着るだけじゃダメ? ライフジャケットの効果を生かすには


こんにちは、事業課の持田です。
 
このところ、船下りやゴムボートなどの事故が続いています。
・3月28日 川下りの舟が転覆し乗員全員が川に投げ出される。船頭の男性2人が死亡。手動の腰巻きタイプのライフジャケットに膨らんだ形跡無し(京都 保津川)。
・5月5日 商業ラフティングのボートが転覆し19歳の男性大学生が死亡。乗客乗員は全員ライフジャケットを着用していたが、男性は脱げた状態で発見された(群馬 利根川)。
・5月21日 漂流していたゴムボート(2馬力船外機)と47歳の男性が見つかり、病院で死亡が確認された。男性は救命胴衣を着用していなかった。(鳥取 米子市沖)
 
いずれのケースも、ライフジャケットの性能が発揮できていなかったように思われます。
そこで今回、ライフジャケットの着用状態で、浮き方に差が出るかを試してみました。
用意したライフジャケットはレクリエーション用途で、脇腹と肋骨の下端あたりに左右2ヵ所ずつ締め込みのベルトがついています。
 
まず、「それなりにキツめ」にベルトを締めて水に浮いてみます。(これ以上締めると動きにくく、呼吸も苦しくなる程度です)




仰向けに近い「ラッコ浮き」の体勢では調子が良いですが、直立に近い体勢になると、ライフジャケットはそれ自体の浮力によって上にずり上がってきました。ただし、ぎりぎりアゴ先までは水面から出ている状態です。体勢によっては、更にずり上がってくる恐れがあると感じました。
 
次に、ベルトを「かなりユルめ」にしてみます。


すると写真のように、ライフジャケットが体から抜けるような形で上に持ち上がってきました。
試しに両手を上に伸ばしてみましたが、そのまま脱力をつづけていると、間違いなく脱げてしまうと思いました。
 
「ユルめ」はともかく、「キツめ」でもずり上がるのはなぜか?
原因は、
① 水に入ることで体が収縮(水温や水圧)する。呼吸が浅くなり肺の空気量が減少する。
それによって胸囲や胴囲が小さくなり、締め込みがユルくなるため。
② 衣服とライフジャケットの繊維の摩擦が小さいうえ、間に水が入ることで、ライフジャケットの引っ掛かりが減少するため。
③ ずり上がり防止の股ベルトが無いため。
といったことが考えられます。
 
それに対して着用者ができる対策はといえば、
ライフジャケットが浮きあがってしまったら、両手でライフジャケットを下半身方向に引き下げて、片手で押さえると同時に、もう片手でベルトをきつく締め直す。
ライフジャケットの内側に滑り止めのゴム等がついている製品を購入する。
股ベルトがついている物を購入する、と言いたいところですが、大人用でそういった製品はほぼ見たことがありません。どうしても心配であればご自身で縫い付ける。
といったところです。
 
 
そもそも、私たちが一律に「ライフジャケット」と呼んでいる道具は、機能や法令に準じていくつかのグレードに分かれており、呼び方すら違います。それらはライフジャケットの内側の説明書きに詳しく記載されています。
北米の啓発サイト「Boat smart!」の区分を参考にすると下記のようになります。
1.TYPE1:LIFE JACKET 沖合用のライフジャケット
2.TYPE2:BUOYANCY VEST 沿岸用の浮力ベスト
3.TYPE3:BUOYANCY AIDやPersonal Floatation Device(PFD) 浮力補助具
 
それでは、今回着用の「ライフジャケット」の内側を見てみます。


カヌーやヨット用に販売されているこの製品は「BUOYANCY AID(浮力補助具)」の位置づけです。
そして、「THIS IS NOT A LIFE JACKET」と明確に記載されています。
これでも成人の頭部が水面に出る程度の浮力(6-7kg)程度は確保されているので、水上レクリエーションの範疇であれば実用上は問題ありません。
ちなみに、TYPE1の「沖合用のライフジャケット」はと言えば、なんとこの3倍、浮力20KGもあります。
これは、旅客船などが外洋で転覆するなどして、長時間海面で救助を待つための道具だからです。そんな状況ですので快適さや動きやすさではなく、浮力や視認性が最優先ということですね。
 
 
実際のところ、激流下りのカヌー競技や、波の高いセーリングヨット競技でも、競技ルール上「BUOYANCY AID」「PFD」の着用で問題はありません。(浮力やベルト強度など細かい定めはあります)
私見になりますが、一般的な水辺のレクリエーションにおいても「PFD」で十分だと思います。
ただし、それでも選ぶ際に重要なのは、以下の3点かと考えます。
体重に対して適切な「浮力」があり、「適切に浮く」こと
 ・体重の10%程度の浮力があれば、口が水面上に出る
 ・きちんとした設計のものなら浮いた時に胸が上を向きやすい
体格に合わせてフィット感を調整できること
 ・締め具合を調整するベルトが数点ついていること
 ・小学校低学年くらいまでは、すっぽ抜け防止の股ベルトがあった方が良い。
 ・幼児向けには、頭の後ろを支える枕状の浮力材がついているものが良い。
目立つ色を選ぶこと
 ・自然の海や川は結構濁っており、派手な色の方が圧倒的に目に留まり、見つけやすい。
最低でもこの3つは重要だと考えます。
 
残念ながら、ライフジャケットは水面の条件や着用の仕方によって脱げることもあるし、流れや波の影響を受けて頭が沈んでしまう瞬間もあり、完全な道具ではありません。
しかし、個々人が自分の命を守るのに効果的なアイテムであることは間違いありません。
ただ着用して安心するのではなく、自分の体格や使用目的に合った製品を選んだ上で、正しく着用し、ずり上がった時にも対応できるようにしてください。
 
(補足)
製品によりライフジャケット、救命胴衣、PFDなどの呼び方がありますが、本稿では一般的なライフジャケットの呼称を使いました。
 
 


事業部 事業課 持田 雅誠

2 コメント

  1. 埼玉久喜市  川島 より:

    お疲れ様です。「ライフシャヶット」の詳しい説明をありがとうございました。天竜川の船の転覆以来ライフジャケットを着けるようにはなりましたが、持田さんの言う通り、ただ着けてるだけでは宝の持ち腐れですよね。その辺は私も「水安教」で特に強調しているところです。 既に大きな水の事故が起きてますが、少しでもウォーターレジャーでの死亡事故は減らしたいですね。

  2. BG持田 より:

    川島さん コメントありがとうございます。  以前、児童関係の施設の方から「ライフジャケットの重要性を知って購入したいが、選び方が分からない」という相談を受けて回答したことがありまして、それも含めてみました。 ライフジャケットは単なる便利な道具であって、それ自体が安全を保証してくれるものではありませんから、起こり得るケースやその対策を知っている「経験ある指導員」からのレクチャーが本当に大事だと思います。 現場で地道に指導いただいている皆さんの活動に敬意を表します。

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