2022.11.14 UP 第19回 B&G全国教育長会議

「これからの学校教育 ~学校と地域の視点から見る課題解決~」をテーマに全国の教育長らが意見交換

日本財団助成事業

11月9日、「第19回B&G全国教育長会議」を霞が関プラザホール(東京・千代田区)で開催。全国42道府県186自治体から教育長171人、代理出席15人が参加し、「これからの学校教育 ~学校と地域の視点から見る課題解決~」をテーマに、不登校児童生徒に係る自治体の取り組みや支援策などについて意見交換を行い、子どもたちの豊かな成長につなげるためにどうするべきかを考えました。

会場の様子

会場の様子

会議に先立ち、B&G財団会長の前田康吉は会議出席のお礼を述べた後、「不登校の児童生徒数が過去最多となっている現状や教育現場の働き方改革への対応など、学校と地域が一体となって課題に取り組むことが不可欠となっています。基調講演や事例発表などを通して、教育行政の今日的課題について皆さんと一緒に考えていきたい」と挨拶しました。

日本財団 尾形武寿 理事長は来賓挨拶で、不登校の社会的要因や背景を話したうえで、「日本財団は学校が終わってから子どもたちが安心して通うことができる『子ども第三の居場所』の全国500ヵ所の設置をはじめ、小児難病児を抱える家族のための『レスパイトハウス』を企業と連携して整備しています。海洋センターのある所にこうした施設を整備し、複合施設として利用価値を高めて、昔からあった日本のいい生活習慣を取り戻していきたいと考えていますので、私たちと一緒にいろいろな施策に携わっていただきたい」と話されました。

続いて、B&G全国教育長会議会長の千葉県成田市 関川義雄 教育長、副会長の大分県中津市 粟田英代 教育長、岡山県奈義町 和田潤司 教育長が登壇し挨拶を述べた後、関川会長は「今回は不登校対策など教育現場が直面している課題を取り上げ、解決に向けた取り組み事例の発表や国の支援策などについて説明いただきます。皆様からも積極的にご発言いただき、有意義な会議になるようご協力をお願いします」と開会を宣しました。

  • 主催者挨拶 B&G財団前田会長

    主催者挨拶 B&G財団前田会長

  • 来賓挨拶 日本財団尾形理事長

    来賓挨拶 日本財団尾形理事長

  • 全国教育長会議 会長挨拶
										千葉県成田市 関川教育長

    全国教育長会議 会長挨拶 千葉県成田市 関川教育長

基調講演
今後の公教育の未来について ~広島県の「学びの変革」の取り組みから~
広島県教育委員会 教育長 平川 理恵氏

広島県教育委員会 教育長 平川 理恵氏

私はいつも「根源・長期・多様」を意識して、今実施している教育を俯瞰して考えるようにしています。
 真に主体的・対話的で深い学びを実現するために現場主義を貫き、様々な選択肢を作り出し、いいと思ったこと、できることをどんどんやっていく、これまで校長として「おかしい」「変えたい!」と思っていたことを変えていくことをミッションにしています。

組織風土を変えるため、就任後すぐに、学校に行って気づいたことなどを書いた、手書きの瓦版「平川通信」を作って、執務室やトイレなどの公共スペースに掲示したり、「教育長と一般教員がざっくばらんに語る会」を何度も実施。また、視覚的に伝えることが大事だと考え、市町の教育長や指導主事、教員と一緒に、オランダのイエナプラン教育やアメリカのビジネスハイスクールをはじめ、国内外の先進事例視察などを行いました。
 2019年4月には国際バカロレア認定を受けた、全寮制の中高一貫校「広島県立 広島叡智学園」が開校。2022年4月にイエナプラン教育を取り入れた「福山市立 常石ともに学園」も開校し好評を得ています。この学校は1年生から3年生までが混在したグループで学級編成され、それぞれに合った方法で自立的に学習を進めています。複式学級を有する学校での導入が可能だと思いますので、ぜひ見に来てください。

不登校対策では、2021年度から学校内の別室を使ってSSR(スペシャル・サポート・ルーム)を設置。教員不足を補うため、指導主事が直接学校を訪問するとともに、「オンライン部活」を開始しました。
 このオンライン部活が活発になる中で、リアルとオンラインのどちらでも繋がれる場を提供したいとの思いから、2022年度に「School S」を設置。自治体の古い現有施設を指導主事などスタッフが自ら改修を行い、児童生徒が居心地の良い空間を作って、一人一人に合った多様な学習機会を提供しています。学校が地域の民度を決める、地域教育を担っているという観点から、特例校とはせずに運営しています。
 商業高校のアップデートにも取り組み、生徒に「生きるって何?」を問うことからはじめるビジネス探究プログラムの開発や、全教員を対象にブルーム分類学に基づく「本質的な問い」研修を実施。現在では工業高校、農業高校でも行っており、将来的に広島県で商業・工業・農業のバリューチェーンをつなぎたいと考えています。
 また、コミュニティ・スクールの100%設置や、子どもに関するわいせつ・セクハラに対する懲戒処分の指針の厳格化、教育委員会事務局内の女性管理職比率や女性校長比率の引き上げ、公立高等学校入学者選抜制度の改新などにも取り組んできました。
 本日お集りの教育長の皆さんと一緒に、教育を変えていければいいと思っています。

