2023.11.10 UP 第20回 B&G全国教育長会議

「地域の子どもは地域で育てる!―子どもが主役の部活動改革―」をテーマに全国の教育長らが意見交換

日本財団助成事業

「第20回B&G全国教育長会議」を11月8日、ベルサール汐留(東京・中央区)で開催した。今年は過去最多となる全国44道府県212自治体から教育長202人、代理出席10人など総勢260人以上の自治体関係者が参加。「地域の子どもは地域で育てる!―子どもが主役の部活動改革―」をテーマに、少子化の進展に伴って学校単位で持続が難しくなってきている部活動の地域移行に向けた取り組みや、子ども中心の改革の進め方について考えた。

会場の様子

会場の様子

冒頭で、B&G財団会長の前田康吉は会議出席のお礼を述べた後、「今年度はスポーツ庁・文化庁が示す部活動の地域移行改革推進期間の初年度。各自治体では少子化が進む中、子どもたちが持続的にスポーツや文化芸術活動に取り組める環境を整えるために様々な角度から検討や実践を進められていると思う」と挨拶。シンポジウムや先進事例が各自治体の課題を解決するヒントになればと述べた。

日本財団専務理事の前田晃氏は来賓挨拶で、「少子化の時代を迎え、部活動の地域移行を進めるにあたっての課題をどのように解決するか議論する場が設けられたことを大変心強く思う。B&G所在自治体の中でモデル的な取り組みが出てくることも期待したい。」と話した。

  • B&G財団会長 前田康吉

    B&G財団会長 前田康吉

  • 日本財団専務理事 前田晃氏

    日本財団専務理事 前田晃氏

B&G全国教育長会議副会長 米田規子氏

B&G全国教育長会議副会長 米田規子氏

次に、大分県中津市の粟田英代教育長が2023年3月をもって同職を退任し、B&G全国教育長会議副会長も辞任したことに伴い、新たに兵庫県養父市の米田規子教育長が副会長に選任された。これにより会長が千葉県成田市の関川義雄教育長、副会長が岡山県奈義町の和田潤司教育長と新任の米田教育長という体制になった。

続いて財団事務局より、会議に先立ち、B&G所在383自治体教育長を対象に実施した「部活動の地域移行に関する現状調査」(2023年8月実施/有効回答数307)の結果を報告。回答自治体の約8割がまだ検討の段階にあることや、最大の課題は「指導者不足や受け皿となる団体の確保」だと認識されていることなどを発表した。

シンポジウム「子どもが主役の部活動改革を考える~新しいブカツのかたち~」
ファシリテーター:代田昭久氏

セッション1「国の方針と先進事例」
部活動の地域連携や地域スポーツクラブ活動移行に向けた環境の一体的な整備について
スポーツ庁 地域スポーツ課長 橋田裕氏

スポーツ庁 地域スポーツ課長 橋田裕氏

従来の部活動の整備は、生徒のスポーツ・文化芸術に親しむ機会の確保や責任感・連帯感の涵養等が目的にあった。しかし、少子化が進む中、学校単位での運営が困難になってきている。また専門性・意思に関わらず、先生が顧問を務めるという体制は、働き方改革が進む中でより困難になっているという状況だ。

2022年12月に策定したガイドラインでは、新たな地域クラブ活動に関わる運営団体の整備、様々な関係者から成る協議会の設置、質の高い指導者の確保を明記した。都道府県レベルでは教員研修の提供、生徒のニーズに適したプログラム提供、原則1日の休養日の設定等々を示している。
方向性としては、まず休日の環境整備を着実に実施。平日の取り組みについては休日の取り組み状況を検証しながら更なる改革を推進していくという方針だ。新たな地域クラブ活動は、多様な団体が運営団体となるケースが想定されるが、子どもを相手にする活動であり、学校と連携し情報も共有しながら取り組んでもらうイメージとなっている。

部活動の地域移行に向けた実証事業は令和6年度概算要求で27億円を求めており、令和5年度予算の11億円から大幅に拡充する。自治体のニーズを調査し、それを踏まえ実証事業を拡充するが、併せて制度的に取り組んでいただける9都道府県ほどを重点地域に指定し、政策課題への対応を深掘りして推進することを考えている。

