事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

「相談は、待っていても来ない」
親と子をともに支援するためのつながりづくりに注力する嵐山拠点の取り組み

2022.10.06 UP

日本財団助成事業

B&G財団は、子どもたちが安心して過ごせる環境で、自己肯定感、人や社会と関わる力、生活習慣、学習習慣など、将来の自立に向けて生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」事業を全国各地で展開しています。拠点ごとの特色を活かしながら子ども第三の居場所では、拠点を利用する子どもたちが、社会へはばたく「その時」を見据えながら様々な機会を提供し、子どもたちの自立に向けて支援を行っています。
 今回紹介する拠点は、埼玉県のほぼ中央に位置するb&gらんざん(嵐山町)。2019年4月から運営を行い、B&G財団の助成金が終了した2022年4月からは、町で予算を確保し運営を継続しています。今回は拠点の立ち上げから尽力してきた、嵐山町福祉課の前田さんに拠点の活動や運営のポイントについてお話を伺いました。

埼玉県のほぼ中央に位置する嵐山町(らんざんまち)。「子ども家庭支援センター b&gらんざん(以下、b&gらんざん)」は、2019年4月、埼玉県内3か所目の「子ども第三の居場所」拠点としてオープンしました。

嵐山町子ども家庭支援センター b&gらんざんの前に立つ担当の前田氏

嵐山町子ども家庭支援センター b&gらんざんの前に立つ担当の前田氏

「子どもを預かる施設」ではなく「家庭を支援する施設」へ

「b&gらんざん」は自治体の直営でスタートし、B&G財団の助成期間が終了した2022年4月からは町で予算を確保し運営を継続しています。開設当初からこの拠点を担当しているのが、嵐山町福祉課の前田宗利さんです。
 福祉の業務に携わる中で前田さんは、子どもが抱える困難の背景には家庭環境が大きくかかわっていると痛感してきました。そのため「b&gらんざん」を開設するにあたっては、子どもを見るだけでなく、保護者も含めて家庭をまるごと支援する場にすることを決めたといいます。
 「子どもが困りごとを抱えている場合、その原因が家庭環境による場合が多々あります。単にお子さんを預かるというスタンスではなく、保護者の相談も受ける、話を聞ける体制をつくることにしました」

埼玉県嵐山町福祉課 前田氏

埼玉県嵐山町福祉課 前田氏

親子体験活動を通じて支援が必要な家庭とつながる

今日はみんなで、絵の描き方を学んでいます

今日はみんなで、絵の描き方を学んでいます

小学校1〜3年生の子どもを主な対象とした「b&gらんざん」。自治体直営のため、児童福祉セクションや学校との連携も密にとることができます。母子保健の担当者には就学前から支援が必要と思われる子ども、学校からは学校生活で気になることが出てきた子どもの情報をキャッチするなどして、拠点での支援につなげています。
 しかし、支援が必要な家庭とつながるにはそれだけでは不十分だと、前田さんは言います。

「相談は、待っていても来ないんですよ。相談するほうからしたら、ハードルが高いものなんです。たとえこちらからアプローチしたとしても『いいえ、うちはいいです、大丈夫です』と尻込みされてしまうことも少なくありません。だから、“相談”のハードルを下げるような場をつくることにしました」
 それが、2019年から実施している親子体験活動です。地域の有志の方の協力で畑などを提供してもらい、茶摘みや栗拾い、さつまいも堀りなど、親子で楽しめる体験企画を実施しています。

親子体験活動
  • 親子で一緒に新茶摘み(5月)

    親子で一緒に新茶摘み(5月)

  • 親子で一緒に栗拾い(9月)

    親子で一緒に栗拾い(9月)

  • 5月に植えたさつまいも掘り(11月)

    5月に植えたさつまいも掘り(11月)

嵐山町のすべての小学校で告知をして参加を募集。オープン参加形式をとることで、気軽に参加できる雰囲気をつくります。

  • 茶摘み体験活動の募集チラシ

    茶摘み体験活動の募集チラシ

  • 栗ひろい体験活動の募集チラシ

    栗ひろい体験活動の募集チラシ

親子体験活動を行うには、大きく二つのメリットがあります。まず一つは、どのような支援が必要なのかを知るために、子どもを見るだけでなく、親子が一緒にいる様子を見ることで、その親子の関係性を知ることができます。
 そして二つ目は、イベントに来てもらうことで支援員と顔見知りになり、保護者が相談しやすい関係性(信頼関係)をつくっていけることです。
 「顔を合わせる機会を増やすことで、私たちの活動への理解も深まります。今では保護者同士のクチコミで、いろいろ相談できる場所だと噂が広がり、自分から相談に来てくださる方も増えたんですよ」

