点で行われたワークショップの様子

  • 明石拠点で行われたワークショップの様子

明石拠点で行われたワークショップの様子

それぞれが自分らしく輝いて進んでいける「トロッコ」を目指して

令子さん:
 多くの人は「子どもは学校に行くべき、学校以外に行く場所がない」と考えていて、不登校になると子どもも親も追い詰められてしまいます。そういうときに、「学校が合わなければ他にも居場所があるよね」と考えることができれば気持ちがずいぶん楽になります。ここがその一つの選択肢になれるよう運営しています。

あいさん:
 子どもたちは、家庭でも保育園、幼稚園、学校でも、「大人には従うもの」と教えられて育ってきていると思うんです。でも本来は、子どもも大人も、人間としては同じですよね。頼ってくれていいし、困ったことがあれば相談に乗るけど、だからといって大人のほうが子どもより立場が上なわけではなく、大人の言うことに従わなくてもいい。ここ「第三の居場所」では、子どもたちに刷り込まれ固まってしまった規範をほぐしていけたらいいなと思います。

令子さん:
 子どもたちへの“まなざし”はすごく大事だと常日頃から感じています。大人が向けるまなざしがどんなものなのか、子どもたちは敏感に感じ取ります。この人は自分のことを評価しているとわかれば、緊張して本来の自分が出せなくなります。
 もちろん、学校などでは学習の評価なども必要なので、いたしかたない部分もあるかもしれません。でもここでは評価は取っ払って「あなたたちのことを信じているよ、あなたたちの自分らしさを守るよ」というまなざしを向けるようにしています。
 「あかしフリースペース☆トロッコ」という名には、「トロッコ」を一生懸命押している子もいる、乗っているだけの子もいる、いろんな子がいていいんだよという想いが込められています。子どもたちが自分らしく輝ける、そんな「第三の居場所」がつくれるよう、スタッフ一同、歩みを止めずに進んでいきたいと考えています。

さまざまな困難を抱える子どもたちが安心と自信を取り戻して、自分らしくいられるようにと優しいまなざしを向け続けている令子さん、あいさんの包容力がしみじみと感じられるインタビューでした。また、B&G財団からの運営支援も積極的に受けていただき、実際の運営の現場で活かしてくださっていることもお聞かせいただきました。ぜひ多くの拠点で支援を活用していただきたいと考えています。お気軽にお問い合わせください。

子ども第三の居場所の設置自治体を募集しています。ぜひ、お気軽にB&G財団 企画課(TEL:03-6402-5311 mail:kodomo@bgf.or.jp)までお問合せください。ご応募をお待ちしております。

2024年度「子ども第三の居場所」実施自治体を募集!

家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」。現在、全国162か所に設置され、全国への更なる開設を目指します。

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