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重機も人もフル稼働!防災拠点で災害に強い地域づくり(前編) 2025.10.22 UP

近年、日本では自然災害が激甚化・頻発化しており、記録的な大雨や豪雪、台風による被害が相次いでいる。今年8月の九州豪雨や9月の大雨・台風では、道路の寸断や家屋被害、停電など深刻な被害が発生した。

こうした状況の中、災害現場では重機や資機材が復旧作業に不可欠である一方、それを操作できる人材の不足は大きな課題となっている。従来は県外からの派遣に依存していた重機支援も、新型コロナウイルスの蔓延下では外部からの支援が制限される事態が生じた。この経験から、地域内で重機や資機材を活用できる人材を育成し、迅速な初動対応を可能にする仕組みづくりが急務となった。

ー目次ー
■災害経験を教訓に始まった防災拠点整備
■即戦力を育てる!人材育成の取り組み
■広域研修で防災力をアップ
■平時から備える防災拠点の強み

災害経験を教訓に始まった防災拠点整備

B&G財団は2021年度から「防災拠点の設置および災害時相互支援体制構築(以下、防災拠点事業)」事業に着手した。この事業は、災害時の緊急対応に必要な防災倉庫の整備をはじめ、油圧ショベルやスライドダンプ、救助艇などの資機材を配備するとともに、重機オペレーターなど現場で即応できる人材の育成や、周辺自治体との相互支援体制の構築を進めることで、地域防災力の向上を図る取り組みである。

この事業が始まった背景には、熊本県を中心に甚大な被害をもたらした「令和2年7月豪雨」がある。当時、新型コロナウイルスの影響で外部からの支援が制限され、現地で重機を操作できる人材も不足していたため、初動体制が十分に整わず、災害復旧に時間を要する場面もあった。この経験から、災害時に迅速な支援を行うためには、現地で資機材を操作できる人材の育成が不可欠であることが明らかになった。

  そこで、防災拠点事業を通じて、平時から利用可能な重機や資機材を全国に配備し、海洋センター所在自治体のネットワークを活用した支援体制の整備を行うとともに、重機操作・災害対応に精通した人材の育成を推進している。現在までに、全国39道府県84市町村への設置が進み、運用を開始している。

即戦力を育てる!人材育成の取り組み

防災拠点事業の柱は大きく3つある。
  1つ目は、災害対応に必要な防災倉庫と資機材の整備である。防災倉庫を設置し、油圧ショベルやスライドダンプ、救助艇などの重機を配備し、平時からの活用を促進するとともに、災害時にすぐ使用できる体制を整えている。 また、各拠点に配備する重機は、被災地で小回りが利く、操作性の高い小型油圧ショベルに統一しており、研修を受けた人材がどの拠点でも即戦力として活躍できる体制を整えている。

統一仕様の小型油圧ショベル

2つ目は人材育成である。重機オペレーターや避難所運営を担う人材の育成費用を3年間助成するとともに、各拠点では年6回以上、避難所開設訓練や救助訓練、在住外国人向け防災研修など、さまざまな研修を計画的に実施している。これにより、災害時に迅速かつ的確な対応ができる人材の育成を目指している。

3つ目は、自治体間の相互支援体制の構築である。防災拠点を持つ自治体だけでなく周辺自治体との連携も促進し、災害時に人的支援や資機材の貸出、関係部局や外部機関との調整を円滑に行える仕組みを作っている。

北海道33市町村と防災協定を締結

広域研修で防災力をアップ

全国の防災拠点担当者を対象とした「広域研修」を実施。各拠点の自治体職員や消防関係者が参加し、災害対応力の向上や自治体間の連携強化につなげている。

  最新の防災知識に関する講義や各拠点が行った災害支援活動の事例共有、ワークショップなどを行う「広域研修A」。 昨年は、「災害現場のリアル ~地域連携を通して災害時要配慮者に私たちができること~」をテーマに、災害時要配慮者(高齢者、障がい者、女性、子どもなど)への対応を学ぶとともに、女性視点や多様な立場の避難者を考慮した対応の必要性を認識するため、女性モデル研修を実施した。

  • 広域研修A

  • グループディスカッションの様子

災害現場で役立つ重機操作のレベルアップを目的とした「広域研修B」では、災害時の重機活用や被災地支援で必要な実践的な知識と技術を習得し、各拠点での研修水準の向上を目指している。参加者は「小型車両系建設機械特別教育」修了者であるものの現場経験が少ないため、実践を通して重機操作の応用を学び、研修で得た知識と技術を各拠点における災害対応力の強化に役立てる。

  • 広域研修B

    広域研修B

  • 重機操作のスキルアップを図る

    重機操作のスキルアップを図る

また、「広域研修C」では、全国を北海道、東北、関東、関西、九州の5ブロックに分けた重機レベルアップ研修などを実施し、周辺自治体との連携を強化するとともに、地域の状況や課題に合わせた実践的な内容へと発展させている。

地域特性を生かしたレベルアップ研修

地域特性を生かしたレベルアップ研修

さらに、近年の豪雨や河川氾濫など水害の多発を受け、「広域救助艇モデル研修」を実施。水難救助隊や消防署員などの専門人員以外でも被災時に活動できる人材を育成するとともに、救助艇を活用した災害対応の強化を図っている。

救助艇を活用したレスキュー訓練

救助艇を活用したレスキュー訓練

平時から備える防災拠点の強み

防災拠点事業は、「防災倉庫・資機材整備」「人材育成」「自治体間連携」の三つの柱で、平時から災害に備える体制の構築を進めている。
  現場で即戦力として活躍できる人材の育成と、重機や救助艇などの資機材配備を両立しており、各拠点では避難所運営や救助活動に直結するさまざまな研修を実施している。
  さらに、自治体間の相互連携により、大規模災害時にも迅速かつ円滑な支援が可能となることが最大の特長である。

  後編では、こうした取り組みが実際の災害現場でどのように機能しているかを、具体的な事例と成果を中心に紹介する。被災地での支援の現場の様子や、研修・ネットワークの効果、地域への影響に迫る。

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