地域の課題解決 先進事例の収集と発信

鹿児島県の北西部に位置し、東シナ海の豊かな海岸線や山々に恵まれた阿久根市は、「食のまち」として知られている。このまちで毎年秋に開催される、70年以上続く伝統行事がある。
  この行事は、50歳という人生の節目を迎えた市内小学校の卒業生が全国各地から母校に集い、運動会に参加する「華の50歳組」である。全国的にも類を見ないこの取り組みは、地域の歴史と人々の絆を今に伝える大切な文化となっている。

その始まりは1951年。当時50歳を迎えた数名の男性たちが、若き日の徒競走の思い出話をきっかけに、「今こそ決着をつけよう」と阿久根小学校の校長に運動会で50歳の競走種目を設けるよう願い出たことが始まりとされている。
  もうひとつの説としては、この年に天皇陛下が50歳を迎えられたことに触発された同世代の人々が何かスポーツに挑もうと立ち上がったとも伝えられる。
  いずれにせよ、阿久根市民の負けず嫌いの気質が原動力となり、この特別な伝統が生まれた。

現在、市内の全小学校で開催され、それぞれ実行委員が組織され、1年前から綿密な準備が始まる。競技内容は在校生とのリレー対決や50歳組だけのリレー対決など、各校により異なり、綱引きや玉入れ種目に子どもたちに交じって参加する学校もあり、さまざまな形で交流が生まれている。子どもたちにとっても、母校愛や郷土愛を育む貴重な機会となっている。

また、市では対象者への案内状の送付やゼッケンの配布などをサポートし、市をあげて取り組む一大イベントとして、阿久根の秋の風物詩となっている。

  参加者は「温かく迎えられて感激した」「6年生だった頃の気持ちで走る緊張と喜びを味わった」「高齢の母に走る姿を見せられて誇りに思う」と語る。在校生からも「自分もいつか50歳でこの場に立つのが楽しみ」と未来への期待が寄せられている。 実行委員は「いつでも帰ってきてほしい」と声を揃え、地域の誇りと一体感を生み出すこの行事が世代を超えた絆を育む場であることを実感している。

市内小学校の統廃合が進む中、休校や廃校となった学校の扱いが課題となっている。それでも、関係者は一丸となってそれぞれの意思を尊重しながら、事業の継続に全力を尽くしている。運動会前夜に行われる歓迎レセプションも、引き続き全校の卒業生を対象に開催し、長年受け継がれてきた伝統を次世代へ確実に繋げていく強い決意を持って取り組んでいる。

  企画推進課主任の木之下さんは、次のように話す。

阿久根市の「華の50歳組」は、単なるスポーツイベントではない。地域の歴史と誇りを共有し、人と人をつなぎ、地域コミュニティの活性化を促す貴重な文化資源である。
  50歳という節目を祝うことで世代を超えた絆が受け継がれ、健康づくりはもちろん、絆と郷土愛を深める「50歳の青春リターンズ」として、阿久根市が誇る地域の宝物となっている。

  1951年に数人の挑戦から始まった「華の50歳組」は、世代を越えて受け継がれ、阿久根の秋の風景となった。全国に散らばった卒業生が母校に集い、走り、笑い、絆を確かめ合う。 時代が変わり、学校の姿が変わっても、「いつでも帰ってきてほしい」という思いは変わらない。50歳のスタートラインから、また次の物語が始まる。