2024.11.27 UP 第21回 B&G全国教育長会議
第21回B&G全国教育長会議をイイノホール&カンファレンスセンター(東京・千代田区)で11月22日に開催。全国45 道府県238自治体から教育長222人、代理出席16人が参加し、「部活動の地域“移行”から“展開”へ!~指導者の確保は課題解決に繋がるのか?~」をテーマに、部活動の地域移行における課題や指導者の確保などについて、情報共有と意見交換を行った。
会議に先立ち、B&G財団会長の前田康吉は会議出席のお礼を述べた後、「今回は部活動改革をテーマに、改革を進めるうえで課題の一つである『指導者の確保』に焦点を当て考えたい」とし、「基調講演や事例発表などを参考に、課題解決に向けた積極的な意見交換の場となることを期待している」と挨拶した。
日本財団 尾形武寿 理事長は来賓挨拶で、最近、テレビ等で子どもの虐待が毎日のように取り沙汰されている。かつて子どもは国の宝として地域社会の中で皆で育てた。日本財団は子どもの権利条約が批准されてから長く、子どもの権利を保障する法律がない状況を鑑み、こども基本法の制定を提案し施行された。また子どもたちの教育について一石を投じたいとの思いで、ZEN大学をつくり認可を受け、来年4月の開学が決定したと話し、「世の中を変えられるのは子どもたち。子どもたちのために皆さんと一緒に世の中を変えていきたいと思う」と述べた。
正副会長の選任
続いて、B&G全国教育長会議会長の正副会長の選任が行われ、会長に兵庫県養父市 米田規子 教育長、副会長に福島県塙町 秦 公男 教育長、高知県四万十町 山脇光章 教育長が全会一致で承認された。
基調講演
地域部活動の新しい形の創出 ~「学校部活動」を新たな「地域コミュニティ活動」へ~
一般社団法人 未来地図 代表理事 代田 昭久 氏
なぜ、部活動の地域移行は進まないのか?
① 手段であるはずの「部活動の地域移行」が目的化している
手段が目的化すると、休日の部活動を地域の人たちに任せておけばいいと解釈し、教職員の負担を肩代わりさせるという空気になる。地域移行後の理想的な姿が十分に検討されないまま、目的である「子どもたちのための持続可能で多様性のある文化芸術・スポーツ活動を創造する」が関係者で共有されない状態で取り組みが開始されている。
② 「目的」に子どもたちの意見が反映されていない
部活動移行後の理想の姿を大人だけで決めてしまい、「目的」に子どもたちの意見が尊重されていない。子どもたちの志向やニーズは劇的に変化しており、大人の価値観や固定観念だけで進めていくことは極めて危険であり、子どもたちの意見を尊重することが、改革の王道である。
③ 「目的」から逆算し、新しい手立てが打てていない
地域移行という言葉が一人歩きをし、学校・保護者・地域・関係者がそれぞれ異なる解釈をすることで混乱の元となり、新しい手だてが打てていない場合がある。部活動に積極的に関わっている生徒や関係者、団体などを中心に進めているために、これまでの部活動の役割や価値に捉われ、あるべき未来の検討に至らない。理想は幼児から高校生まで全ての子ども(運動が苦手・経済的な活動が困難・学校に馴染めないなど)をはじめ、部活動に消極的な生徒、保護者、企業などを含めて検討し、将来あるべき未来像を描いて、到達に向け新しい手立てを実行することが必要である。
どうしたら、人材を確保できるのか? ―人材確保のための方向性―
① 「指導者の確保」から「人材のネットワーク化」へ
教職員の肩代わりをする指導者はいないし、確保するというスタンスでは主体的な参加は望めない。指導ではなく、伴走・支援してくれる人材をつなげていくことが大切。これまで一人の指導者(教職員)が担ってきた役割を運動指導・専門的技術・教育的支援・大会運営等サポートなど、4段階程度に定義し直し、地域の人に分担してもらうことから始める。確保するという上から目線の発想から、「地域の子どもは地域で育てる」という旗印のもとに人材をネットワーク化する、人づくりの発想へと転換する。