事例発表
静岡県掛川市 教育長 佐藤嘉晃氏

静岡県掛川市教育長 
佐藤嘉晃氏

掛川市は令和8年夏に部活動を廃止する。
「部活動は教育的に意義がある、やめるべきではない」といった声を聞くが、種目は限られ、運動部であれば週4日以上の活動が一般的。当然複数の活動に参加することはできない。気軽に参加したいと考えても上位大会に繋がるため、指導者や子どもたちによっては、結果を追い求める雰囲気になってしまう。

また子どもや保護者の期待があれば、それが未経験の種目であっても顧問はその期待に応えようとする。しかし教員は本来、子ども1人1人にしっかり向き合って、生徒支援に力を向けるべきと考えている。
部活動の廃止は、子どものスポーツ文化活動の環境をなくしてしまうのではなく、「変化が激しい時代でも、部活動として持続できるよう新しい形を悩み考え、ともに作ろう」という社会全体へのメッセージだ。

本市は、部活動の自由加入制と共に地域クラブ制度を始めた。部活動の形でなくても子どもが夢中で取り組めるのであれば選択肢となる。ここ1年半で予想を上回る20以上のクラブが誕生し、地域に可能性があることがわかった。全て地域団体で、学校や行政が運営しているのは一つもない。現在学校は教育総務や多岐にわたる業務により、こうした改革を進めていくゆとりがない。だからこそ、改革は学校任せにするのではなく、やはり行政主導で前へ進めていかなければならない。

事例発表
兵庫県南あわじ市 教育長 浅井伸行氏

兵庫県南あわじ市 
教育長 浅井伸行氏

南あわじ市は中学生が1年生から3年生まで1159名おり、運動部34、文化部12で計46の部活がある。しかし2022年に生まれた子どもが192名で、いずれ中学校の生徒数が確実に600名を切る。
この現状から、部活動地域移行はまずやらないという選択肢はない。令和5年4月から必ずスタートすると決めた。基本方針として、1つ目は子どもたちの選択の幅を狭めず、反対にこれまでの部活動ではできなかったことへも広げていくということ。そして2つ目は「できるところからできる範囲で」進めていくということ。

まず部活動の受け皿となる団体に私自身何回も説明に行き、強制ではないことを説明し「受け入れ可能な条件」を挙げるよう依頼した。
受け入れ団体の準備をしつつ、子どもたちにはアンケートを取り、各団体とマッチングしていくという作業を行った。
非常に大切なのは、どのような協力体制を作っていくかということ。私は最終的に社会教育への移行だと思っている。部活動をやりたいところは部活動をやる。合同部活動もある。統廃合もある。
また本市のB&G海洋センターも部活動の地域移行の核となる施設として、今後も有効利用しながら、子ども達の選択肢を広げていきたい。

事例発表
(株)オフィスホシノ 代表取締役
静岡聖光学院 前学校長
東芝ブレイブルーパス東京 プロデューサー
星野明宏氏

(株)オフィスホシノ 代表取締役 
静岡聖光学院 前学校長 東芝ブレイブルーパス東京 プロデューサー 星野明宏氏

私が勤めていた学校は、私学ではあるものの創設者の意向で、部費も少なく、練習できるのも週3回、平日60~90分など、部活には校則として様々な制約があった。ラグビー部顧問就任当初は、花園予選で1番鍛えたい時期に、ウォーミングアップをしていたら終了時間が来てしまうような状況。

そこで発想の転換をし、時短の練習メニューを取り入れたり、自分自身に必要なメニューを考え、取り組ませるなど生徒達の主体性を引き出すマネジメントをし、いわゆる「ひとり部活改革」をした。
部活動を地域に移行するヒントとして、「部活を何とかしないと」と言うと無理だ。なぜなら部活で一生懸命やって良い思いをして、大人になっている人は意外に少ない。それ以外の人に関心を持ってもらうように、地域の活性化や人手不足の解消などの未来を伝え、巻き込むのが大事だと感じる。

クリエイティビティというのは自由からは何もできず、制約があるからこそ実現できるといわれる。今の子ども達は予測不能な時代を何とか突破していく必要がある。大人の得意ジャンルは、資金集めやネットワークもしくはコンプライアンスやリスクマネジメント。子どもたちには発想を任せ、役割分担をして、大人もチャレンジすることで部活動改革がどんどんいい方向に進み、自分らしく生きられるような未来ができたら嬉しく思う。


