地域の課題解決 先進事例の収集と発信

シャッター街が動き出す
「まちトープ」と共に歩む商店街再生の軌跡(新潟県燕市)

2025年11月28日 更新

地方都市では人口減少や高齢化が進み、まちの中心部からかつての活気が失われつつある。新潟県のほぼ中央部に位置し、刃物や洋食器の生産で全国的に知られる燕市も例外ではない。燕市の宮町商店街はかつて賑わいの象徴だったが、空き家や空き店舗が目立ち、地域のにぎわいが薄れていった。

まちトープのシェアラウンジ。老若男女問わず地域の人たちの居場所となっている

まちトープのシェアラウンジ。老若男女問わず地域の人たちの居場所となっている

「孤立した点」を「賑わいの面」へ — 新たなまちづくりの旗印

こうした中、燕市が掲げたのが「燕市中心市街地再生モデル事業」だ。空き家や空き地の活用を促進し、地域の暮らしやコミュニティを支えるまちづくりを目指すモデル事業である。狙いは明確だった。点在する空き家や空き店舗という“孤立した点”を、“賑わいの面”へと変え、宮町商店街全体に新たな賑わいを生み出すことだ。

  そこで、地元の若い世代が企画した「クロスロード宮町」開発計画がモデル事業として採択され、行政の枠を越え、地域の若者や企業、デザイナー、商店街が手を携え、一体となって動き出した。

誰もが集う居場所をつくる — 民設民営の革新的公共施設

この計画の中心に据えられたのが、新しい拠点施設「まちトープ」だ。宮町商店街には「気軽に立ち寄ってゆっくり過ごせる場所が少ない」という課題があった。そこで、地域の人々が集い交流できる居心地の良い空間をつくり、かつて賑わいを見せた商店街の再生を目指して、まちトープは誕生した。

  • 気軽に立ち寄りそれぞれの時間を過ごす

    気軽に立ち寄りそれぞれの時間を過ごす

  • 子どもを連れて気軽に行ける場所として人気

    子どもを連れて気軽に行ける場所として人気

まちトープの大きな特徴は、「民設民営の公共施設」という独自の運営形態にある。まちなかに誰もが気軽に立ち寄れる居場所をつくるため、デザイナーの嶋田雅紀氏をはじめ、地元企業や商店街が協力し、コンセプトづくりから運営まで一体となって手掛けた。利用者のニーズを丁寧にくみ取り、デザインや居心地の良さにも徹底的にこだわっている。

  カフェ、シェアラウンジ、図書スペース、レンタルキッチン、自習室などがそろい、ドリンク1杯で長時間ゆったり過ごせる工夫が随所に施されている。単なる休憩場所ではなく、まちと人をつなぐ新しいコミュニティスペースとしての役割を果たしている。

  整備資金は行政の補助金を活用しながらも、運営は収益構造を確立。ドリンク販売やレンタルスペース利用、テナント料などの収益で賄われている。

世代を超えた交流の場 — 活気を取り戻す宮町商店街

オープン直後から、若い世代を中心に商店街へ足を運ぶ人が増えた。イベントスペースも整備され、屋内で様々な催しが開催できるようになったことで、これまで問題となっていた騒音のトラブルも減少した。赤ちゃんからお年寄りまで幅広い交流が生まれ、商店街に活気が戻り始めた。

  「居心地が良い」「おしゃれで落ち着く」「こんな場所を待っていた」といった声が多く聞かれ、利用者から非常に好評だ。地元の住民も定期的に開かれるイベントを楽しんでおり、多くの人から喜ばれている。

  • 若者がイベントや交流会の場として活用

    若者がイベントや交流会の場として活用

  • 学生は無料で使える自習室

    学生は無料で使える自習室

  • まちのさまざまな情報が集まり、そして発信されている

    まちのさまざまな情報が集まり、そして 発信されている

  • 地域の人があつまり、多くの催事が開催

    地域の人があつまり、多くの催事が開催

もちろん課題もある。収益を上げながら、ゆったり過ごせる居心地の良さを保つことは難しい。また、商店街全体の活性化を継続していく必要もある。しかし、「まちトープ」を中心に新たな店舗が増え、訪れる人が増加することへの期待の方が大きいようだ。

  燕市都市計画課空き家等対策推進室の河合健氏は、今回の取り組みについてこう話す。

空き家の利活用を切り口にしたまちなか再生事業は、市としても初めての試みでしたが、「クロスロード宮町」開発計画はとても良いロールモデルになりました。この動きが市全体に広がり、地域ごとに特性を活かしたまちなか再生の機運がさらに高まることを期待しています。

まちトープを核に宮町で広がる変化は、地域に新たな息吹を吹き込んでいる。
  誰もが居心地の良さを感じ、つながるこの場所から、これからどんなドラマが生まれるのか楽しみでならない。

「地方創生ブレイクスルー」は、さまざまな社会課題の解決に向けた自治体の取組を随時発信していきます。

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