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水と笑顔をつなぐ場所 府中市B&G海洋センターの今とこれから(後編) 2025.07.23 UP

「この場所に来れば、誰かに会える、何かができる。そんな安心感が、海洋センターにはあるんです」
  そう語るのは、府中市B&G海洋センターの指導員・大越利夫さん。前編では、水に縁のない広島県府中市において、なぜ「海洋”センター」が必要とされ、地域に根づいていったのか、その背景と歩みをたどった。後編では、大越さん(以下:大越)へのインタビューを通じて、学校教育との連携、水辺活動、施設のこれからについて掘り下げる。

ー目次ー
■先生たちと一緒になって「水泳授業」をサポート
■プールで元気に!高齢者の健康づくりをお手伝い
■すべての子どもに、自然とふれあう体験を
■かつての子どもが、今、わが子の手を引いて

先生たちと一緒になって「水泳授業」をサポート

―地元の学校との連携を通じて、これまでどのような形で学校と関わり、子どもたちの成長をどのように感じていますか。

大越:
府中市B&G海洋センターでは、早くから地元の小学校との連携を進めてきました。単に施設を提供するだけでなく、職員が実際に学校現場へ出向き、授業の中に溶け込んで支援するというスタイルです。

今の学校の先生方って、忙しいんです。水泳の授業を前にして「どう教えたらいいのか分からない」と悩んでおられる先生も多くて。だからこそ私たちが、指導の順序だったり、声のかけ方だったり、 実践に即したサポートをしました。

移設された温水プール

水泳授業(バタ足練習)

具体的には、学校プールでの水泳指導、水辺の安全教室などを含め、幅広く対応しています。こうした活動は、教員からも児童からも大きな信頼を得てきました。

子どもたちにとって、水との触れ合いは、その後の人生にも影響を与えるかもしれない貴重な経験です。ただ泳げるようになるだけでなく、あわてず安全に対処できるようになることが、命を守ることにもつながるんです。

だからこそ私たちは、先生方と一緒に教えるという形で、子どもたちが水と親しむ機会を、安全かつ楽しいものにできるよう努力しています。

  • 水泳授業(クロール練習)

    水泳授業(クロール練習)

  •  水辺の安全教室(ペットボトルを使った救助法)

    水辺の安全教室(ペットボトルを使った救助法)

プールで元気に!高齢者の健康づくりをお手伝い

―高齢者向けのプログラムについて教えてください。どんな思いで取り組まれてきたのか、参加された方の声や印象に残っていることがあれば、ぜひ聞かせてください。

大越:
海洋センターでは、長年にわたり高齢者向けの腰痛・転倒予防や水中運動教室を展開してきました。特に好評なのが、水中ウォーキングを中心としたメニューです。

「プールに通うようになって体調がよくなった」「風邪を引かなくなった」という声がたくさん届いています。

転倒予防教室の様子

転倒予防教室の様子

また、教室に通う方が、自分の足でまた歩けるようになったと笑顔で話されると、本当にやってよかったと思いますね。地元の医師から「海洋センターに通ってごらん」とアドバイスされたというお年寄りもいるんですよ。

すべての子どもに、自然とふれあう体験を

―府中市にある艇庫でも、子どもたちがさまざまな体験をしているそうですね。艇庫活動に関する考えを聞かせてください。
大越:

まさにこの艇庫こそ、内陸のまちで、水と自然に親しむことの大切さを体現している場所だと思っています。川に浮かび、カヌーのパドルを握って自分の力で進む。そうした体験が、子どもたちにとって、大切な学びの場になっていると思います。

水の上では、バランス感覚や周囲との協調も必要になります。そして何より、水面に出て、風や光、流れといった自然を全身で感じることができる。学校では味わえない、自然の中でしか得られない学びが詰まっています。

―障がいのある子どもたちへの取り組みについても教えてください。
大越:

はい。自然体験の機会に恵まれない障がい児や、支援が必要な子どもたちを対象とした「カヌー教室」を開催しています。これは、体験格差の解消を目指す、大切な取り組みです。

最初は怖がっていた子も、ゆっくり水に慣れて、風を感じて進み出すと、みんな本当にいい顔をするんですよ。水の上に出ただけで、まるで世界が変わったような表情になる瞬間があります。子どもの心や体、社会性の育成に、自然体験が効果的であることは、国の調査研究でも明らかになっています。

だからこそ、障がいの有無に関係なく、自然の中で過ごす体験を提供していきたいと思っています。安全への配慮を徹底しつつ、チャレンジする気持ちを尊重する。それが、子どもたちの生きる力につながっていくと思います。

  • 体験格差解消 カヌー体験会

    体験格差解消 カヌー体験会

  • カヌー体験会の様子

    カヌー体験会の様子

かつての子どもが、今、わが子の手を引いて

―移転・リニューアルを経て、新たなスタートを切った海洋センターですが、変化はありましたか?
大越:

もちろん、施設が新しくなったことで、利用者にとっての利便性や快適性は大きく向上しました。最新の設備や広々とした空間が整い、使いやすくなったという声も多く聞きます。でも、うれしいのは、それだけではありません。

最近、かつて水泳教室に通っていた子どもたちが、今では親になって、海洋センターに戻ってきてくれるんです。小さい頃に自分が泳いでいたプールに、今度は自分の子どもを通わせたいと言ってくれる。その言葉が、本当にうれしいですね。

施設が新しくなっても、この場所にある人と人との距離の近さや、あたたかさは変わらない。それがあるからこそ、安心して自分の家族を連れて戻ってきてくれるんだと思います。

―最後に、今後の海洋センターに対する思いや期待をぜひ教えてください。

大越:
スマホやゲームが当たり前の時代。でも、ここに来れば、体を動かして、誰かと顔を合わせて、笑い合える。そういう場所であり続けたいですね。

大きな声で笑って、水しぶきを上げて、友だちと一緒に何かをやり遂げる体験をする。そうした時間が、心と体を健やかに育てるだけでなく、子どもたちにとっての大切な居場所になっていくと思います。

利用者と笑顔で話す大越さん

利用者と笑顔で話す大越さん

子どもたちにとって、いつでも戻ってこられる場所であってほしい。困ったとき、息が詰まりそうなとき、ふと思い出して立ち寄れるような、そんな安心感のある場として、これからもあり続けたいと思っています。

 府中市B&G海洋センターは単なる施設の枠を超え、地域の人々がつながり合う、心の拠り所となっている。かつてここで泳いだ子どもたちが大人となり、自分の子どもを連れて戻ってくる。世代を越えて引き継がれる信頼。これこそが、海洋センターの本当の価値だとあらためて思う。
自らの原点を、次の世代へとつなぐために。大越さんの歩みは、これからも続いていく。

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