スペシャル 夢をつなげ!B&Gアスリート

No.030:藤嶋 大規B&Gやまなし海洋クラブ出身、藤嶋大規選手が東京オリンピック出場内定!東京での躍進を誓う
2019.11.05 UP

藤嶋 大規 B&Gやまなし海洋クラブ出身、藤嶋大規選手が東京オリンピック出場内定!東京での躍進を誓う

プロフィール 藤嶋 大規(ふじしま ひろき)

1988年5月23日生まれ。
山梨県富士河口湖町出身。
身長:178cm、体重:83kg
競技:カヌー種目 カヌー男子スプリント
所属 自衛隊体育学校
成績等 東京オリンピック日本代表K4-500m(男子カヤック4人乗り500m)内定
2014年 アジア大会K2-200m(男子カヤック2人乗り200m)金メダル
2012年 ロンドンオリンピックK2-200m(男子カヤック2人乗り200m)10位

カヌースプリント種目とは

静水面で1人乗りから4人乗りまでの艇にのり、一定の距離(200m、500m、1000m)と水路(レーン)を決めて複数の艇が一斉にスタートして最短時間で漕ぎ、着順を競う競技です。そのほかリレーや5,000m、長距離などもあります。カヌースプリントはカヤック部門(K)とカナディアン部門(C)に分かれています。
(公益社団法人 日本カヌー連盟HPから抜粋)

前編:数々の栄光と挫折を繰り返した競技人生

藤嶋 大規選手(31歳)。カヌー選手としては決して若くないベテランが東京オリンピック日本代表の座を勝ち取った。約20年の競技人生における自身の集大成と位置付けた東京五輪にかける思いなどを語っていただいた。

愛知県岡崎市で練習に励む藤嶋選手に取材した

「カヌースプリントの魅力はパワーとスピード。選手がカヌーを漕ぐ姿はすごい迫力で、見たら圧倒されると思います!」爽やかな笑顔でこう話す藤嶋選手がカヌーに出会ったのは小学四年生の時。友達の誘いで近所にあるB&Gやまなし海洋クラブに入会したのがきっかけだ。体を動かすことが大好きで、すぐに同競技の虜になった。週一回の練習が本当に楽しかった。小学生時代は体の線が細く、地元精進湖で開催される「B&G杯全国少年少女カヌー大会」でもなかなかいい結果が出せなかったという。それでもカヌーが好きだったから続けることができた。また海洋クラブ、中学、高校と良い指導者に恵まれたことも大きかった。

そんな藤嶋選手に転機が訪れる。高校2年生の時に全国大会で優勝した。そこからナショナルチームの練習に参加するようになり、本格的に「カヌースプリント選手」としての道を歩み始める。

「まさか自分が優勝するなんて思っていませんでした。たぶん周りも先生も思っていなかったと思います(笑)でもこの経験が大きな自信に繋がりました」と当時を振り返った。

高校卒業後は立命館大学に進学し、カヌーに打ち込む日々が続いた。大学二年生の時に北京オリンピックの予選レースが始まった。当時はK4-1000m(男子カヤック4人乗り1,000m)で挑んだが、惜しくも北京の切符を手にすることができなかった。「真剣に取り組んではいましたが、オリンピック出場ということにイメージが湧きませんでした。先輩にくっついて訳も分からず練習しているような状態でした。オリンピックに出ることは別次元だと思っていましたね」

だがそれから4年後の2012年。K2 200m(男子カヤック2人乗り200m)で見事ロンドンオリンピック出場を果たす。ジュニア時代から親交のあるB&Gかけはし海洋クラブ出身の松下桃太郎選手とペアを組んで臨んだ同大会では10位という結果に。

