事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

生まれてから大人になるまで、地域コミュニティとともに育ちあっていく居場所へ
子ども第三の居場所「b&gなぎ」を支える自治体・拠点・関係機関の関係づくりとは?

2023.02.09 UP

日本財団助成事業

岡山県の北東部、鳥取県との県境にある町、奈義町。69.52平方km、2022年6月現在の人口は5700人の小さな自治体です。奈義町は2014年、合計特殊出生率が2.81と非常に高くなり、脚光を浴びた地域。子育て支援策に力を入れている自治体として知られています。
 2007年、産前から、小学校に上がる前くらいまでの子どもをもつ家庭の子育て支援を行う子育て支援施設「なぎチャイルドホーム」がオープンしました。2020年10月には、「なぎチャイルドホーム」に併設して、B&G財団の助成により子ども第三の居場所「b&gなぎ」(以下「b&gなぎ」)が開設されました。児童の受け入れ範囲が就学前児童から小中学生まで広がり、親子の生活や学習の支援ができるような子育て支援施設として、役割の幅も一層広がっています。

奈義拠点写真

今回は、奈義町こども・長寿課の立石奈緒子さん、「b&gなぎ」の拠点マネージャーを務める貝原博子さんのお二人に、関係機関の連携、そして保護者との信頼関係をベースに築いてきた“地域ぐるみの子どもの居場所づくり”ついてお話を伺いました。

子どもが小さい頃から関係性を築き、包括的に支援

b&gなぎ拠点マネージャー 貝原 博子さん(左)奈義町こども・長寿課 立石奈緒子さん(右)

b&gなぎ拠点マネージャー 貝原 博子さん(左)奈義町こども・長寿課 立石奈緒子さん(右)

貝原博子さん(以下、貝原さん):
奈義町には、幼稚園が2園、保育園が1園、小学校と中学校はそれぞれ1校しかありません。小規模な自治体なので、子育て支援機関も用途に応じてあちこちに分かれるようなことはなく、「なぎチャイルドホーム」に集中しています。
 「b&gなぎ」は「なぎチャイルドホーム」で培ってきた子育て世帯との信頼関係がベースにあるのが特長です。子どもが小さな頃からなにかと接点があるので、困りごとに気づきやすく、支援につなげやすいというのは大きな利点ですね。

b&gなぎ拠点マネージャー 貝原 博子さん

b&gなぎ拠点マネージャー 貝原 博子さん

奈義町こども・長寿課 立石奈緒子さん

奈義町こども・長寿課 立石奈緒子さん

立石奈緒子さん(以下、立石さん):
私は保健師を務めていることもあり、産前・産後のケアから、お母さんのこともお子さんのことも知っているケースが多いんですね。“子ども第三の居場所”につなげるにも、長くご家庭を見守っている中で、信頼関係をつくりながら丁寧に対応していくことを大切にしています。

貝原さん:
私たちの支援の方針は、“誰でも利用できる子どもの居場所づくり”。「なぎチャイルドホーム」で培ってきた子育て支援体制に、“子ども第三の居場所”の機能が加わって、開かれたコミュニティの中で安心して過ごせるのが「b&gなぎ」のいいところだと考えています。

子ども達と一緒に活動している貝原さん

子ども達と一緒に活動している貝原さん

気になることがあれば当たり前のように相談
現場と自治体の密な連携により、地域ぐるみで支援する

貝原さん:
拠点運営は、自治体の主管部署と、そして学校や教育委員会など関係機関との連携なくしては成り立ちません。
 子どもたちと日々接しているものの、拠点では見せない顔、学校での様子や、親御さんが置かれている環境の把握については、私たちの管轄ではありません。でも、子どもの姿には、そういった背景すべてがつながっているものです。
 ですから、何か気になることがあればなんでも立石さんに話をします。町内には保健師が3名おり、立石さんがその一人として子育て世帯の状況を自らの目で見てよくご存知です。家庭の状況も共有しながら、一緒に子どもの支援について考えています。連携といっても自然にやっていることなので、ことさらに意識しているものでもないですね。

