活動記録 B&G全国教育長会議

「第16回B&G全国教育長会議」 「これからの時代の生きる力を育む~より効果的な学びを提供するために~」をテーマに全国の教育長らが意見交換

日本財団助成事業

子供たちの「生きる力」を育む教育を探る

公益財団法人「ブルーシー・アンド・グリーンランド財団(B&G財団)」は、2019年11月6日(水)・7日(木)の2日間、東京・港区の日本財団ビルにて、第16回B&G全国教育長会議を開催しました。全国45道府県の自治体教育行政のトップらが、「これからの時代の生きる力を育む~より効果的な学びを提供するために~」をテーマに、地域と連携した様々な体験活動を取り入れた教育、学びの環境の整備などについて、意見交換しました。会議の最後に提言「変化に適応する『生きる力』の育成」を採択、積極的に推進していくことを確認しました。

昨年を上回る全国の教育長126名ら関係者160名が出席

B&G全国教育長会議は、B&G財団が主催。B&G海洋センターが所在する全国市町村の教育長対象に、今、教育において取り組むべき課題を掲げ、毎年、実施しています。今回は、「これからの時代の生きる力を育む~より効果的な学びを提供するために~」をテーマに開催。「生きる力」を育む教育は、文部科学省が定める現学習指導要領でも謳われている理念です。令和元年の全国教育長会議では、厳しさを増す子供たちを取り巻く社会状況を前に、この理念に対する姿勢を確認し、地域で取り組める活動を共有し全国に水平展開していく可能性を探りました。

水辺の安全教育やアウトドアスポーツなど、海洋センターならではの学びを提供する「海洋教育」、地域と連携し学びの環境を整える「地域資源・人材の活用」、普段から自分で自分の身を守る災害への備えを学ぶ「防災教育」などを切り口に、事例発表や基調講演を実施。全国の教育長126名ら関係者160名が参加しました。

  • 来賓代表として挨拶する日本財団専務理事の前田晃氏

  • 会長・佐々田亨三氏(中央)、副会長・永井初男氏(左)、副会長・半田幸清氏(右)

子供を取り巻く状況への危機感を共有

今年も多くの来賓をお迎えし、日本財団専務理事の前田晃氏、女優の岸ユキ氏、琉球経済大学客員教授でマラソンランナーの谷川真理氏、株式会社東京BMC代表取締役社長の西本克己氏、東京海洋大学准教授の田村祐司氏、一般社団法人日本障害者カヌー協会会長の吉田義朗氏に出席いただきました。

代表して日本財団専務理事の前田氏が挨拶。子供の貧困は上昇傾向にあり、社会の目まぐるしい変化は決して良い方向に向いていないと強調。B&G財団と日本財団が共同で取り組む、子供たちの放課後の居場所を提供する「第三の居場所」事業の促進を訴えました。また、小中学生の近視が増えているニュースを紹介。台湾における自然光の下で過ごす機会を増やす近視予防の取り組みを引き、「何より身体を動かすことが大事だと思う」と、海洋センターにおけるスポーツ振興の必要を強調しました。

各議題に入る前に、全国教育長会議会長・佐々田亨三氏(秋田県由利本荘市教育長)、副会長・永井初男氏(広島県安芸高田市教育長)、同じく副会長・半田幸清氏(北海道剣淵町教育長)が挨拶。佐々田会長が「学校現場から『これでよいのか?』という問いを発し、子供たちの生きる力について掘り下げた議論をして学び合いましょう」と述べ、会議がスタートしました。

 

現場からの報告~生きる力を育む各地の取り組み

講演Ⅰ

千代田区立麹町中学校長 工藤 勇一

学校は手段に過ぎない、学習指導要領をこなすことが目的ではない

講演:「学校教育を本質から問い質す」
(千代田区立麹町中学校)

続いて、固定担任制の廃止、定期テスト・宿題の廃止など、革新的な取り組みを次々と行い、教育界から注目を集める千代田区立麹町中学校長・工藤勇一氏が講演しました。同校が掲げる教育目標は「自律」「尊重」「創造」。