事例発表
東川町の不登校支援
北海道東川町 教育長 杉山 昌次氏

北海道東川町 教育長 杉山 昌次氏

東川町は豊かな自然環境に恵まれた町です。「写真の町」としても知られ、写真を媒体として自然・文化・人の出会いを大切に、世界の人々に開かれた “写真映りのよい” 町づくりを進めています。人口はゆるやかに増加しており、51年ぶりに8,400人を回復。小中学校の児童生徒は700人を超え、2014年には敷地約4ヘクタール、平屋建ての新しい東川小学校が開校しました。
 また、2015年に入出国在留管理庁の認可を受け、国内初の公立日本語学校を開校し、アジアを中心に世界中から留学生を積極的に受け入れているほか、外国人青年招致事業(JETプログラム)を活用して、18ヵ国・20人の職員を任用し、語学やスポーツの指導補助、海外との連携事業などで活躍しています。

不登校児童生徒への対応は、2020年度までは旭川市の適応指導教室への通室や、中学校に配置したスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーによる相談で対応していましたが、2021年4月から学校内に支援室を設置し、教員と支援員を配置しました。
 支援室の利用者が増加傾向にあったことから、2021年12月にふるさと交流センター内に教育相談室 「はあとるうむ」 を設置。元中学校長や元体育教師をスクールソーシャルワーカーとして配置し、学校外に保護者相談や児童生徒を指導する場を設けました。
 2022年4月からは教育支援室に格上げし、支援員を追加配置することで保護者相談している際にも児童生徒の指導ができるようになりました。7月からは海洋センターを使ってバトミントンや水泳などの指導を開始しています。
 成果として、数名の児童生徒の再登校や部分登校、学校行事への参加に結び付けることができたこと、定期的な相談により保護者の心の負担を軽減できたことなどが挙げられます。また、海洋センターでの運動を通じて、生活リズムの改善、対人関係の向上などにつながっており、今後は冬季スキー学習なども取り入れていきたいと考えています。これからも児童生徒の心身の状態の改善を図り、一人一人に寄り添った支援を継続していきます。

事例発表
多様性が高まる社会においてその一人の子の心に届く教育をどう構築するか
~不登校支援を通して~
岐阜県高山市 教育長 中野谷 康司氏

岐阜県高山市 教育長 中野谷 康司氏

高山市は南北約55㎞、東西約81㎞あり、面積は東京都ほぼ同じで行政区域は非常に広く、市内には小学校19校、中学校12校が点在しており、過去5年の不登校児童生徒数は微増傾向にあります。
 高山市では地域の実情に即したアウトリーチ型の支援として、教育支援センターの拡充を図っています。
 今年度は、主幹教諭や支援スタッフを増員し、家庭訪問や校内支援教室、オンライン授業を充実させ、適応指導教室「であい塾」の支援の拡充を図るほか、保護者支援として地域巡回相談・講演会などを実施しています。

特に、適応指導教室「であい塾」の支援拡充では、新たに “つなぐ&出向く” をコンセプトに「移動であい塾」を市内3ヵ所(高山市清見支所・丹生川支所、高山市国府B&G海洋センター)に設置し、これまで通えなかった子どもを支援する体制を整備しました。
 海洋センターでは、体育館と研修室を利用して、不登校児童が希望したバスケットボールと算数の学習が行える環境を整備。身近な場所で支援を行えるようになったことで、児童が運動を楽しめるようになり、学習時間も徐々に増加したほか、保護者の不安解消にもつながっています。また、多様な支援が必要になるため、「であい塾友の会」を発足し、退職校長会や地域支援グループをはじめ、100人を超える方に会員登録いただくなど、外部連携にも力を入れています。
 児童生徒の受入人数や指導者の確保、オンライン授業と対面支援のバランスなど様々な課題はありますが、今後も不登校児童生徒に対する教育機会の確保・支援にしっかり取り組んでいきます。

講演
不登校児童生徒に係る現状や支援策について
文部科学省初等教育局 児童生徒課生徒指導室長 小林 雅彦氏

文部科学省初等教育局 児童生徒課生徒指導室長 小林 雅彦氏

小・中学校における長期欠席者のうち、不登校児童生徒者数は244,940人、児童生徒1,000人当たりの不登校児童生徒数は25.7人となっており、全体の人数、千人当たりの人数ともに9年連続で増加し、深刻な状況となっています。
 私は基本的に学校に来てもらうことが第一だと考えていますが、コロナ禍の影響で入学式や運動会などが行われず、またオンライン授業の導入等によって、登校意欲が湧かなくなった、無理して行かなくてもいいのではないかといった、学校に行かない選択肢ができてしまっているのではないかと懸念しています。

次年度は、不登校児童に対する支援推進事業として、「校内教育支援センターの整備促進」「教育支援センターにおける多様な相談・支援体制の強化(アウトリーチ型支援等の実施)」「不登校特例校の設置準備・運営支援に関する支援」などの事業を推進していきます。
 その中でも、不登校特例校の設置をお願いしたいと思います。特例校の設置に関して、次年度は新規で予算要求しており、設置準備に関する経費や開設後の円滑な運営に関する経費、広報活動に関する経費などについて支援することができます。私も各地の特例校を視察しましたが、統廃合型より分教室型の方が教員の配置なども含め、設置しやすいのではないかと思います。

そのほか、スクールカウンセラーの全公立小中学校(27,500校)への配置、スクールソーシャルワーカーの全中学校区(10,000中学校区)への配置、学習指導員の拡充など、教育相談体制の充実を図り、不登校児童生徒への多様で適切な教育機会の確保のため、幅広い支援を行っていくと説明されました。

会議の最後に、B&Gプランを推進する提言として、新たに「地域ぐるみ教育の推進」を追加することを出席者全員で確認しました。

一、地域ぐるみの教育の推進
家庭・学校・地域の人々などが協力し、地域の宝である子供たちを平等で豊かに育てよう。