2024.12.18 UP 防災拠点事業 「広域研修A」を開催
災害現場のリアル ~地域連携を通して災害時要配慮者に私たちができること~

日本財団助成事業

防災拠点事業「広域研修A」をベルサール飯田橋ファースト(東京・文京区)で12月3日に開催。全国から53自治体の自治体職員および防災担当者137人が参加し、「災害現場のリアル ~地域連携を通して災害時要配慮者に私たちができること~」をテーマに、事例共有やワークショップを行い、災害時要配慮者の対応について意見交換を行った。

会場の様子

研修に先立ち、B&G財団理事長の菅原悟志は、まず研修出席のお礼と能登半島地震におけるスライドダンプ貸出協力のお礼を述べ、事業目的や研修内容について説明した。
  全国69ヵ所の防災拠点に重機やスライドダンプ、救助艇をはじめ様々な防災備品を日本財団の支援を受けて配備している。「発災時に協力し合って、いち早く被災地のために活動することがこの事業の大きな目的である」と説明。
  明日は、新たに取り入れた「女性モデル研修」を実施。避難者の多くを占める女性たちが避難所で直面する問題について、女性の視点に立って考えるプログラムも用意していると話し、「いつ災害が起こってもおかしくないという心づもりで準備し、発災時に横のつながりを発揮して迅速に支援できる体制の構築に努めてほしい」と挨拶した。

続いて、日本財団 佐藤英夫 常務理事は来賓挨拶で、日本財団は国内外の様々な社会課題に取り組んでおり、その一つが災害対策支援である。阪神淡路大震災以来、ボランティアや各種支援団体を支える仕組みをつくり、発災時の対応に取り組んできた。「防災拠点を各地に整備し平時から研修や訓練を積んで、発災時には迅速に対応できる体制をつくる。これが正にB&Gネットワークを活用した本事業だと考えている」と述べた。

体験型防災研修「避難所運営体験プログラム」
株式会社フラップゼロアルファ 代表取締役 松田 哲 氏

避難所を開設した1日目から3日目までに想定される問題や課題等について映像を使ってケーススタディを行った。映像に出てきた課題や問題について、平時から担当部署はもちろん地域住民と十分に相談・検討して、想定できる事態に対して事前に取り決めておくことが大切だと説明した。

  • ケース①『混乱』断水・停電・医療機関

    ケース①『混乱』断水・停電・医療機関

  • ケース②『相談』女性避難者障がい者対応

    ケース②『相談』女性避難者障がい者対応

参加者からは、実際の再現映像を見ながら進めることで、災害現場をより具体的にイメージすることが出来たという声が多く挙がった。

特別事例共有
被災現場から見た災害時要配慮者対応のリアル 石川県志賀町 環境安全課 山守 雄太 氏

実際に災害対応にあたった志賀町の山守氏からは被災現場にしか分からない「リアルな声」を届けていただき、参加者である同じ自治体の担当者からは「現場の声が一番説得力がある」などの声が多く上がった。

【特別事例共有内容】

発災当日の状況
 志賀町の震災による人的被害は死者17人(関連死15人)、建物被害は全壊2,311棟、半壊以上5,556棟・準半壊・一部損壊9,331棟(非住家含む)、インフラ被害は国道町道の通行止め、停電(一部地域で数日)や断水(約8,300世帯)であった。
 発災当日の1月1日は、子ども連れの帰省者や初詣帰りの町外住民など、一年で一番人口が多い日であったため、避難所は大混雑。避難所でない施設にも避難者が殺到し急遽職員を派遣した。備蓄していたミルクや女性用品は即日底を尽き、町民以外が避難する場合を想定していなかった。

