地域の課題解決 先進事例の収集と発信

地方創生ブレイクスルー
このまち、詠まなきゃもったいない。言葉がつなぐ、みんなの輪(福岡県宮若市)

2025.07.10 UP

俳句って、ちょっと敷居が高いと思っていませんか?
 福岡県宮若市で開催されている「宮若全国俳句大会」は、初心者からベテランまで毎年約1,000人が参加し、年齢や経験を問わず、誰もが自由に表現を楽しめる場として、多くの人に愛されている。

 自然豊かなこのまちは、古くから炭鉱の歴史を受け継ぐ地域と、現代的な産業が共存しており、人と自然が調和した暮らしが息づいている。また、脇田温泉をはじめとする観光資源や、四季折々に美しい風景が広がる犬鳴川沿いの自然など、多くの魅力を備えている。

俳句でまちを元気に

宮若市の多彩な魅力を背景に開催されているのが、「宮若全国俳句大会」だ。
 この大会は、俳句を通じて人と人とのつながりを深め、地域ににぎわいと交流の場をもたらしている。毎年多くの俳句愛好家や地域の人々が参加し、豊かな文化の輪が広がっている。今回は、その宮若市の取り組みを紹介する。

 宮若市に俳句大会を根づかせるきっかけとなったのは、かつての商工会会長であり、現・実行委員会会長 安永徹さんの父による「俳句でまちを元気にしたい」という呼びかけだった。地域の文化や自然を活かしたまちづくりの一環として提案されたこの声に、多くの関係者が共鳴し、2001年に第1回大会が開催された。

巨大句碑が並ぶ「俳句の道」

驚くべきことに、宮若全国俳句大会では、毎年選ばれた133句もの優秀句が高さ約2メートルの句碑となって、犬鳴川沿いの「俳句の道」(約2キロメートル)にずらりと並ぶ。これほど大きな句碑を、これだけの規模で設置する俳句大会は、他に類を見ない。

優秀句の句碑が約2キロにわたり建ち並ぶ

優秀句の句碑が約2キロにわたり建ち並ぶ

この「俳句の道」は、単なる散策路にとどまらず、自然の風景と俳句が融合する空間として訪れる人々に癒しを与えている。春の新緑や秋の紅葉を背景に句碑を巡ることで、俳句の持つ言葉の力と地域の自然美を同時に味わえる、貴重な文化資源となっている。

まち全体が俳句の舞台

選ばれた優秀句だけでなく、応募作品すべてが、路線バスの車内や市内の公共施設などに展示され、遠方から訪れる人たちにも、俳句の魅力を届けている。俳句を通じた交流は、単なる文化イベントの枠を超え、地域の多世代が集うコミュニティの核として機能している。

 実際に、行楽シーズンには俳句仲間や家族連れが句碑巡りを楽しみに訪れる光景が見られ、俳句をきっかけに新たな友情や家族の絆が育まれる様子が多く報告されている。

  • 開架式の様子

    開架式の様子

  • 表彰式の様子

    表彰式の様子

俳句の魅力を次世代へ

ー宮若全国俳句大会実行委員会 会長 安永 徹さんは、大会の意義や現在の課題についてこう語る。

安永さん:宮若全国俳句大会は今年で24回目を迎えました。これまで多くのリピーターの皆さんに支えられ、地元だけでなく全国の俳句愛好者に愛される大会に成長しています。私たちは俳句の持つ文化的価値を大切にしながら、地域の活性化にもつなげたいと考えています。

しかし一方で、高齢の参加者が多く、新しい世代の投句者をいかに増やしていくかが今後の大きな課題です。若い人たちにも俳句の面白さや魅力を伝え、宮若市の「俳句の道」をさらに充実させていきたいと思います。

 今後、句碑の設置場所の案内板を充実させたり、季節ごとに俳句を楽しむイベントの開催も検討中です。地域の皆さんと協力して、俳句を通じた心豊かな交流の場を広げていきたいですね。

俳句が育む、地域のにぎわいと交流

俳句という日本の伝統文化は、短い言葉の中に深い自然観や人生観を込める。宮若市の取り組みは、俳句を通じて地域住民と参加者が共感と感動を共有し、地域の魅力を再認識する好事例となっている。

 また、俳句の道を訪れる観光客は、近隣の飲食店や温泉施設を利用し、地域の経済循環の一端を担っており、宮若市の豊かな自然と文化を融合させた「文化観光資源」として、今後ますますその価値が高まっていくことが期待される。

 宮若市の「俳句の道」は、忙しい日常を忘れ、心にゆとりを取り戻せる場所として多くの人に愛されている。今後も、俳句を核に地域の文化と自然が融合することで、観光誘客や地域交流を促進し、地域の魅力を活かした新たな活性化の取り組みとして、さらなる発展が期待される。

「地方創生ブレイクスルー」は、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。

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