かまわれ過ぎが子供の自律を奪い、人のせいにし、他者を認められない偏狭さを生むと指摘。同校では、生徒が学校の経営会議に参加し、販売品の選定から買い付けまでを行う購買部の運営も担っているとのこと。生徒たちが対話を通して民主的に問題を解決し、学校を創る当事者になっている様子を紹介しました。個別担任制を廃止し、面談も生徒側が教師を逆指名。また、定期テストをなくす代わりに各教科の単元テストを実施し、本人の希望で何度でも再テストに挑戦できる仕組みを導入。進路相談も成績評価も、生徒が自ら主体的に切り拓きます。委員会活動もなくし自主的参加としたら以前よりも人数が増えたと、当事者意識を持つことで一人ひとりの生徒が輝いている同校の取り組みを報告しました。一般的に不登校は学年が上がるにつれて増えるものだが、同校では逆に減っていき、3年生になると皆、「学校大好き」「先生大好き」になると誇らしく語りました。

結びに、経済・社会構造が大きく変化し、グローバル化・多様性の大きな波が押し寄せる現在、自分で考え、自分で判断し、自分で決定し、自分で行動する「生きる力」が必要となると改めて強調。しかし、今の学習指導要領は上からのトップダウン。学校は手段に過ぎない、学習指導要領をこなすことが目的ではない。まず生徒たちが自ら考える、その環境を作ることが教育であるべき、手段と目的を取り違えない教育が必要、現場から変えていくべきと力説した。

引き続き行われた事例発表では、島根県浜田市教育長の石本一夫氏、熊本県南阿蘇村教育長の松野孝雄氏、広島県東広島市教育長の津森毅氏が登壇。各地で実施している取り組みを披露しました。


教育長事例発表

島根県浜田市教育長 石本 一夫

ふるさとを好きに!学校、地域、海洋センターが連携する海洋教育

事例:島根県浜田市「海は最高の学び場! B&G指導員の活躍と出前教室の実施」

島根県浜田市教育長の石本一夫氏は、地域の豊かな海を活用した浜田市の取り組み「ふるさとマリン郷育(きょういく)」を報告。

同市は人口減少が大きな問題となっており、子供たちにふるさとに愛着や誇りを持ってもらい、将来地元で働きたい、地元に住みたいという気持ちを育てる取り組みを継続中。その願いは、ふるさと教育の「教」を「郷里」の「郷」の字に置きかえた「郷育(きょういく)」という言葉に象徴されています。豊富な水揚げ量を誇る水産業、国際貿易港を抱える海を最大限に活用、学校を中心に、海洋センター、地元の水産高校、海上保安庁など地域を挙げた海洋教育を積極的に実施しています。

各種自然体験教室の支援の他、学校教育の中で海洋センターと連携し、市内小中学生、および教員を対象としたカヌー・SUP体験の出前教室を開催。さらに小学校の低・中・高学年別に、各教科に海洋教育を関連付けたカリキュラムを策定。例えば高学年の理科では海の生き物の誕生・生態・環境について調べ、同社会科では魚市場、缶詰工場、港や海上保安部など、海で働く人々の生活を学びます。

学校、地域、海洋センターが見事に連携した取り組みを発表しました。

 


広島県東広島市教育長 津森 毅

BG塾を活用 子供の多様な教育、地域住民のネットワーク拡大を実現したWin-Win事業

事例:広島県東広島市「地域と連携した『遊び』と『学び』の場を提供し子供たちの『生きる力』を引き出す」

広島県東広島市教育長の津森毅氏は、積極的に「BG塾」を実施した事例を報告。「BG塾」は、海洋センターを活用し、小中学校の長期休暇中、地域の人材を活用し、子供たちに宿題などの学習支援、マリンスポーツや自然体験、運動などの体験活動を提供する子供の居場所づくり事業です。2019年は全国約40カ所で開催されました。

東広島市でも、安芸津・黒瀬の両海洋センターで実施、延べ146名が参加しました。指導には、地域住民、元教員、広島大学トライアスロン部が快く協力してくれ、子供たちは宿題の他、海洋レクリエーションなどの自然体験活動、調理体験、工作や理科実験に元気にいそしみました。防災教室や水辺の安全教室ももちろん実施。また、東広島市は外国人居住者が多いことでも有名で、バングラデシュ人やエジプト人の有志が祖国の遊びを披露してくれたりと、世界の多様な文化を学べる機会を得ました。

地域住民のネットワークを広げながら、子供達の好奇心や探究心を育む活動を積極的に行っている取り組みを紹介しました。

 


熊本県南阿蘇村教育長 松野 孝雄

災害を生き抜く知恵・術を育む

事例:熊本県南阿蘇村「平成28年熊本地震の経験から『生きる力を育む防災教育』の取組み」

熊本県南阿蘇村教育長の松野孝雄氏は、気象庁震度階級で最も大きい震度7の地震に2度襲われ、約270人の死者を出した熊本地震から学んだ防災教育を紹介。熊本地震は、家屋崩壊や土砂崩れ、道路・水道の寸断など甚大な被害をもたらし、住民は地震後、生活の再建、地域の復興に苦労しました。

