2023.12.06 UP 防災拠点事業 Be Active~積極的な災害時相互支援の実現~
「広域研修A」を開催

Be Active~積極的な災害時相互支援の実現~
「広域研修A」を開催


日本財団助成事業

B&G財団(東京都港区)は、11月30日(木)・12月1日(金)の2日間、「防災拠点の設置および災害時相互支援体制構築」事業(以下、「防災拠点事業」)の一環として、全国54自治体の防災担当者・消防職員127名を対象に、「広域研修A」をベルサール飯田橋ファーストタワー(文京区後楽)で開催した。

広域研修A開催

広域研修A開催

この研修は、各拠点担当者が一堂に会し情報交換を行い、支援・受援等拠点同士の協力体制構築を目指し、防災拠点事業の方向性の共通化を図ることを目的としている。
 開催にあたり、B&G財団 理事長 菅原 悟志は「災害大国と言われている我が国では、必ず毎年どこかで災害が起こっている。地域住民の方々にとって最前線で働く皆さんが最後の砦である」と述べ、「日頃から配備機材を使ってスキルアップに努めていただきたい。この2日間が実りある研修となるとこを願っている」と挨拶。続いて、来賓を代表し日本財団 専務理事 前田 晃 氏から「訓練と実践を積んでより高いスキルを身に着けていただくとともに、B&Gの横の繋がりを活かし、自治体のみならず近隣自治体への支援も行っていただきたい」と挨拶した。

  • B&G財団 理事長 菅原 悟志 挨拶

    B&G財団 理事長 菅原 悟志 挨拶

  • 日本財団 専務理事 前田 晃 氏 挨拶

    日本財団 専務理事 前田 晃 氏 挨拶

ワークショップで災害支援・受援の流れを体験

プログラム1つ目は、災害支援・受援(支援を受ける)の流れを謎解きゲームを用いて疑似体験するワークショップを実施。1つ目の謎解きで災害支援側と受援側に分けられ、発災時双方に想定される事象がそれぞれミッションとして与えられ、グループ内で役割を決め、協力しクリアしていく。支援側は支援できる物資や機材の情報収集を行い、受援側は支援を要請する物資や器材の情報収集を行い、それぞれをマッチングする。これを会場の照明を落とし、時間制限を設けて実施。停電で照明が使えない状況や、発生した事案を即座に判断しなければならない災害現場の状況を再現した。

2つ目のワークショップでは、防災拠点自治体が実際に他自治体へ災害支援を行った際に生じた困りごとや、想定外のトラブル事例を議題にグループディスカッションを実施。事前に確認しておくべきことや、解決策等を話し合った。ディスカッション後の発表では災害支援・受援に必要な書類、事前の取り決め、支援物資や機材のチェックリストの作成など具体的な解決案が出されたほか、実際に実施している自治体の事例などが共有された。また研修2日目に実施する講演の講師である、国立研究開発法人 防災科学技術研究所 災害過程研究部門 折橋 祐希 氏から事前にもらっていたアドバスを紹介した。

  • ワークショップ(1)暗闇での謎解き

    ワークショップ(1)暗闇での謎解き

  • ワークショップ(1)ゴールは間近!

    ワークショップ(1)ゴールは間近!

  • ワークショップ(2)こんな時どうする?

    ワークショップ(2)こんな時どうする?

  • ワークショップ(2)解決策を話し合う参加者

    ワークショップ(2)解決策を話し合う参加者

  • ワークショップ(2)解決策を発表

    ワークショップ(2)解決策を発表

支援される側からする側へ!パネルセッション
宮城県石巻市から秋田県五城目町へ行われた災害支援の事例を共有

パネルセッションでは、宮城県石巻市 総務部危機対策課 杉浦 誠 氏と秋田県五城目町 災害対策本部 住宅支援チーム 川村 拓 氏がパネリストとして登壇した。今年、7月14日からの断続的な大雨により被災した秋田県五城目町。町内全域での床上・床下浸水や、農地の水没、水路の崩壊、道路、公共施設等あらゆる分野で深刻な被害が発生した。
石巻市が五城目町の支援に至った経緯は、まず東日本大震災を契機に石巻市の復興支援に携わり、現在は全国の災害支援活動等も行っている「一般社団法人BIG UP石巻」から五城目町の被害状況の情報提供があった。それから防災拠点事業で配備された重機や車両の貸し出し等を検討。BIG UP石巻を通して五城目町に支援を打診した。その後、五城目町から支援要請を受けた。