「オリンピックに出られたことは、すごく高い経験値を得たなと感じました。出る前は世界選手権とオリンピックはほとんど変わらないものなのかなと思っていました。ただ実際に出てみたら各国の選手たちの本気度が世界選手権と全然違う感じがして、その雰囲気に飲まれてしまいました。また、大会前の合宿で自分の身体をしっかり管理できていればという思いもありました。練習のし過ぎで合宿中に倒れてしまったんです。そこから調子が崩れてしまい戻しきれずに本番を迎えたので、悔しい思いをしましたね。10位という結果は全然満足できませんでした。せめて一桁っていう思いがありましたから。」

ロンドンオリンピック後、悔しさをバネに練習を重ね2014年韓国の仁川で開催されたアジア大会では同種目で優勝。松下・藤嶋組は他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せつけ、リオデジャネイロ五輪に向け着実に結果を出し続けた。しかしリオ出場枠をかけた大会でまさかの失速。リオデジャネイロオリンピック出場を逃した。

「今までで一番悔しかったですね。仁川アジア大会をダントツで優勝して、自分達も油断してしまった部分がありました。もう行けるだろうっていう。まだ決まってもないのに...」と言葉を詰まらせた。

リオ予選後すぐには気持ちを切り替えることができずにいた。カヌーから完全に身を引く気にはなれなったが、練習に身に入らない時期が続いた。だが家族や友人、仲間たちの応援もあり再び五輪を目指すことになる。きっかけは周囲からのある一言だった。

「子どもが2014年に生まれて、周りのみんなに『東京五輪のときはもう6歳ぐらいだから覚えてるかもしれないね』って言われて、それもそうだなと。自分のためでもあるんですけど、今は子どものために、東京で活躍する姿を見せたいなっていう気持ちが湧いてきて、もう1回オリンピックを目指そうと決意しました。お父さんが頑張ってる姿を見せられる機会ってあまりないですよね。オリンピック逃したら運動会くらいですかね。でもそこじゃないかなと(笑)」

二人のお子さんを持つ良きパパ。今年7月に二人目のお子さんが誕生。しかしポルトガルでの合宿期間中であったため、お子さんと会えたのは生まれてから一カ月後だった。

東京へ向け再始動。年齢を言い訳にせず、冬場のフィジカル強化など貪欲に練習に取り組んだ。そして今シーズンは世界選手権、ワールドカップなど全てのレースが良かったと振り返り、勢いそのままに臨むことができる東京オリンピック。

「競技人生の集大成になるであろう東京オリンピックでは最高のフォーマンスを見せたいですね。自分達のベストパフォーマンスが出せればおのずと結果もついてくると思います。」と意気込んだ。

後編:努力し続けることの大切さ

藤嶋選手が東京オリンピックで出場するK4 500mは四人乗りのカヤックで500mのタイムを競う。4人の呼吸が合わなければスピードが出ず、チームワークが重要だ。フォアのメンバーはナショナルチームで長年一緒に練習をしてきた仲間で構成されている。初めて四人で乗った時も違和感は全くなく自然とフィーリングが合ったという。シングル、ペア、フォア、全て経験している藤嶋選手はフォアが一番好きだと語る。

「4人で漕いでいるから楽だということはありません(笑)シングル、ペア、フォア、全部きついです。身体パンパンになります。ただレースが終わった後に4人で喜びを共有できるのが魅力ですね!多ければ多いほど、勝ったときのうれしさは増します。1人よりも2人よりも4人で!みんなで喜びたいんです」

また、「フォアは4人の漕ぐピッチを合わせたり、ブレードが水中にある時、どこで一番力が入っているかが重要です。パワーポイントと言うんですが、そこを4人で合わせる。ラストスパートに入ったときの合わせが今年はすごく上手くいきました」と今シーズン確かな手ごたえを感じ取っていた。

チームワーク抜群の4人

現在はオリンピックに向けハードな練習をこなしている。1日オフの日は週に一度。量をひたすらこなすのではなく、質の高い練習を集中して行う。一つの練習メニューは約1時間。集中してカヌーを漕ぎ、休憩を入れつつ別のメニューを1時間。午前午後これを繰り返す。フィジカルの強化も欠かさない。週3回の筋力トレーニングを行い高いパフォーマンスを発揮できる身体に仕上げていく。