立石さん:
でも思い出してみれば、「なぎチャイルドホーム」開設当初は、貝原さんたちと定期的にミーティングの時間を持ち、子どもや保護者に関して情報共有するようにしていました。“互いに顔の見える関係づくり”をしてきたからこそ、今、気軽に「今日こんなことがあってね……」と連絡を取り合えるようになったのだなと、改めて思います。やはり立ち上げの時期には、情報共有と連携を図る時間をしっかり設けることをおすすめします。

貝原さん:
同じ子育て中の保護者や地域の方々も子どもたちをよく見守ってくださっていて、心配なことがあれば私たちに話してくださいます。教育機関や支援の現場の人間だけでなく、地域ぐるみで子どもたちを見守っている状況です。

立石さん:
見守ってもらえる場所がたくさんあるのは、子どもが育つ上でとても大切なことです。それぞれの視点で役割分担をしながら、多様な職種の方たちで連携して一緒に困りごとを解決していく。自治体はその連携をつくっていく役割を担っているともいえます。自治体運営とはいっても、こちらの指示で動いてもらうというより、「b&gなぎ」のスタッフの方々が現場をしっかりつくっているところに、陰ながら伴走しているという感覚ですね。

地域ぐるみでの役割の中で子育て支援を運営する「b&gなぎ」

“子ども第三の居場所”開設によりスタートした「親の会」
奈義町の子どもたちにとって、大きくなっても安心できる“居場所”でありたい

立石さん:
「なぎチャイルドホーム」に“子ども第三の居場所”が加わったことで、新しい事業も立ち上がりました。小学生、中学生も利用対象になったことで、不登校児の親の会がスタートしています。

貝原さん:
以前から「なぎチャイルドホーム」に通う幼児を抱える保護者から、「上のきょうだいが、こんなことがあって学校に行けてなくて……」と話を聞くような場面はしばしばあったんです。そういうときに私たちができることは具体的にはなくて。「b&gなぎ」ができてからは、「学校に行けない日は、ちょっと“居場所”のほうに来てみる?」と声をかけることができるようになりました。困りごとに対してアクションをかけられるようになり、そこから地域の他の機関につなげることもできます。
 もちろん学校ではスクールカウンセラーもいますし、不登校の対応もしています。でも子どもも保護者も、改まって相談日に行くことを躊躇したり、「自分のことなんかで……」と遠慮していることもあるんです。そんな中、小さい頃からよく知っている私たちには、ポロッと本音をつぶやくことがあって。それを私たちが拾って、必要なら各機関につなげていくことができます。
 そうやって、学校など限られた場所だけでなく、“地域ぐるみ”で子どもたちを支える活動が、“子ども第三の居場所”ができたことで、一層やりやすくなったと感じています。

立石さん:
子どもたちが成長して、やがて社会に出て働いて生きていける力を育むのが、私たちの役割です。一方で、子どもたちが大きくなったときに、ふと「あのおばちゃん、元気かな」なんていって帰ってこられる場所でもありたいですね。

料理教室の運営を手伝う立石さん(右から3番目)

料理教室の運営を手伝う立石さん(右から3番目)

貝原さん:
そうですね。奈義町を出て自分の生活をしていく子、また奈義町に戻ってくる子、そしてずっと奈義町で暮らしていく子、さまざまだと思います。どんな子でも、大きくなってもいつでも帰ってきて安心できる。そんな“居場所”であったらいいなと願いながら、日々子育て支援に取り組んでいます。
 保健師として、奈義町で暮らす親子を長い時間をかけて見守り続ける立石さん。「私は貝原さんたちの後ろにくっついていくだけです」と微笑んでお話されていましたが、貝原さんが立石さんの目を信頼し、相談をしながら子育て支援に取り組んでいるのが伝わってきます。その貝原さんも「なぎチャイルドホーム」や「b&gなぎ」の中だけでなく、子どもたちの遊び場に出向いて子どもたちの様子を見たり、地域の方々や保護者との対話を重ねたりと、外につながる活動を行っています。ここ奈義町では、町全体がゆるやかにつながりながら、子どもたちの成長を見守っています。

現在、2023年度「子ども第三の居場所」新規開設自治体を募集中です。ぜひ、お気軽にB&G財団 企画課(TEL:03-6402-5311 mail:kikaku@bgf.or.jp)までお問合せください。ご応募をお待ちしております。

2023年度「子ども第三の居場所」実施自治体を募集!

家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」。2025年度までに全国500ヵ所の設置を目指します。

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