左:石巻市 杉浦 誠 氏 右:五城目町 川村 拓 氏

左:石巻市 杉浦 誠 氏 右:五城目町 川村 拓 氏

一方、五城目町は災害からの復旧・復興業務に追われていた。災害現場には、幸いにも泥の撤去、災害ゴミを搬出するボランティアなどの人手は集まっていた。しかしそれを活かしきるための車両が不足。車両の確保は困難を極めていた。そこへ石巻市からの重機、車両の貸出の提案があり、支援要請へと至った。川村氏は「町総合防災計画における応援要請、受援の手順は定められており標準化されている。しかし現場対応で手いっぱい、人手不足で応援を求めることすらできない」と振り返った。
続いて、要請を受けた石巻市、要請行った五城目町それぞれに必要な事務手続きの手順や、要請の根拠となる法律、規定などについて説明した後、実際の活動の様子が紹介された。貸し出された機材はスライドダンプと油圧ショベルで、現地までは石巻市の職員4名が運搬。防災拠点事業で育成された人材が活躍した。現地では五城目町から依頼を受けた技術系NPOが重機を活用。倒木、土砂の撤去、災害ゴミの除去などに役立てられた。
今回の石巻市からの支援について、川村氏は心の支え、励みになりまさに「僥倖だった」と表現した。と同時に「支援を求める際、何を、どの自治体に、どのように要請すればいいかわからなかった」と述べ、助けを受け入れる力である「受援力」の重要性を説いた。また、石巻市の杉浦氏は、防災拠点を有する自治体の備えとして、人材育成、被災経験の伝承・訓練、ボランティアとの連携が重要だと述べた。

ポスター発表

長崎県南島原市の発表

長崎県南島原市の発表

パネルセッション終了後、2会場に分かれ、ポスター発表を行った。会場1では長崎県南島原市と三重県志摩市から事例発表が行われた。南島原市は「県境を越えた自治体間での災害支援活動」と題し、令和5年7月九州北部豪雨災害により被災した佐賀県唐津市に対する物的災害支援活動について発表。事例の中で、災害支援団体が両市の間に入り積極的に関与することで、行政間の連携がスムーズに行われた。また、現場活動にあたる部局と事務処理部局を分けることで効率よく支援あたることができたと説明した。今回の支援をきっかけに様々なパターンの支援ができるよう、支援要項の作成を進めていくと今後の展望を述べた。

続いて、志摩市からは「災害現場における救助活動を想定した消防主体での重機研修」と題し、救助犬との救助活動を想定した重機研修について発表した。志摩市は災害支援団体であるDRT-JAPAN三重と「防災支援活動等に関する協定」を結んでおり、有事の際の連携・協力のほか、平時は重機等の操作・メンテナンス研修など、人材育成に対する支援を受けている。研修受講者の中心が消防職員であったことから、要救助者の捜索、救出研修の提案があり、現場で連携が想定される「救助犬」との活動を実施することとなった。
この研修から救助犬の現場での動きや、犬種による特性、重機オペレーターと周辺隊員の連携方法など学ぶことができた。また、災害現場で連携する様々な職種、団体と研修などを通して、日頃から関係性を構築することで、その職種のイメージや先入観と、実際の活動内容のギャップを解消することができると説明した。

三重県志摩市からの発表

三重県志摩市からの発表

熊本県湯前町からの発表

熊本県湯前町からの発表

会場2では、熊本県湯前町と鳥取県北栄町から、事例発表が行われた。湯前町は「県を超えたNPO団体と協力した災害支援活動」と題し、今年梅雨前線による大雨で被災した福岡県久留米市に対する災害支援について事例を共有。同町の重機研修講師を担うボーダレスファイヤー熊本 代表の渡邉氏から重機を貸出依頼があり、これを許諾。現地では、様々な技術系NPOが同町の重機を活用し災害支援にあたった。この事例から平時は、技術系NPOへ重機操作の講師などを依頼し、地元の重機オペレーターの育成を行いながら、有事の際は、速やかに重機や車両を団体に貸し出す協力関係の構築に努めていると説明した。

北栄町から「災害時における拠点稼働を想定した2拠点合同重機研修」と題し、事例を共有。北栄町は2016年に鳥取県中部地震により被災。その際に県内をはじめ、全国の市町村からの支援が復旧・復興の原動力となった。その経験から他自治体との連携の重要性を学び、鳥取県伯耆町と合同で研修を行った。これにより、情報交換が促進され平時から顔が見える関係を築くことができた。今後もこの体制を維持し、いざというときに相互協力を行っていきたいと述べた。

鳥取県北栄町からの発表

鳥取県北栄町からの発表

情報交換会

熊本県湯前町からの発表

熊本県湯前町からの発表

1日目の研修最後には情報交換会が行われ、全54拠点が作成したポスターを掲示。食事をとりながら、興味のある拠点のポスター前に集まり、その拠点担当者から説明を聞くなど、活発な情報交換がなされた。