発災後数日~現在の状況
 発災後の数日間は被害状況や安否確認など、一般住民やマスコミからの電話対応に忙殺され、役場に泊まり込みとなった。なかには自宅が被災し、家族は避難所という職員もいた。
 その後、入浴・炊き出し・給水など、自衛隊がどこで支援を行えばよいのかを決める支援調整を担当。罹災証明書の発行・発送の進んだ2月1日より各種申請窓口を開設したが、問い合わせが急増し対応に追われる日々が続いた。
 現在、復興計画策定や避難所の閉鎖、公費解体の本格化など、ようやく復興期がスタートしている。

災害時要配慮者の対応
 福祉避難所に指定した施設は8ヵ所あったが、6施設が被災し開設できたのは2施設。被災した施設からの移転者や想定外の一般避難者もいて受入人数を超過していたため、福祉部局の町職員や社会福祉協議会、DC‐CATなどの支援を受け運営した。
 避難所以外の避難者については、トヨタ自動車・ダイハツ工業の協力による巡回支援を実施。また、要配慮者名簿を基に家族やケアマネージャーからの報告を集約し、県外の派遣保健師と一緒にローラーをかけて現況調査を行った。これにより区長や民生児童委員と連携が図られ、支援を必要とする方へ物資を届けることができた。

災害時要配慮者対応の課題と展望
 課題としては、行政と施設だけではマンパワー不足になるため、地域との連携強化が不可欠である。加えて、乳幼児、女性向けの備蓄が少なかったことや、ペット同伴避難者のスペースの確保のほか、衛生面や医師からの助言により物資の提供にも苦慮した点などが挙げられる。
 今後の展望として、施設や施設職員の被災を想定し、町外をはじめとした広域での協力関係の構築、個別避難計画の作成推進、自主防災組織による共助の取り組みを強化する必要がある。

 最後に、一自治体だけでできることは限られている。防災拠点間の連携を強化し、外部団体からの受援体制の確立することが重要だと強調した。

情報交換会

災害時要配慮者を対象とした拠点研修の実施について、各自治体が作成したポスターに基づき情報交換を行った。各拠点が実施した外国人や障がい者、子ども、女性を対象とした訓練や教室の事例が報告された。

ワークショップ
災害時要配慮者課題解決型「机上訓練」
B&G財団地方創生部 防災推進課

災害時要配慮者への課題解決においては行政単独ではなく、地域の連携が必要不可欠である。そのため地域連携の重要性を理解するワークショップをB&G財団が実施。

4~5人のグループで災害時要配慮者の対応について考えるワークショップを実施。まず、①災害時要配慮者である高齢者、障がい者、外国人、子ども・保護者になりきって「できないこと・困ること」について意見を出し合い、②出された「できないこと・困ること」について議論し、各自治体の取組みなどを共有しながら解決策を見出す。③最後に解決策の実施あたり、連携を図る企業・団体・関係機関を模索して課題解決の糸口を見つけるという流れでグループワークを実施した。
 ワークショップ全般を通じて、災害時要配慮者に対する地域連携強化の重要性を改めて伝えた。

~ワークショップの様子~

基調講演
誰一人取り残されないための地域連携促進
国立大学法人 新潟大学 危機管理本部 危機管理センター
教授 田村 圭子 氏

ワークショップで地域連携の重要性を理解した上で、新潟大学田村教授から専門家の立場で地域連携の必要性および方策などの基調講演をいただいた。

続いて、令和6年能登半島地震に学ぶとして、地震に起因する土砂災害や地盤崩壊、津波、火災、液状化について、被害状況写真や図表、統計資料を使って説明するとともに、頻発する水害の発生メカニズムなどについても言及した。
 一人の取り残しのない避難を実現するためには、避難行動要支援者の個別避難計画の作成が必須であるが、作成に当たっては地域の連携が最重要である。行政や災害時要配慮者本人だけでなく、地域を巻き込んで作成を進めることが結果的に「誰一人取り残さない防災」につながる。