阿蘇村では、「震災を経験したからこそわかったこと」があると、より実地に即した防災教育を行っています。例えば「自衛防災訓練」では、教師には生徒を安全な場所に誘導する避難通路の確認だけではなく、そこに障害物があった場合の行動、校長には生徒が何人か足りない場合の判断を、抜き打ちで質問。それに各専門団体がフィードバックしより精度を高めています。また、中学生は崩落現場を見学し地震の脅威を記憶に留めています。「リアルHUG」と題した運営ラーニングも実施。HUGは「避難所」「運営」「ゲーム」の頭文字です。生徒たちは班ごとに避難所受付、誘導、各種要望の対応など、経験したからこその実践的な行動を身に付けています。被災し避難所運営の難しさを知った阿蘇村では、「自分たちにできることはなかったのか」「それは積極的に共助に参加すること」という解を導き出し、これからの阿蘇村を担う子供たちが積極的に学んでいます。

震災に遭ったからこそのリアルな防災教育を紹介しました。全国的に水平展開してもらいたい有効な防災教育です。

 

各自治体教育長からの発言を引き継いで、B&G財団が「全ての子供達に生きる力を」という理念の下に取り組む各種事業を紹介。体験格差解消、BG塾など各種の支援プログラムを、今後も各自治体で積極的に活用してほしいと訴え、第一日目を終えました。

2日目は、東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長・加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授 瀧 靖之氏の講演と、文部科学省初等中等教育局の大内克紀氏による同省の新学習指導要領が目指す新たな方向性についてご説明いただきました。

講演Ⅱ

東北大学 瀧 靖之 教授

アウトドア体験には運動、コミュニケーション、好奇心探求の要素が含まれている

講演:「子どもたちの健やかな脳発達のために ~アウトドア育脳のすすめ~」

2日目の講演では、東北大学より瀧 靖之教授が登壇し、育脳の観点から貴重な発表がありました。「子どもたちの健やかな脳発達のために」と題し、冒頭で「知的好奇心」をキーワードに発育段階に応じた適切な刺激の重要性を指摘。その一方、脳には可塑性があるため「何歳から新しいことを始めても遅くない」と語りました。さらに子供が図鑑や絵本で得た知識を仮想の世界で終わらせないために、本物を見せることや実際に体験させることが知的好奇心を育てるが、その際親子で一緒に楽しむことが大切であると説きました。また調べる力、極める力の育成という観点から趣味を持つことの意味合いも披露しました。

表題となるアウトドア体験の効果について、「コントロールされていない環境下での状況判断」「課題遂行能力」「共感性・非認知能力」「親子のコミュニケーション」の向上があるとし、「アウトドア体験には運動、コミュニケーション、好奇心探求の要素が含まれている。日帰りでも構わないので、ぜひ親子で自然に触れてほしい」と語りました。

さらに瀧教授は「幸せな人は長生きする。どうやって子供たちに幸せだと感じてもらうか考える必要がある」とし、昔から当たり前に言われていたことを当たり前にすることの効能についても触れました。

 


文部科学省の取組み

文部科学省 大内 克紀

講演:「今後の教育課程行政の方向性について~生きる力を育む実現に向けて~」

続いて文部科学省からは、同省初等中等教育局の大内克紀氏が、「今後の教育課程行政の方向性について~生きる力を育む実現に向けて~」と題して、新たな学習指導要領について説明。学力は高いものの自己肯定感や社会参画意識が低いこと、少子高齢化の中で生き抜く力の養成、産業構造の変化に伴う職業観の変化への対応を教育界の大きな課題としました。新学習指導要領での改善点として、1)情報活動能力の養成(プログラミング的思考含む)、2)外国語教育の充実、3)我が国の言語文化教育の充実 ほかを挙げました。ICTを用いた教育については特に時間を割き、先端技術や教育ビッグデータを効果的に活用することにより、Society5.0時代や子供たちの多様化への対応に大きな可能性があるとしました。

 

2日間にわたる会議の最後に、第16回B&G全国教育長会議提言「変化に適応する『生きる力』の育成」を採択、「多様な体験活動を通じて、より効果的な学びを提供し、時代の変化に適応できる「生きる力」を育てよう。」と謳い、B&Gプランを推進する提言を再確認し、閉会しました。