研修2日目
講演:災害時相互支援体制構築の理想と課題およびその展望

国立研究開発法人 防災科学技術研究所 折橋 祐希氏

国立研究開発法人 防災科学技術研究所 折橋 祐希氏

研修2日目は、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の折橋 祐希氏より「災害時相互支援体制構築の理想と課題およびその展望」と題した講演が行われた。折橋氏はまず課題として、災害の大規模化、複雑化に伴う圧倒的なリソース(人・資機材・空間)不足が予想されると指摘。その理想の対策はとして、発災前にそれぞれの自治体が、体制、業務内容、事態対処について予め決めておくことだとした。確実に業務をこなすため、やる必要ないことを減らし、事前に計画やマニュアルに落とし込む。一方で共に業務を行う集団と平時の研修などから「同じ釜の飯を食う」関係性を築き、集団から組織へと変化させていくことが重要だと述べた。

また、発災後は刻々と変化する状況の中での様々な対応が求められる。国際標準であるPlanningを参考に、情報収集、加工をすること、各業務の所管部署は自分たちが必要なことやモノを示し、災害対策本部はそれを調整することが役割だと説いた。
今後の展望として、市町村の災害対応のデジタル・トランスフォーメーション(DX)化を挙げた。全てを情報技術に頼るのではなく、人間にしかできない仕事にリソースを集中させるために、DX化が必要だとした。また研究者の立場から、災害現場を支援するための役立つ手法や技術を開発していきたいと語った。そして、最後に平時の研修・訓練、ワークショップで業務理解や組織形成を図ることが重要であり、そのために自分のような研究者をうまく活用してほしいと結んだ。

特別事例共有

研修の最後は、特別事例共有として、ボーダレスファイヤー熊本 代表の渡邉 英典 氏から今年7月に大雨により被災した福岡県久留米市において、防災拠点事業で配備された機材が災害現場で活用された事例の発表が行われた。渡邉氏は、元消防士であり2016年の熊本地震を機に災害ボランティアに目覚める。2020年に定年退職した後、土木会社に勤務し重機作業を含めた土木技術全般を学びながら、災害ボランティア活動を続けていた。同年熊本豪雨(令和2年7月豪雨)災害を契機にボーダレスファイヤー熊本を結成し、以降様々な被災地で災害支援活動を行ってきた。

ボーダレスファイヤー熊本 代表 渡邉 英典氏

ボーダレスファイヤー熊本 代表 渡邉 英典氏

福岡県久留米市は、今年7月7日から10日までの大雨により被災。4日間の総雨量は567ミリを観測し、田主丸竹野地区で土石流が発生した。7月16日正午に、熊本県湯前町から重機を借り受け回送し、16時ごろ久留米市田主丸竹野地区に到着。当初湯前町では、渡邉氏による重機研修を予定していたが、予定を変更し、被災地支援を優先し、重機の貸出を行った。日頃から関係性を築いていたので、話の進みも早かった。

現場では重機案件のニーズが多く、宅地内に流入した土砂や流木の撤去など行ったほか、傾いた家屋を重機で支え、ショアリングなどを行った。その他貴重品の捜索などにも役立てられた。発災直後に重機とスライドダンプを借りられたことは非常に大きく、災害支援に役立つ機能を有している重機であり、現場で重宝したと今回の活動を振り返った。また最後に防災拠点自治体への提案として、重機やダンプを貸し出すことで、他自治体の被災地を視察するきっかけとなり、自自治体の防災に有益な情報を持ち帰ることができるとした。そして、本研修には消防士も参加していることから、消防士に向け、まずは重機のポテンシャルを理解し、最大限に活用してほしいと述べた。最後に、毎年全国各地で起こる自然災害の被災地でB&Gの白い重機が活躍する姿を願っていると参加者を激励した。

B&G財団 常務理事 朝日田 智昭 挨拶

B&G財団 常務理事 朝日田 智昭 挨拶

最後にB&G財団 常務理事 朝日田智昭より研修を振り返り、この研修で得たもので、すぐに実行できるものはすぐに実行してほしいとしたうえで「今回の研修をきっかけに顔の見える関係性を築けたのではないかと感じている。自治体内外問わず、多くの方と顔の見える関係を広げ、災害に備えていただきたい」と挨拶した。

この2日間で多くの事例共有や情報交換がなされ、防災拠点事業の方向性の共通化が図られた研修となった。引き続きB&G財団では、自治体とともに災害に対する備えを行っていく。

B&G財団は、2021年度から自治体と連携し、災害支援に即応できる機材と人材を備えた「防災拠点」を整備し、油圧ショベルとダンプカー、救助艇などの機材を配備すると共に、機材の操作方法と災害対応の研修を受けた人材を育成している。  全国の「防災拠点」担当者が、どこの拠点でも同じ器材と手法で災害支援活動ができる体制を整え、平時には「防災拠点」に備えられた段ボールベッドや災害用トイレ、ドローンなどを使用して、地域住民の「防災訓練や避難所運営訓練」を実施し、災害時だけでなく平時も活用される新たな防災拠点を目指す。  防災拠点は、2021年度第一期の25ヵ所、2022年度第二期29ヵ所が決定した。

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