地域の課題解決 先進事例の収集と発信

地方創生ブレイクスルー
読書もイベントも、どっちもアリ!
酒田駅前に生まれたみんなの居場所「ミライニ」

2025.09.05 UP

長らく空白地となっていた酒田駅前。その場所に2022年、多くの市民の願いをのせてオープンしたのが交流拠点施設「ミライニ」だ。
 かつてはにぎわいの中心であった駅前も、大型商業施設の撤退や民間開発の中止により活気を失い、四半世紀にわたり模索が続いていた。空白地が象徴するように、市街地全体の停滞感も広がっていたが、酒田市は「市民の暮らしに寄り添い、未来を見据えた拠点をつくろう」と舵を切る。
 そして、市立図書館を核としながら、学び・交流・観光を一体的に担う複合施設として生まれ変わったのが、この「ミライニ」である。

図書館1階

        図書館1階

図書館2階

        図書館2階

禁止事項のない図書館!?

ミライニの最大の特徴は、「禁止事項のない(少ない)図書館」という自由な発想にある。従来の図書館でよく見られる「静かにしなければならない」「飲食禁止」「館内移動の制限」といった規制を極力取り払うことで、誰もが気軽に訪れ、思い思いの時間を過ごせる“ひらかれた居場所”を実現しているのだ。

とんがりベンチ

        とんがりベンチ

木玉プール

        木玉プール

館内では、仕事帰りにふらりと立ち寄る大人が本を手にくつろいだり、電車の待ち時間に高校生が友人と談笑しながらページをめくったり、親子で赤ちゃん向けの読み聞かせや体操に参加する様子が見られる。
 ある高校生は「駅から帰る前に立ち寄ると、友達と話しながら読書もできて楽しい」と話し、地域の子育て世代の母親は「赤ちゃんと一緒でも安心して過ごせる場所」と感想を寄せる。こうした声は、ミライニが単なる図書館ではなく、世代を超えた“市民の居場所”になっていることを示している。

ミライニベビーハグ
毎月開催している赤ちゃんと保護者向けの人気企画、読み聞かせや赤ちゃんの体操を行う

本もイベントも、ぜんぶ自由

中央に広場を設け、図書館やホテル、レストランから自然に人が集まり、にぎわいが広がる設計となっており、館内では本の貸出手続き不要で、どこでも自由に読書できるため、子どもも大人も気軽に本と触れ合える環境が整っている。
 観光案内所では地元高校生がボランティアとして参加し、来館者に案内を行いながら学びの場を得ることができるなど、教育的効果も生まれている。

高校生が観光案内している様子

高校生が観光案内している様子

さらに、音楽イベントやダンスステージ、スポーツ観戦、マルシェなど、従来の図書館では考えられなかった多彩な催しも次々に開催されている。静かに本を読むことだけが図書館の目的ではなく、地域の人々が集い、会話や交流を楽しむ空間としての役割を持たせることで、幅広い世代に開かれた施設となっているのだ。

 こうした柔軟で自由な運営スタイルこそが、多様な市民や観光客を引きつけ、ミライニに新たなにぎわいを生み出している。図書館という枠を超えた交流拠点として、市民の日常に溶け込み、誰もが気軽に集い、学び、楽しめる場所となっている。

観光案内所とラウンジが一体化した快適な空間

        観光案内所とラウンジが一体化した快適な空間

夏祭りも芋煮会も、みんなでにぎやかに

もう一つのミライニの大きな特徴は、市と民間事業者が管理組合を立ち上げ、一体となって施設を運営している点だ。日々の維持管理からイベント企画まで細やかな意見交換を重ねながら、複合施設内の各事業者が連携し、夏祭りや芋煮会といった季節行事も実施。参加者同士の交流や地域住民の笑顔を生み出す、相乗効果によるにぎわいが広がっている。

 また、施設に隣接するバス乗り場は集約され、待合機能も新設されたことで、観光客や市民が駅前を行き交う際の利便性が格段に向上。駅前の交通ハブとしての役割も果たし、地域全体の人の流れや活性化にもつながっている。

  • 広場では音楽イベントを開催

    広場では音楽イベントを開催

  • 定期的に開かれるマルシェ

    定期的に開かれるマルシェ

みんなの声で育つミライニ

一方で「駐車場が2時間しか無料でない」「立体駐車場が使いづらい」といった声もあった。こうした課題に応えるため、2025年度には図書館利用者専用の無料の平面駐車場が新設され、より一層便利になった。 担当者である酒田市社会教育課の長南健太氏は、完成から3年を経たミライニの役割についてこう語る。

酒田市の新たなランドマークとして誕生したミライニが、市街地に新しいにぎわいを生み、市民や観光客が集う場所になってほしいと考えています。開館から年月が経ち、運営上の改善点も少しずつ見えてきました。今後も利用者の声を反映させながら、誰もが自由に過ごせる「みんなの居場所」として、より魅力的で開かれた施設に進化させていきたいです。

これからもミライニは、市民も観光客も世代を超えて集う交流拠点として歩みを続けるだろう。本を読みに来たはずが、つい音楽やダンスに夢中になってしまうことも…。そんな笑い話があちこちで生まれる、ちょっと自由で楽しい場所になりそうだ。

「地方創生ブレイクスルー」は、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。

事例