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男鹿市・地域農業振興ビジョンの挑戦(秋田県男鹿市)
2026年03月09日 更新
男鹿市・地域農業振興ビジョンの挑戦(秋田県男鹿市)
2026年03月09日 更新
米価は下がり続けた。コロナ禍で需要は落ち込み、肥料も飼料も生産資材も値上がりした。追い打ちをかけるように、豪雨や猛暑が田畑を襲った。
男鹿市。秋田県のほぼ中央に位置し、日本海に突き出た半島のまちで、農業は静かに追い詰められていた。
「このままでは、農地も、景観も、文化も失われてしまう」
危機感が広がる中、市が打ち出したのが「男鹿市地域農業振興ビジョン~次世代につなげる男鹿の農業~」である。それは単なる農政計画ではなかった。地域の未来をかけた、再生への設計図であった。
崩れゆく基盤
男鹿市の農業は、長らくコメを中心に成り立ってきた。しかし市場環境の変化は、単一構造の脆さをあらわにした。農業就業人口は減り、高齢化は進む。担い手は足りない。耕作放棄地は目に見えて増え始めていた。
だが農業は、単なる産業ではない。田畑は景観をつくり、農村は文化を育み、食は暮らしを支える。なまはげに象徴される地域文化もまた、この風土の上に築かれてきた。農業が揺らげば、自治体の土台そのものが揺らぐ。それが男鹿市の結論であった。
三つの突破口
ビジョンには三つのキーワードを掲げた。それは守りではなく、攻めの改革であった。
(1)産地づくり
コメ偏重からの脱却。若美メロン、男鹿梨、キク、ネギ。既存のブランドを磨き上げるとともに、タマネギなど新たな産地化に挑む。目標は戦略作物生産額13億円を目標。単品依存から複合型へ。農業の体質改善である。
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若美メロン
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男鹿梨
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菊(施設栽培)
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スナップエンドウ
(2)法人化
急減する担い手。個人経営の限界を乗り越えるため、経営の法人化を進める。若者が参入できる環境を整え、経営基盤を強化する。農業を、より持続可能で安定した経営体へと発展させていく試みである。
(3)ほ場整備
大区画化、暗渠排水。効率化なくして未来はない。特に基盤整備が遅れてきた旧男鹿地区については、ほ場の大区画化や排水対策を進め、生産環境の改善を図る。その上で、スマート農業や複合経営への転換を後押ししていく。
効率化と環境保全の両輪
市はさらに踏み込む。
スマート農機の導入、多収性品種の活用、乾田直播栽培の実証。新しい稲作スタイルを確立し、生産性向上を図る。
一方で、環境負荷軽減型農業にも挑む。生産性と環境配慮。その両立こそが、これからの農業の条件である。日本型直接支払制度も活用し、農地や水路を守る活動を支援する。中山間地域の農業を支え、耕作放棄地を減らす。それは観光地・男鹿の景観を守ることにもつながる。
農業が生み出す好循環
農業が動けば、地域経済が動く。
パックご飯の製造や、メロン・梨の加工販売が広がれば、その効果は農業の枠を超えていく。育てるだけでなく、加工し、売り、届けるところまで地域で担うことで、製造業や小売業にも仕事が生まれる。
直売所やふるさと納税、地元宿泊施設への供給といった販路が重なれば、農業と観光も自然につながる。畑で育った作物が土産物となり、食卓に並び、旅の記憶の一部になる。そこに地域内の新たな循環が生まれる。
そして、農地が守られることは、里山や里海の風景を守ることでもある。整えられた田畑や農道、水路の積み重ねが、男鹿らしい景観を形づくっていく。
それは経済効果にとどまらない。次世代への確かな贈り物である。
未来を耕す人々
だが、計画だけでは未来は変わらない。鍵を握るのは、やはり人である。
農業者一人ひとりの挑戦があり、関係団体との粘り強い連携があり、さらに市民の理解と参画が重なって、はじめて動き出す。
農作業体験や食育活動を通じて農に触れる機会を広げ、農村を「市民共有の空間」として守り育てていくことが求められている。
農業は、生産の現場であると同時に、学びと文化の舞台でもある。
男鹿市農林水産課の職員はこう語る。
農業は単なる食料生産の手段ではなく、地域の存立基盤として捉えている。農業を生かすことで、男鹿の美しい景観もなまはげに代表される伝統文化も守ることができる。農業振興は男鹿市という自治体の形を維持するための最優先事項であり、農業は、男鹿市の存立基盤である。
その言葉には覚悟がにじむ。農業を守ることは、景観を守ること。文化を守ること。自治体の未来を守ることである。
厳しい時代にあっても、男鹿市は立ち止まらない。変化に耐え、変化を取り込みながら、前へ進む。土を耕し、未来を耕す。
男鹿市の挑戦は、始まったばかりだ。
「地方創生ブレイクスルー」は、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。