特徴的なのは昼寝の時間があることだ。疲弊した身体では午後の練習に集中ができないからだ。それほど凝縮された密度の濃い練習をこなしているのだ。一カ月から二カ月の長期間の合宿になることが多いことからオンオフのメリハリを意識しているという。

「ナショナルチームの男子カヤックのコーチが今年1月から替わって、K4 500mに特化した練習を組み立ててくれたおかげで、今シーズン本当にいい結果を出せました。コーチは選手の意見を尊重してくれてますし、僕は年齢も年齢なんで、『疲れてたら言って。別に1回練習休んだぐらいでそんなパフォーマンスは落ちないから』と声をかけてくれたり。合宿中や大会間近は、週に一度の一日オフには慣れているんですけど、二日連続オフがあるとなんか...心の隅で罪悪感が生まれるんです。でもコーチはそういう不安もちゃんと消してくれます。練習の内容自体はシンプルですが質が高い練習を求めてくれているし、全員が自分達もしっかりそれに応えられるようにという気持ちで取り組んでますね」

日本チームの強みついては「実はフォアの日本代表メンバー四人の平均年齢が出場国中一番高いんです。長く経験しているということは大きなアドバンテージですね。競技力も歳を重ねるごとに向上してます」自身の強みについては「リーチが長いところですかね。身長が178cmなんですが、両腕を広げると192cmあります。リーチが長いことはかなり有利でそれを活かせてるのかなと思います。人より努力してるとは言えないし、それぐらいですかね」と謙虚に語った。

信頼できるコーチの下、確かな手ごたえを感じた今シーズン

プライベートでは大の釣り好きで、海外合宿先に釣り竿を持っていくほどだ。ポルトガルでは湖にブラックバスがおり、オフの日には釣りを満喫。実に有意義なオフを過ごせたとのこと。日本にいるときは家族サービスも忘れない。好きな釣りは封印し、二人のお子さんと過ごすことが多い。上の子は5歳で一緒に『ONE PIECE』の映画を見に行ったという。

-『ONE PIECE』面白いですよね。最新刊読みました? -

『ジャンプ』で。

- あ、やばい。 -

『ジャンプ』しか見ないんすよ。

- じゃあ進んでる!やばい!ストーリー言わないでくださいね!僕、まだ止まってますから!最新刊のとこで。 -

本当ですか。やばいっすよ、今。

- え!駄目ですよ!言っちゃ! -

来週...。休載なんです。

- おぉぉ、びっくり!危ない、危ない。そうなんですか! -

途中こんなやり取りもあり、日本の頂点に君臨しているトップアスリートでありながら、気さくで物腰が柔らかい好青年であると感じた。そして目を引くのは鍛え上げられた肉体である。食事にはあまり気を使ってはいないそうで、とにかく食べたいものを食べる。エネルギーを補給しなければ厳しい練習に耐えられない。ただ脂肪がついてしまうと重りになりスピードが失われるため、試合間近で練習が調整段階に入るタイミングで徐々に食事をとりすぎないようにしているそうだ。

鍛え上げられた肉体を持つ藤嶋選手

そんな藤嶋選手にカヌーの練習に励んでいる子どもたちにメッセージをいただいた。

「自分は身体が細かったんですが、周りより細くて駄目だとか思わず、努力すること。そうすれば本当に変わります。常に努力することが大事だし、負けて悔しい思いをしてもそこで終わりじゃなくて、なぜ負けたかを考えて次に進める材料にしなきゃいけない。そうしていけば、どんどんレベルは上がると思います」

最後に今後の目標は

「オリンピックでのメダル獲得です!まだ遠いですけど見える位置にまで来てることを今シーズン実感しています。ロンドンのときはそれが夢でしかなかった。届かないものだと思っていました。それが今、届きそうな位置にいます」と晴れ舞台での躍進を誓った。

 

 

(文:中村 克也