地域の課題解決 先進事例の収集と発信

地域課題への取組み事例
アマモ場再生活動による里海づくり(岡山県備前市)
2022.07.20 UP

岡山県備前市が豊かな海を次世代へつなぐために取り組む、アマモ場再生活動による里海づくりプロジェクトを紹介します。

牡蠣筏が浮かぶ豊かな日生の海

牡蠣筏が浮かぶ豊かな日生の海

「里海」とは、人手が加わることによって、生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域のこと。高度経済成長期の護岸工事や生活排水の影響により、沿岸部のアマモ場が激減するとともに漁獲量が減少しました。アマモ場の重要性に気付いた日生町漁業協同組合の漁師たちが、1985年からわずかに残ったアマモの種を採取し海底に播き、アマモ場再生に向けた取り組みを始めました。

 毎年、5月上旬から6月初旬のアマモの繁殖期に、種をつけたまま漂流している流れ藻を回収。保管袋に入れ牡蠣筏に吊るして種以外を腐らせます。10月頃に保管袋から取り出して比重選別を行い、良質の種だけを採取して、自生しやすい砂泥地に播きます。

 活動を始めた当初は成果が出ない状況が続きましたが、アマモが育たない原因が底質悪化にあることがわかると、牡蠣殻を海底に撒いたり、アマモ場の近くに牡蠣筏を設置して牡蠣が水中のプランクトンを食べることで水の透明度を高めるなど、試行錯誤を繰り返しながら活動を継続し、2008年頃からアマモ場が急速に回復し始めました。

 これまでに1億粒以上を播種し、活動当初は12ヘクタールまで減少していたアマモ場が35年以上継続して取り組んだ結果、230ヘクタールにまで回復しました。現在では研究者はもとより、地元中学生や全国各地の高校生、大学生、消費者団体などが応援団となって、アマモ場の再生に力を注いでいます。里海づくりのトップランナーとして情報を発信し、世界からも注目されています。

  • 5月上旬頃、種をつけたまま漂流している流れ藻を回収します

    5月上旬頃、種をつけたまま漂流している流れ藻を回収します

  • 回収した流れ藻を保管袋に入れて、9月中旬ころまで牡蠣筏の下に吊るし、種以外を腐らせます

    回収した流れ藻を保管袋に入れて、9月中旬ころまで牡蠣筏の下に吊るし、種以外を腐らせます

  • 海中に保管していた袋を陸に上げ、比重選別を行い、良質の種だけを取り出します

    海中に保管していた袋を陸に上げ、比重選別を行い、良質の種だけを取り出します

  • 取り出した種

    取り出した種

  • 取り出した種をアマモが自生しやすい砂泥地に播種します

    取り出した種をアマモが自生しやすい砂泥地に播種します

  • 大多府島付近の天然アマモ。海面のアマモが森に見えることから「海の森」と呼ばれる

    大多府島付近の天然アマモ。海面のアマモが森に見えることから「海の森」と呼ばれる

  • アマモ場には、魚貝類の産卵場所、稚魚の成育場所、水質の浄化、小魚の餌場などの様々な役割があります

    アマモ場には、魚貝類の産卵場所、稚魚の成育場所、水質の浄化、小魚の餌場などの様々な役割があります

  • 長年、アマモ場再生活動を継続してきた漁師の方々

    長年、アマモ場再生活動を継続してきた漁師の方々

  • 流れ藻を再利用して製造された石鹸。イギリスのヘッケルズ社によって商品開発されました

    流れ藻を再利用して製造された石鹸。イギリスのヘッケルズ社によって商品開発されました

備前市産業部 農政水産課 實金達也さん
人の手でアマモの種を採取し播く、この活動を長年にわたって繰り返し行うことが海の再生につながっています。豊かな海を次世代につなぐため、今後も海洋教育への取り組みや地域資源を活かしたまちづくりを続けていくことが大切だと思っています。

「地域課題への取組み事例」では、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。

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