地域の課題解決 先進事例の収集と発信

地方創生ブレイクスルー
高齢者の移動を支える新しい足― チョイソコえちぜん(福井県越前町)

2025.06.11 UP

福井県越前町が、町内公共交通の効率化と移動手段の利便性向上を目的に導入した、ドア・ツー・ドア方式のデマンドタクシー「チョイソコえちぜん」を紹介する。

越前がにの町、越前町―自然と文化が息づく地域

福井県の中西部、日本海に面した越前町は、自然豊かな海と山に囲まれた町で、人口は約2万人。2005年に朝日町、宮崎村、織田町、越前町の1町3村が合併して現在の町が誕生した。
 町の西側は美しいリアス式海岸が広がり、「越前がに」や「越前焼」など全国的にも知られる特産品がある。東部には織田信長ゆかりの「劔神社」が鎮座し、歴史と文化の香りも色濃く残る。
 産業は漁業・農業・陶芸のほか、観光も重要な柱となっており、冬場はカニ料理を求めて多くの観光客が訪れる。また、町内には「越前がにミュージアム」や温泉施設なども整備されている。
 一方で、近年は高齢化と人口減少が進行しており、地域の足の確保や福祉の充実が重要な課題となっている。その中で、地域公共交通の見直しや新たな交通サービスの導入が進められている。

人口減と利用減少を背景に、地域交通の再編へ

ピーク時には年間6.4万人あったコミュニティバス利用者も、人口減少とともに半数以下に減少。こうした状況を受けて地域公共交通の見直しが進められ、2022年4月からは一部のコミュニティバスを廃止。代替交通手段として、2区域においてデマンドタクシー「チョイソコえちぜん」の運行を開始した。

ドア・ツー・ドアでつなぐ、新しい移動手段

利用者の自宅と、50ヵ所を超える指定停留所の間をドア・ツー・ドアで運行する「予約制の乗合タクシー」。専用のシステムが複数の利用者の目的地や到着時間をもとにルートを最適化し、効率よく乗り合わせて送迎を行う。

チョイソコえちぜんの利用方法と運賃体系

町内は2つの運行区域に分かれており、運行範囲は各区域内に限られ、利用するには事前の会員登録が必要。

運航日 月曜~金曜(※土日祝日・年末年始は運休)
運行時間 午前9時出発便~午後4時出発便
予約方法 予約専用ダイヤルまたはインターネット
(予約は1週間前から、利用の2時間前まで可能)
運 賃
(1乗車あたり)
・一般、高校生:500円
・高齢者・小中学生・障がい者:400円
・免許返納者:300円
・幼児:無料

50を超える停留所が設置されている

「どこでも行ける」安心感が、暮らしの質を向上

チョイソコえちぜんの運行により、地域内を広い範囲でカバーできるようになった。従来の公共交通ではアクセスが難しかったエリアにも停留所が整備され、日常的な移動手段として高齢者をはじめとする交通弱者の生活を支えている。
  現在では50を超える停留所が設置されており、病院や公共施設、商業施設など、利用者のニーズに応じた場所へのアクセスが可能となっているのが特徴だ。また、会員登録制や事前予約による運行のため、効率的なルート設定が実現されており、必要なときに確実に利用できる安心感も支持を集めている。
  こうした取り組みにより、買い物や通院、ちょっとした外出など、日々の移動がより身近で便利になり、住民の暮らしの質の向上にもつながっている。

  • 利用案内・停留所一覧

    利用案内・停留所一覧

  • ステップや手すり付きで、乗降しやすい

    ステップや手すり付きで、乗降しやすい

高齢者に広がる安心感と期待の声

利用者は主に70~90代の高齢者で、「自宅前まで来てくれるので助かる」「病院へのリハビリ通いに便利」「チョイソコで温泉にも行ってみたい」など、好意的な声が多く寄せられている。

越前町企画振興課 課長補佐 中西 亜由美さん
運行開始から3年が経過し、利用者数も徐々に増加しているが、「区域をまたぐ移動がしたい」「直前でも予約できるようにしてほしい」などの要望も聞いている。今後は区域の見直しや運用の改善を行い、持続可能な交通体系を目指していきたい。

「チョイソコえちぜん」は、地域の高齢者をはじめとした多くの住民にとって、日常の移動を支える心強い存在となっている。利用しやすさや利便性の向上に取り組みながら、地域の暮らしを支える交通として、その役割は今後ますます重要になっていくだろう。

「地方創生ブレイクスルー」は、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。

事例