事例共有

最後に自治体で取り組む具体的な「地域連携による災害時要配慮者対応事例」を3自治体が事例共有を行った。

① 多国籍防災キャンプ
岐阜県可児市 総務部 防災安全課 井野 志哉 氏

可児市の人口の約10%を外国人が占めており、外国籍市民の防災への取り組みが課題となっていた。そうした中、B&G財団から提案があり、1泊2日の外国籍防災キャンプを実施。参加者54人中17人(フィリピン、ブラジル、中国)の外国籍市民の参加があった。
 1日目は、交流会(アイスブレイキングゲーム)・災害時に役立つランタン作り・ダンボールベッド組立て・炊き出し体験・簡易トイレ使い方などを行い、2日目は非常食体験(朝食)・救助艇乗船体験を実施した。
 参加した外国人の保護者は「防災に関する知識が身についた」「子どももいろいろと学ばせてもらってよかった」といった感想が多く寄せられた。今後、各種イベント開催時には防災要素を取り入れたプログラムを一部に導入するなどして、外国籍市民の防災意識を高めていきたい。

② 町内団体と連携した「障がい者避難所体験会」
群馬県みなかみ町 総務部 危機管理室 原澤 雄一郎 氏

町内の障がい児者等家族支援サロン「よってこ」から、「災害時に障がい者が避難をためらわないためには知ることが大切なため避難所体験会を実施してほしい」との依頼をきっかけに体験会を実施。 障がい児者の防災意識の向上・災害時の支援体制構築をねらいとした避難所体験会を福祉避難所の一つである保健福祉センターで行った。
 障がい者およびその家族33人が参加し、防災グッズ・備蓄品について理解を深めるとともに、非常食の試食や段ボールベッドやアルミブランケットなどを体験した。参加者から「アルミブランケットは暖かい」「非常食はおいしくてびっくり」などの感想があった。
 今後、障がい者が安全に避難するために個別避難計画の作成とあわせて、障がい者と地域の連携強化を図る必要がある。また、社会福祉協議会や利根沼田障害者相談支援センターなどと連携を密にして、当事者の声を聴ける場を積極的に設けていきたい。

③ 女性防災リーダー育成による地域共助力の強化
山形県酒田市 総務部 危機管理課 小松 裕之 氏

既存の避難所運営マニュアルに女性や要配慮者の視点が十分とは言えなかったことから、女性防災リーダーを育成し地域力を強化することをねらいとした「女性防災リーダー育成講座」を2021年度から実施した。
 プログラムは、【知る】災害のメカニズム・本市の災害特性、【備え】防災行動と役割(自助・共助・公助)、【発信】男女共同参画の視点から女性防災リーダーの役割などのテーマで講習を実施。さらにマニュアル改訂に向けたワークショップを行い、避難所運営の検証等を通じて、女性の視点を取り入れた避難所運営マニュアルに改訂を行った。

2022年度以降も女性防災リーダー育成講座を継続し、2023年度は地区防災計画を女性の視点に立って考える、2024年度は避難所運営のコーディネートに関する講座を実施。
 今後、「酒田防災コーディネーター制度」を立ち上げ、防災士や女性防災リーダー育成講座修了者など有識者による組織を編成し、市内400を超える自主防災組織等の活動を直接支援できる仕組みを構築していきたいと考えている。

 会場の一角には出展ブースが設けられており、株式会社ニットクの「トイレカー」、船山株式会社の「防災テント」「非常用離乳食」「ドライシャンプー」「無水歯磨き」など多くの防災グッズが展示され、参加者は担当者からの説明を熱心に聞いていた。

  • 株式会社ニットク(展示ブース)

    株式会社ニットク(展示ブース)

  • 船山株式会社(展示ブース)

    船山株式会社(展示ブース)

広域研修Aを通して、参加自治体の担当者に災害時要配慮者対応は地域連携が不可欠であることを理解してもらった。また、事例共有やワークショップを通して、拠点担当者同士が顔の見える関係性を構築することができた。

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