事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

“支援者”というよりも“子どもの仲間”として共に過ごしている
第三の居場所だからこそ重ねていける、「体験」のありかたとは

2023.03.14 UP

日本財団助成事業

東神楽町は北海道のほぼ中央に位置し、旭川に隣接する人口1万人ほどの町です。道内に5番目に面積の小さい町ですが、子どもの割合は全道一高く、「北の子ども王国・東神楽」と呼ばれるほど、子育て支援や教育の充実に力を入れている自治体として知られます。

「子ども第三の居場所」常設ケアモデルとして、2019年6月に中央拠点、同年8月に東聖・ひじり野拠点が開設されました。マネージャーを務めるのは、ともに教員のキャリアを長く重ねてきた人物。東聖・ひじり野拠点マネージャーで、校長職まで務めた稲垣克男さん。中央拠点マネージャーで、特別支援学校を中心に教員を27年間務めてきた小林孝之さんに、子ども第三の居場所ならではの支援のありかたについて、お話を伺いました。

ひじり野拠点拠点の風景

教員生活を離れた後、再び子どもの成長を見守る仕事をと、“子ども第三の居場所”へ

稲垣克男さん(以下、稲垣さん):
 私は学校を退職後、学校教育に関わるアドバイザーをしていました。特に学校運営に関わる仕事だったのですが、小学校でのTT(ティームティーチング)を通して、さらに子どもの成長を見守るような仕事がしたいなと思うようになりまして。そこに東聖・ひじり野拠点のマネージャー職のお話をいただいた次第です。

東聖・ひじり野拠点マネージャー 稲垣克男さん

東聖・ひじり野拠点マネージャー 稲垣克男さん

中央拠点マネージャー 小林孝之さん

中央拠点マネージャー 小林孝之さん

小林孝之さん(以下、小林さん):
 私は2018年に北海道に移住してきました。その前は千葉県で27年間、教員をやっておりまして、その大半は特別支援学校で過ごしてきました。北海道に移住してきて半年間は、農作業など北海道らしい仕事をしていたのですが、子どもとの触れ合いがなくなってしまったのがなんだか寂しくなってしまって。それで、中央拠点が開設される前からあった学童クラブに勤めるようになり、再び子どもたちと関わる仕事に戻ってきました。

家庭でも学校でもない“第三の居場所”だからこそできる、体験の機会を

稲垣さん:
 家庭とも学校とも違う、この“子ども第三の居場所”で支援をするにあたり、私が考えているのは、子どもたちにはこの場所で成長してほしい、ということです。安心して過ごせる居場所であることは大切ですが、その上で、無目的にただ居るのではなく、自らの成長を実感してほしいんですね。
 町内外の施設を利用した体験活動や創作活動を重視して行っているのも、そのためです。子どもたちは、具体的な体験や事物との関わりで感動したり驚いたりしながら、「なぜ?どうして?」と考えを深め、生活や社会、自然のありかたを学んでいきます。そしてそこで得た知識や考え方を基に、実生活のさまざまな課題に取り組み、よりよい生活を創りだしていくことができるようになります。

体験活動・創作活動の様子

小林さん:
 私が運営していくにあたって意識しているのは、拠点の仲間、あるいは私や職員と一緒にいるからこそできる体験を重ねていくことです。
 親御さんは本当だったらやらせてあげたいことも、自分も仕事を抱えて時間が足りない中、存分にやらせてあげられない場合があります。一方、学校では集団指導の中で、個人にかけられる支援の手厚さにも限界があります。

そうやって見送らざるを得なかった体験を、学校や家庭と連携をとりながら、ここ“第三の居場所”ではできるようにするというのが私たちの役割だと考えています。
 先日は外部活動としてみんなでスキーに行きました。学校であればおそらく能力別に分けて、下の方で滑る子、中腹で滑る子、上まで行ってガンガン滑る子と、分けざるを得ないと思うのですが、もう私たちは全員上まで行っちゃおう、と。怖いなら一緒に滑ってあげるから、と寄り添うことができます。

スキー教室に参加する子ども達

スキー教室に参加する子ども達

稲垣さん:
 体験を通して、失敗を恐れず、やり遂げる充実感や満足感を膨らませてあげたいと思っています。それには子ども同士、仲間として体験を分かち合うことも大切なことです。
 スキー場での出来事ですが、普段は子ども同士で喧嘩をしているような子が、足がすくんで滑り降りることのできない子のところにさっと行って励ましたり、滑り方を教えたりしているんです。意外な一面を見ましたが、嬉しく思いました。そうやってさまざまな場面で体験を重ねることで、決して一面的ではない子どもたちの姿も見えてきますね。

小林さん:
 また、同じ活動を繰り返すことでも、子どもの成長はよく見えるんですよ。調理活動を毎月1、2回は行うようにしているのですが、最初のうちは、一つひとつの工程ごとにつきっきりで教えなければ先に進めませんでした。ところが回を重ねるにつれて、今では「今日はこれをつくるよ」と言えば、食材の切り方も自分たちで考えてやれますし、道具も指示されなくても用意ができます。主体的にできることが増えてくると、それが自信の土台になるんですね。

教え導くのではなく「ともに活動する仲間」として子どもと関わる。

稲垣さん:
 学校の教員をしていましたが、学校教育の場でも、第三の居場所でも、基本姿勢は変わらないですね。とにかく「子どもに寄り添う」ということ。子どもたちができなかったことができるようになる(成長)のを見るのが何よりの喜びです。
 先日は、拠点で揃えてきた本を使って読書発表会を開催しました。最初は本を読むだけで苦痛を感じていた子が、順序を踏むことによって最終的に堂々と発表しているようすを見て、子どもの成長した姿を実感するとともに、やって良かったなとしみじみ感じましたね。

小林さん:
 特別支援学校に勤めていた頃、私が当時の校長から教わったのは「ともに活動しながらの支援」という関わり方でした。私たちは、教員という「教え導く者」ではなく「ともに活動する仲間」なんだと。以来、ずっとその言葉を念頭において活動をしてきました。
 「子ども第三の居場所」では、いっそうその言葉を強く感じています。楽しむ時は一緒に楽しむし、なんなら子どもたちよりも俺のほうが楽しんでやるぞっていうような気持ちでいます(笑)。やんちゃをしたら本気で怒りますし、友だちを傷つけるようなことならさらに真剣に、本当にそれはダメなことなんだと伝えます。
 今、「子ども第三の居場所」では、教員時代よりもさらに、子どもたちと近いところにいられる感覚ですね。この感覚を大切にしながら、これからも子どもたちと過ごしていきたいと思っています。

  • 東聖・ひじり野拠点普段の様子

  • 東聖・ひじり野拠点普段の様子

東聖・ひじり野拠点普段の様子

学校教員として長く子どもたちに関わってきた稲垣さん、小林さん。子どもたちに寄り添うという思いは教員時代からずっと変わらず持ち続けながら、子どもの成長を促す「子ども第三の居場所」ならではの機会創出を図り、創意工夫をもって運営に取り組んでいる姿勢に、学ぶところが多いインタビューでした。

現在、2023年度「子ども第三の居場所」新規開設自治体を募集中です。ぜひ、お気軽にB&G財団 企画課(TEL:03-6402-5311 mail:kikaku@bgf.or.jp)までお問合せください。ご応募をお待ちしております。

2023年度「子ども第三の居場所」実施自治体を募集!

家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」。現在、全国146か所設置され、全国への更なる開設を目指しています。

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