特集 東日本大震災から9年 その先を見つめてきた海洋センターの取り組み

3.11「あの日から9年」その先を見つめてきた海洋センターの取り組み

2011年に発生した東日本大震災から9年目を迎えました。この地震で太平洋岸7ヵ所(11施設)のB&G海洋センターが壊滅的な被害を受けました。

当財団では、被災自治体の再建計画に応じて、日本財団・ボートレース業界の協力の下、復旧を支援してまいりました。今回はその中から2つのセンターの現状をレポートします。

 

岩手県陸前高田市

「奇跡の一本松」で知られる高田松原(現・高田松原津波復興祈念公園)に隣接していた陸前高田市B&G海洋センターは2018年4月に車で10分ほど離れた現在地に移り、海洋センターの屋内温水プールと多目的ホールやアリーナが併設された「夢アリーナたかた」に生まれ変わりました。

復興を後押しする、さまざまなプロスポーツイベントが開かれています。

2020年 3月 岩手ビッグブルズ公式試合
2月 岩手ビッグブルズ『復興祈念試合』(対豊田合成スコーピオンズ戦)
2019年 11月 バスケットボールBリーグ・岩手ビッグブルズ公式試合
10月 第2回川崎フロンターレにこにこサッカー教室
8月 バレーボールVリーグ・復興応援フェスティバルin陸前高田(Vリーグ20チームから選出された23選手によるドリームマッチ)

大相撲・復興・りくぜんたかた場所
5月 サッカーJリーグ・川崎フロンターレ優勝報告会

職員の高橋さんは印象に残るイベントとして「大相撲」を上げました。オープンから4カ月たった8月15日に「復興・りくぜんたかた場所」と銘打って夏巡業が行われたのです。鶴竜関、白鵬関、稀勢の里関の3横綱をはじめ岩手県出身の錦木関らが土俵に上がり、多目的ホールを埋めた2,800人の大観衆を沸かせました。



今後楽しみなのが、野球とサッカーです。今年6月、野球場(2面)とサッカー場(1面)が完成の予定です。国民的人気を誇る2大スポーツですが、サッカーに関しては被災直後から川崎フロンターレからの支援がつづけられており、現在はチームと自治体が正式に友好提携(「高田フロンターレスマイルシップ」)を結ぶまでになりました。これまでもアリーナなどでフロンターレ選手によるサッカー教室が行われてきましたが、グランド完成後は一層充実したイベントが期待されます。

第6回陸前高田サッカー教室

再生時間:6分46秒

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野球は同市と東北楽天ゴールデンイーグルスが2017年に「スポーツ交流パートナー協定」を結んだことにより、これまでもプロのコーチによる野球教室が行われてきました。野球場の名称が「楽天イーグルス 奇跡の一本松球場」に決まったこともあり、今後はプロ野球の試合が行われるようになるでしょう。


「夢アリーナたかた」のオープン自体も復興を印象付ける役目を果たしましたが、より強い印象を与える展示が行われたのも同所でした。「奇跡の一本松」と並んで復興のシンボルになった県立高田高校の実習船「かもめ」。アメリカまで流されたものの、無事里帰りを果たしたこのボートですが、一時期「夢アリーナたかた」で展示されていました(現在は「まちづくり情報館」で展示)。

現在の利用者数は年間およそ3万人。被災前の年間5万人の利用者数にはまだ届いていません。しかし陸前高田市は、今日も復興への歩みを進めています。いつか震災前の数字を超える日が来ることでしょう。

 


宮城県亘理町

阿武隈川の河口に位置する亘理町(宮城県)は最大で高さ12メートルを超える津波に襲われました。同町の亘理町B&G海洋センターは3ヵ所に分散しています。保育園や児童館に隣接する体育館は町の中心部に、野球場やテニスコートと並んで配置されるプールは郊外の都市公園内に、そして艇庫は「鳥の海」という内海の汽水湖沿岸に建てられました。

施設の点在が幸いし、体育館とプールは被災を免れました。しかし海から近い艇庫は全壊し、これまで海に親しんできた地元住民も海から足が遠のいてしまいました。

被災後の海洋センター艇庫。津波はシャッターを突き破り、カヌーなどの器材が流失しました

昨年4月に亘理町より艇庫の業務委託を受けた株式会社海族DMC。代表の太見洋介さんは運営について次のように思いを語ります。

「亘理町の住民の方は、艇庫を教育施設だと思っていたと感じます。しかし私たちは観光施設にしたいのです。従来何かのついでに来ていた艇庫を、目的地にしていただきたいですね。住民の海離れが進んでいますが、しっかり学べば安全です。選んで来ていただけるようにするべく、さまざまなイベントを仕掛けたり、SNSで国内外に発信したりするなどしています。」

海に対して言い知れぬ思いがあるかもしれませんが、まずは来てほしい。太見さんたちは子供たちのためにゲームやラジコンなどの遊具を用意しているそうです。

生涯学習、そして未来を担う子どもたちが海に親しむべく活動するといった従来型の活動を受け継ぐ一方、太見さんは艇庫だけで完結しない企画を展開しています。

仮説住宅集会所での移動運動教室の様子。B&G財団の「転倒・寝たきり予防プログラム」をベースに考えたメニューも織り込みました

たとえば街コン。やはり同社が運営する「わたりシーサイドベース」や漁協が運営する「鳥の海『番屋』」などを活用して、街に活気を取り戻すような施策を打ち出しています。艇庫に隣接する「わたり温泉『鳥の海』」の宿泊客を取り組む努力も怠りません。街コンには近隣自治体からの参加も見込めるため、亘理の関係人口増加にも貢献します。

第1回目の「海で恋する亘理まちコン」の様子。
出典:亘理町海洋センター公式サイト

また仙台空港から車で20分という立地とSNSを通じた積極的なプロモーションが功を奏し、東南アジアなどからの個人旅行者も訪れるようになったそうです。海外からの利用者はまず震災からの復興に驚き、艇庫の装備が充実していること、「鳥の海」が外海から隔たって水面が静かで安全なことに喜んでくれるということでした。

国内の利用者も順調に伸びており、年間の利用者は3千人。企業や自治体が視察に訪れるそうです。さらにマリンスポーツに限定せず、通年利用を前提としているため、冬季でも館内に一定の賑わいがみられます。

「今後はより野心的な試みにも取り組んでいきます」と太見さん。一例として少年院の子供たちに対する「心の更生」プログラムを準備しているといいます。更生施設入院者と関わるため逃走防止や雨天時の対応など難しい課題もありますが、従来の海洋センター活用から大きく踏み出した活動として注目されるに違いありません。

震災から9年、B&G財団はこれからも被災地に寄り添い、東北の各地とふるさとの海に笑顔が戻るよう、ご支援を続けてまいります。