地域の課題解決 先進事例の収集と発信
リアルでもバーチャルでも、太鼓を叩いてみたくなる!?
メタバースで切り拓く伝統と革新「ネオ日置」(鹿児島県日置市)
2026年01月30日 更新
メタバースで切り拓く伝統と革新「ネオ日置」(鹿児島県日置市)
2026年01月30日 更新
鹿児島県のほぼ中央に位置し、鹿児島市のベッドタウンとして発展を続ける日置市。
誰もが思い描く「もうひとつの日置市」を、インターネットの世界に創り出す挑戦に果敢に取り組んでいる。
cluster版ネオ日置「地図空間」
コロナ禍が生んだ課題と想い — ネオ日置の出発点
コロナ渦により「日置市に帰りたくても帰れない」「行ってみたいけれど、なかなか行くことができない」という声が多く寄せられていた。
当初、県外に住んでいる人でも日置市を身近に感じてもらえるよう、関係人口創出事業「ひおきとプロジェクト」を立ち上げた。ブログやメールマガジン、ファンクラブ、オンライン交流会を通じて情報発信や交流を進めてきたが、「もっと日置市を感じたい」という期待に十分応えきれていない課題があった。
また、オンラインツアーも実施したが、参加人数や時間に制限があり、継続的な交流を実現するには難しい面もあった。
メタバースで広がる、新しい交流と創造
こうした課題を解決すべく誕生したのが、メタバース「ネオ日置」だ。「cluster」「Roomiq」「VRChat」という3つのプラットフォーム上に「ネオ日置」を開設している。2026年1月からは「VRChat」で日置市に伝わる太鼓踊りをリアルに体験できる空間を新たに公開した。IT技術を駆使し、伝統文化の保存と継承に挑む大胆な試みである。
さらに、ネオ日置は、単なる観光PRの枠を超え、地域とクリエイターが力を合わせて新たな価値を創造する舞台としても機能している。
2026年度は「ネオ日置ワールド制作コンテストや「フォト・ムービーコンテスト」を開催し、多彩な視点から日置の魅力を発信している。
また、2026年1月25日には、男子プロバレーボールチーム「フラーゴラッド鹿児島」の公式戦を観戦する「ネオ日置ワールド制作コンテスト「ネオ日置フラゴラパブリックビューイング」を開催し、交流の新たな可能性を切り開いている。
ネオ日置が仕掛ける3つのおもしろ企画
ネオ日置の取り組みは多岐にわたるが、ここでは特に注目されている3つの特徴的な事例を紹介する。
①メタバース × コミュニティ通貨
コミュニティ通貨「まちのコイン」を2024年10月に導入。コインの名前は「とっぱ」。感謝やサービスのやり取りを通じて「もらう・あげる」ことができ、人と人の関係を自然に育む仕組みだ。
ネオ日置では、この「とっぱ」をメタバース空間でも使えるように連携し、市内外を問わず、日置市と主体的に関わる人を増やすことを目指している。
現在は「ネオ日置に行くとコインがもらえる」という段階だが、今後はコインを使ったサービスの提供へと発展させていく計画だ。
②ネオ日置ワールド制作コンテスト
将来の日置市を支える「仲間(強力な関係人口)」を増やすため、メタバースやXRに関心のあるクリエイターを対象に、「ネオ日置ワールド制作コンテスト」を開催。コンテストには41作品の応募があり、日置市の魅力をさまざまな視点で表現したワールドが集まった。
入賞作品は、正式なネオ日置ワールドとして認定し、市が制作したメインワールドとつなげ、イベントなどにも活用していく予定だ。
③シン伝統文化継承事業
日置市の伝統的な「太鼓踊り」を、踊り手の動きをモーションキャプチャ技術で記録し、それをバーチャル空間に再現することで、誰でも疑似体験できる空間を制作した。
現在は、県指定無形文化財である
・伊作太鼓踊
・大田太鼓踊り
・徳重大バラ太鼓踊り
の3つを体験できる「太鼓踊りワールド」を公開している。
この「太鼓踊りワールド」は、市民の関心が高く、体験会も大好評。体験会では、参加者がVRゴーグルを装着し、まるでその場にいるかのように太鼓踊りを体験した。参加者からは「楽しかった」「迫力があってすごかった」「実際に太鼓踊りをやってみたくなった」といった声が寄せられた。
VRChat版ネオ日置「太鼓踊りワールド」全体周知画像
バーチャルからリアルへ、新しい日置市のカタチ
メタバースは広く知られているものの、実際に体験した人はまだ少ないのが現状だ。しかし、ネオ日置には2023・24年度の2年間で延べ約3万人が来場し、イベント参加をきっかけに移住者も誕生している。
今後は、デジタルの力をフルに活かし、日置市を「おもしろい」「もっと知りたい」と感じてくれるファン(関係人口)を増やしていく。メタバースを入口に、地域や距離の壁を越えて、人と人とのつながりを広げていく。
その先には、メタバース上での祭りや文化体験イベント、物産販売といった取り組みが広がり、「行ってみたい」「住んでみたい」という気持ちを後押しする観光・移住の流れへとつながっていく。バーチャルからリアルへと循環する経済が、日置の未来を動かす大きな力になろうとしている。
地域づくり課課長補佐の重水憲朗氏は、ネオ日置についてこう語る。
ネオ日置は、メタバースという特性を活かし、これまでにない交流の形を生み出す挑戦です。今後も試行錯誤を重ねながら、その可能性を広げ、持続可能な取り組みとして成長させていきたいと考えています。
デジタルの新天地で、日置市は未来への一歩を踏み出した。
誰もがつながり、誰もが主役になれる場所を目指して歩みを進めている。
「ネオ日置」は、ただの仮想空間ではなく、地域の伝統と革新が交差する新しい舞台だ。
この舞台から生まれる次の一歩を、楽しみに見守りたい。
「地方創生ブレイクスルー」は、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。