自治体運営での「予算」と「人」の課題を乗り越えるには

「b&gらんざん」は自治体直営でスタートしたこともあり、自治体内での運営については比較的スムーズに取り組みが進んだといえます。自立移行した2022年度がスタートした今、「子ども第三の居場所」拠点を継続していくにあたっての課題は「予算」と「人材」だと前田さんはいいます。
 「財団からの助成が終了し、完全に自治体運営として自走しはじめた2022年度、人件費と基本的な施設運営の費用は予算として確保しました。今後、活動の継続・拡大を図るためには、国からの補助金も活用しようと考えています。こども家庭庁の設立や、2024年には児童福祉法が改正されるなど、子どもの居場所にまつわる国の動きは今、活発になっています。そういった動きも見ながら、合致する補助金を申請していく予定です」
 そして「人材」は、対人支援では要となる存在。高度な専門性と経験をもつ人材の確保が不可欠だと前田さんは考えています。
 「開設当初から共に運営に携わってきた拠点のマネージャーは、信頼できるスタッフの存在としてとても心強いものでした。長年にわたりスクールソーシャルワーカーとして嵐山町の子どもたちを見てきた経験とその知識は、嵐山拠点の運営にはなくてはならない人材でした。こうした知識と経験を備えた人材の存在こそが嵐山拠点の今を支えています」

人と人とのつながりを通じて、子どもは成長する

居場所づくりの肝はとにかく「人」だ、と何度も繰り返してお話してくださった前田さん。子どもが安心していられる場であるためには、支援員と子ども、そして保護者との間の信頼関係が土台となります。そして、多くの体験を通じて、子どもたちを成長させるもの。それは体験そのものではなく、体験を通じた人と人とのかかわりなのだと、前田さんは言います。

風船を使って子どもたちと室内バレーボール大会

風船を使って子どもたちと室内バレーボール大会

去る7月、「B&G海洋体験ツアー in 沖縄」に嵐山拠点から参加したMちゃん。
 帰ってきてからのMちゃんを見て、前田さんは「内気な子だったが、だいぶ変わったな、自分のことを話すようになったな」と感銘を受けたそうです。

参考記事

「B&G海洋体験ツアー in 沖縄」(A行程)を開催!
酒井法子さんが同行「B&G海洋体験ツアー in 沖縄」(B行程)を開催!

  • 沖縄の伝統的な船「サバニ」。「サーハイ、サーハイ」の掛け声に合わせてサバニを漕ぎました

    沖縄の伝統的な船「サバニ」。「サーハイ、サーハイ」の掛け声に合わせてサバニを漕ぎました

  • 沖縄美ら海水族館では大型水槽の前でジンベイザメと記念写真を撮りました

    沖縄美ら海水族館では大型水槽の前でジンベイザメと記念写真を撮りました

「子どもたちや支援員と何日も寝食をともにして過ごすうち、周りの人間から影響を受けるんです。子どもも支援員も、笑ったり怒ったり、泣いたりする。それを見て、感じることで、その子も変わっていくんです。だからこそ、支援員は人間性が豊かな人じゃないと。居場所づくりの成功は、支援員さんの人間性が一番のポイントだと思っているんですよ」
 自己肯定感や、社会や人と関わる力「非認知能力」を養い、生き抜く力を身につけるには、小学校低学年は非常に重要な時期です。前田さんは、この時期の子どもたちに安心できる居場所をつくり、生き抜く力を育むことは、子どもたち自身の未来、そして社会の未来に対する“投資”だと考えています。

「低学年のうちに社会に入っていけるスキルを身につけることができれば、将来自立して生きていける大人になる。それは社会保障の面で見ても大きな効果になるわけです。もちろん本人にとっても、自立して自由に、楽しく生きることができる幸せにつながる。そういう長い目で見て、『子ども第三の居場所』の運営を継続していきたいと考えています」

現在、2023年度「子ども第三の居場所」新規開設自治体を募集中です。子ども第三の居場所について、“詳しく知りたい”、“設置を検討したい”という方は、お気軽にB&G財団 企画課(TEL:03-6402-5311 mail:kikaku@bgf.or.jp)までお問合せください。ご応募をお待ちしております。

2023年度「子ども第三の居場所」実施自治体を募集!

子ども第三の居場所は、子どもたちが安心して過ごせる環境で、自己肯定感、人や社会と関わる力、生活習慣、学習習慣など、将来の自立に向けて生き抜く力を育む事業です。
現在日本財団と協力し、2025年までに全国500拠点開設を目指し事業を拡大しています。

 

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