セッション2 「子どもが主役の改革を」
全国の子どもたちが求める文化・スポーツ活動とは?―イマチャレ1万人アンケートの結果から―
筑波大学 体育スポーツ局 研究員
つくば市部活動改革統括コーディネーター
稲垣和希氏

つくば市部活動改革統括コーディネーター 稲垣和希氏

部活動改革を進めていくための根拠となるデータが必要ではないかと考え、今回実施したアンケートでは2023年7月から9月の期間で、中学1年生から3年生を対象に、1万2000を超えるデータを取得した。75%の生徒が部活動改革を知らないという結果が出ているほか、生徒は主体的で多様な経験を求めていることがわかった。

生徒がどれくらい部活に費やしているか調べてみると、運動部は年間515時間。授業数は850時間と言われているが、その3分の2ほどを運動部に費やしている。これに学校以外の習い事などが年間250時間。因果関係は不明ながら6時間未満の睡眠時間の生徒が3割程度という結果もあり、平均でも、中学生の推奨睡眠時間といわれる8時間30分を大きく下回っている。世界と比較してみると日本の部活動は非常に特殊で、異常と言われてもおかしくない。

一つの活動に熱中してこその学びというのもあるとは思うが、これだけ価値観が多様化し、転職も当たり前になり新しいものを生み出していく社会の中で、今の部活のやり方が本当に子どもたちのためになるのか。
多様な体験をするための時間を子どもたちに返していくという発想も必要なのではないか。
この改革は、各自治体においても一部ではなくすべての子どもの声、そして教員や保護者の声を聞いて進めていくことが重要だと考えている。

(一社)未来地図 代表理事
長野県飯田市 前教育長
代田昭久氏

(株)未来地図 代表理事 長野県飯田市 前教育長 代田昭久氏

長野県飯田市の教育長に就任して部活動の現状を改めて見たとき、体罰の問題や不登校の原因になっていることを知り驚いた。一度全ての子どもたちが部活動をどう思っているのか知りたいと、平成30年度に実態調査をしたのが、私の部活動改革の発端だ。
結果、部活動時間が665時間以上あり、400時間程度の適正な時間にするという方針を掲げた。校長会そして子どもたちのアンケートを基に、まずは1ヶ月間だけ放課後の部活動をオフにし、令和2年度からは冬季11月〜1月の部活動を止める決断をした。

当初「オフ期間」に賛成した子どもは44%だったが、反対派の子どもたちに意見を聞くと、時間があってもやりたいことがわからないという。そうなると教育の根本的な問題として、部活動は子どもたちの内発性・主体性を育めてないのではないかとなった。そこで令和3年度に筑波大学と連携協定を結び、スポーツ心理学を導入。内発的動機付けが生まれるような時間にするため、「オフ期間」という名前をやめ、地域の受け皿を作りながら「ジブンチャレンジ期間」にした。

現在は14市町村と連携し、1番人気のeスポーツの他、長野県阿南町海洋センタープールでのカヌー・SUP体験や、下條村海洋センターでのクライミング教室など、オフ期間に多様な活動を提供している。
部活動の地域移行については、子どもたち主体で今の課題は何なのかということにフォーカスしている自治体ほど進む傾向にある。


セッション3「課題解決に向けて」

各自治体が最も大きな課題と認識する指導者確保などについて、会場を巻き込んだディスカッションが展開された。シンポジストからは、プロスポーツチームとの連携や効果的に指導者を確保するための方策などが提案される一方、会場からは、独自の施策を行う教育長の取り組み発表もあり、活気溢れる議論となった。

本会議の総括として「B&G全国教育長会議」正副会長は、「一、持続可能なスポーツ環境の整備」を提言。地域が一丸となって将来にわたり子どもたちが多様なスポーツに親しめるような環境を創り、心身ともに健康な子どもたちを育てていくことが重要だという認識を出席者全員で確認した。

提言

一、持続可能なスポーツ環境の整備
地域一丸となり、子どもたちが将来にわたり多様なスポーツに親しめる環境を創ろう

会議の最後には、B&G財団理事でシドニーオリンピック競泳銀メダリストの中村真衣氏とB&G財団評議員の谷川真理氏が挨拶。アスリート目線で、心身の著しい成長期にひとつの種目だけに注力することによるリスクについても言及し、子ども達が好きなことに好きなだけ取り組める環境を作って欲しいと訴えた。

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