事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

親子が安心して一緒に暮らせるように、
困難を抱える子どもも保護者もともにケアできる居場所づくりを
居場所ひより

2023.06.30 UP

日本財団助成事業

栃木県の南東部に位置する人口約1万5000人の町、芳賀町。2022年4月、子ども第三の居場所「居場所ひより(以下、芳賀拠点)」がオープンしました。
 拠点を運営するNPO法人「Hinata」の理事長・酒井和夫氏は、長く児童委員や里親活動に携わってきました。「困難を抱える地域の子どもたちを支援したい」という思いを形にすべく、新たにNPOを立ち上げて拠点を運営することを決めたという酒井さん。里親とはまた異なる「第三の居場所」の役割について、同じく里親活動の経験の長い鈴木明美マネージャーも迎えてお話を伺いました。

子ども第三の居場所「居場所ひより」

困難を抱える子どもの支援に里親仲間が立ち上がった、子どもの居場所づくり

酒井和夫さん(以下、酒井さん):
 私のうちでは親の代から里親活動をしていました。もともとは戦争孤児の支援から始まったようです。
今、拠点でマネージャーを務める鈴木さんも含め、ここ「居場所ひより」のスタッフは半分くらいが里親仲間なんです。

ある日我が家で、私と女房と鈴木さん、それから芳賀町の担当職員とで里親のことを話していたんですが、その際に、地域で困難を抱える子どもの居場所が必要だという話になりまして。それがきっかけになって居場所づくりの話が動き出し、B&G財団の支援も受けて拠点を立ち上げることになりました。

NPO法人「Hinata」理事長 酒井和夫さん

NPO法人「Hinata」理事長 酒井和夫さん

 芳賀拠点は1500m2を超える大きな敷地に、多目的室や和室、テラス、庭なども配置して、居心地の良い環境で学びや遊びを経験できるような場所になっています。ゆったりとしたキッチンや食堂は、大人と子どもが一緒に調理や配膳ができます。ここで健康的な生活習慣を身につけられるように、トイレやバスルーム、サニタリーも設けました。

芳賀拠点 マネージャー 鈴木明美さん

芳賀拠点 マネージャー 鈴木明美さん

鈴木明美さん(以下、鈴木さん):
 芳賀町には3つの小学校があり、そのうち2つの小学校から子どもが通っています。私たちスタッフが学校まで迎えに行き、担任の先生と少し話をしてから、拠点に戻ってきます。みんなでおやつを食べて宿題をし、その後は自由に過ごして、夕方からは希望者は5時から順番にお風呂に入ります。6時からみんなで夕食を食べ、後片付けをしながら徐々に自宅まで送り届けます。

 送迎は時間がかかりますが、どうにか工夫して私たちスタッフが行くようにしています。ボランティアさんにお願いしたほうが私たちの仕事は進むわけですが、自宅に送り届けた時が保護者の方と毎日話せる唯一の接点になるので、その時間を大切にしたいんですね。子ども以上に保護者のほうが、信頼関係をつくっていくには時間がかかりますから。

酒井さん:
 今日はこうだった、ああだった、と短い時間でも毎日話をすることで、最初はよそよそしかった保護者の方も、だんだん気持ちがほぐれてきます。朝はこんな様子でした、と親御さんのほうから話をしてくれるようになって。

鈴木さん:
 そうやって少しずつ打ち解けていけば、やがて悩みを打ち明けてもらえるようにもなります。ときには、療育の病院に通うのが不安だという保護者の方に同行することもあります。保護者の方とはチャットアプリの連絡先を交換して、普段から気軽にやりとりできるようにもしています。

酒井さん:
 「子ども第三の居場所」は困難を抱える子どもを支援する場ですが、子どもだけでなく保護者にも一緒に関わっていかないと、状況を変えていくことは難しいと思います。送迎や保護者とのやり取りでスタッフは忙しくなってしまいますが、「子どものためになることだったらやらないといけないよね」と、スタッフ同士でなんとか時間をやりくりして対応しています。

地域の協力を得て野球選手のエスコートなど貴重な体験活動も

酒井さん:
 ここ芳賀拠点では、子どもたちが落ち着いて日常生活を過ごせるようサポートするとともに、さまざまな体験活動を通じて、子どもたちが社会とかかわる機会を増やすようにしています。
 夏には流しそうめん、冬にはクリスマス会など、季節ごとに行事を開催して調理など新しいチャレンジもできるようにしています。また、地域の皆さんの協力も得て、消防署の方たちと餅つきをしたり、地元企業の招待で野球観戦をさせてもらったりしました。野球観戦だけでなく、スタメン選手をエスコートするなどの貴重な体験もさせてもらい、子どもたちは目を輝かせていました。
 私自身が消防団で活動をしてきたこと、農業に長く携わってきた中でできたさまざまな地元の繋がりがあります。それを活かして、子どもたちのためにいろいろな体験活動を企画しています。また活動を通じて地域の方にも芳賀拠点のことを知ってもらえたらいいなと考えています。

  • 夏の恒例行事 流しそうめん

    夏の恒例行事 流しそうめん

  • 野球観戦で選手へのエスコート体験

    野球観戦で選手へのエスコート体験

親子が離ればなれになってしまう前に、支えられる場所になりたい。

鈴木さん:
 私たち里親は、いろいろな事情で親と一緒に暮らせなくなった子どもを受け入れます。でも、状況によっては第三の居場所のような機能が支援をすることで、親子が離れることなく一緒に暮らし続けることもできると思うんです。芳賀拠点では、そういう支援をしていきたいですね。

酒井さん:
 自分の子どもを自分で育てるのは当たり前の話かもしれません。でも、その中でも苦しいとき、少し離れる時間がほしいときもありますよね。そういうときにここに来てもらえれば、子どもも安心して過ごせるし、親御さんもいくらか気持ちにゆとりができます。仕事をしている時間に預かるだけであれば学童クラブでもいいのですが、そういった親子の心のケアまでするのが、「第三の居場所」の役割なんじゃないかと思うんです。
 今後は、地域の年配の方々が畑で作ったものを子どもたちと一緒に食べたり、ここに来て子どもたちと遊んだりもできるようにしていきたいと考えてします。地域のみんなで、子どもたちを育てていくのが理想ですね。

 里親活動を通じて子どもの支援を長く続けてきた酒井さんと鈴木さんが、子どもの幸せを最優先にして拠点運営に奮闘していることがひしひしと伝わってくるインタビューでした。また地元に根づいて農業を営んできた酒井さんの尽力によって、子どもたちにとって貴重な体験活動が実現しています。地域と拠点を繋ぐ活動のありかたについても、お話を通じて多くの学びをいただきました。

  • 真岡鐡道にゆられての遠足

    真岡鐡道にゆられての遠足

  • ミニ縁日の開催で楽しむ子どもたち

    ミニ縁日の開催で楽しむ子どもたち

子ども第三の居場所の設置自治体を募集しています。ぜひ、お気軽にB&G財団 企画課(TEL:03-6402-5311 mail:kodomo@bgf.or.jp)までお問合せください。ご応募をお待ちしております。

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家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」。現在、全国162か所に設置され、全国への更なる開設を目指します。

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