② 「自治体単位」から「広域の連携」へ
現在、過疎地域に指定されている自治体は全体の51.5%にあたる885市町村に上る。子どもが減少している地域では現役世代も減っており、指導者の確保のみならず、施設の整備や移動手段の確保など、単独の自治体では対応が困難なことが予想される。自治体の枠を超えた広域(ブロック、県、地区単位)な連携を進めて協働的な解決を図っていく必要がある。
③ 教職員の力を生かす
運動部活動指導者の教職員を対象にしたアンケートでは、適切な報酬が支払われ、自分の専門分野が生かせれば、地域指導者として部活動の指導をやってもいいという教職員は2割程度いる。地域の社会教育活動として、こうした教職員を生かしていく。地域の住民と学校の教職員のコラボレーションは、地域の教育力の向上につながる。
部活動改革を成功させるために
子どもたちが意見を言える・尊重される部活動改革を推進し、活動の質(主体性)や量(時間)の適正化を図り、子どものニーズ・志向に合わせた多様な選択肢を提供することが大事。そうすることで、子どもたちのやりたい活動が全国各地へと広がり、例えば「旅するクラブ」や「ご当地グルメクラブ」「伝統芸能クラブ」の設立をきっかけに、自治体同士がつながる契機にもなる。
これまでの社会が育成しようとしてきた人材づくりとは本質的に異なるアプローチが重要になる。AIに代替されやすい能力を鍛えるのではなく、これからは子どもたちの生々しい体験から自然に湧き起こる「内発性(内発的動機付け)」が欠かせない。部活動改革は子どもたちが好きなことに積極的に関わり、深く豊かな知覚を持って探求できる環境づくりの絶好の機会になる。自治体単独でなく、本会議を全国の教育委員会がつながるチャンスと捉え、みんなで力を合わせて、部活動改革に挑戦していきたい。
事例発表①
佐渡市地域クラブ活動の取組
新潟県佐渡市 教育長 香遠 正浩 氏
佐渡市地域クラブの概要
佐渡市では「スポーツや文化活動に親しみ、生きる力を育み、自己実現を図る」を目標に掲げ地域クラブの活動に取り組んでいる。勝利を目指すスポーツや、技術向上をねらいとする文化芸術活動のみならず、楽しく取り組める活動を用意。指導者、友達、異年齢との交流・協働により社会性を養うとともに、生徒一人一人が望む活動を選択できる環境を整備し、達成感が得られる活動を用意することで、自分のよさや可能性を再確認できる地域クラブを目指している。
活動形態は「スキップ型」と「エンジョイ型」があり、スキップ型はこれまでの部活動種目を中心に個々のスキルアップや経験を積めるよう、学校の枠を超えての参加が可能。エンジョイ型はスポーツや文化活動を楽しむことを目的に学校の部活動にない種目とし、誰でも活動に参加できるようにした。
地域人材の活用
指導者がいなくては活動ができないため、スポーツ活動は各種競技団体やスポーツ協会に指導を依頼している。文化活動は、公民館の自主講座等で活動しているメンバーに指導を依頼して実施。この自主講座のメンバーが指導者となることで、生涯学習の循環につながるものと考えている。
また、学校の教員と同様の信頼を得、活動中の安心・安全を確保するために、指導者に安全管理マニュアルと指導の手引きを渡し、会場からの避難経路や適切なコミュニケーション等についてあらかじめ考えておくように伝えている。
地域人材の育成
地域クラブ活動の成否は指導者の評価にかかっている。指導者にはカウンセリングマインドや発達段階における中学生の特性等について研修会で学んでもらう。さらに、指導技術向上のため、SEA(スポーツ国際交流員)の制度を活用し、専門的な技術指導を行っており、生徒や保護者からも好評を得ている。
佐渡市では、今後も島外企業との連携による指導者の確保や、送迎等の保護者の負担感などの課題と向き合いながら、地域クラブ活動の取り組みを進めていく。
事例発表②
海クラブ伊豆海洋クラブの取組
B&G海クラブ伊豆海洋クラブ 代表 酒井 厚志 氏
2004年に下田市立白浜小学校の校外活動で、PTAを中心に釣りや海草押し花づくりなどのサポートしたことをきっかけに活動開始。この活動を継続、安定した運営ができるように、2012年にNPO法人海クラブ伊豆を設立した。 設立後、白浜小学校だけでなく、下田東中学校、浜崎小学校、下田中学校など周辺の小中学校のマリンスポーツ体験会やクラブ活動なども担当している。より安定した活動に向け、2020年にB&G海洋クラブに登録して事業を拡張。現在は一般社団法人マリンネット下田、一般社団法人白浜オーシャン管理機構、NPO法人下田ライフセービングクラブと協力して事業を展開している。
特徴的な活動として、中学校の部活動としては宮崎県日南市に次いで全国2校目となる、下田中学校にサーフィン部を設立し、その指導にあたっている。現在の部員総数は39人で、月・金曜日は陸上トレーニング、火・木曜日はプールトレーニング、土または日曜日は海トレーニングを行っている。
部活動が生徒に与える効果として、自己効力感の向上や心身の健康維持、環境意識の向上などがある。地域に与えた影響としては、3人の部員の家族が県外から移住してきたことや、保護者や地元サーファーが“見守り隊”として、活動の安全を見守るボランティアの協力体制が構築されたことなどが挙げられる。今後も助け合う心の育成や環境問題、海の怖さを知るなど、マリンスポーツだけでなく、様々なことを学び得る機会をつくっていきたい。
スポーツ庁からの説明
部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行に向けた環境の整備
スポーツ庁 地域スポーツ課 課長補佐 竹河 信裕 氏
少子化が進む中でも、将来にわたり生徒がスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことができる機会を確保するため、「地域連携」として合同部活動や部活動指導員等の活用、「地域移行」として休日の地域クラブ活動を推進してきた。地域移行に取り組む部活動数は年々増加しており、2025年度までに全体の54%(23,308部活動)が地域連携または地域移行での活動を予定している。
スポーツ庁では「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」の中に、地域スポーツクラブ活動と地域文化芸術活動の2つのワーキンググループ(WG)を立ち上げた。それぞれWGで実証事業の取組状況を踏まえた課題の整理や解決策の検討、受益者負担と公的支援のバランスを踏まえた今後の在り方などについて議論している。
2026年度以降は「改革実行期間」として、地域移行という名称を「地域展開」に変更し、市区町村が幅広い関係者の理解と協力の下、平日・休日を通した活動を包括的に企画・調整し、多様な選択肢の中から地域の実情等に合った望ましい有り方を見出していくことが重要であると考え検討を進めていく。
基調講演・事例発表後は「コーヒーブレイク」。ホワイトボードに貼られたテーマなどを話題に、教育長同士の和やかな意見交換が行われた。
会議再開後、B&G財団事業説明と能登半島地震被災地支援事業報告を行い、常務理事の朝日田智昭は今年1月に実施した防災拠点に配備した重機の現地派遣をはじめ、児童養護施設への飲料支援、遊び場を失った子どもたちに運動機会を提供する水上運動会・プレイパーク、震災遺族への新盆支援など、これまでに実施した被災地支援活動について報告を行った。
最後に、B&G全国教育長会議の提言として、新たに「多様な活動ができる環境の整備」を追加することを出席者全員で確認し会議が終了した。
一、多様な活動ができる環境の整備
子どもたちが将来にわたり、多様なスポーツや文化活動に親しめる環境を創り、地域活性化につなげよう