スペシャル 夢をつなげ!B&Gアスリート

No.008:久保 恒造選手(ソチパラリンピック バイアスロンショート銅メダル) 北海道美幌町の野球少年がパラリンピックの舞台に立つ
2017.05.23 UP

プロフィール 久保 恒造(くぼ こうぞう)
1981年5月生まれ、北海道美幌町出身の車いす陸上選手。高校3年生の時、交通事故により脊髄を損傷し下半身麻痺となる。2008年7月から日立ソリューションズ「チームAURORA」(アウローラ)に所属。
2013年IPC世界選手権バイアスロン金メダリスト。2014年ソチパラリンピックバイアスロンショートでは銅メダルに輝く。美幌町「栄誉賞」(2度)と、北海道「道民栄誉賞」を受賞。2016年には、リオデジャネイロパラリンピック車いす陸上競技 5000mとマラソン(T54)に出場。現在は2020年の東京パラリンピック出場を目標に、遠征と練習の日々を送っている。
パラリンピックの種目は夏季22競技、冬季は6競技。車いす陸上は夏季の競技に分類されている。

前編:パラリンピックスポーツとの出逢い

野球に励む少年を襲った不慮の事故

北海道美幌町に生まれ、学生時代は野球に没頭していた久保選手。高校生の時に事故に遭い、現在はパラリンピックスポーツ(車いす陸上競技)のアスリートとして世界各地で活躍しています。2014年のソチパラリンピックではバイアスロン(射撃とスキーの2種競技)で銅メダルを獲得。昨年は、リオで開催されたパラリンピックで、車いす陸上競技5000mとマラソン(T54)に出場しました。そんな久保選手は、海洋センター利用者の一人です。

美幌高校野球部の一員として数々の大会に出場しました

「小学3年生から6年生まで地元の少年野球チームに所属していて、夏になると、自宅からすぐに行ける美幌町B&G海洋センターに行って泳いでいました。今では私の子供たちが通っています」

小中高と野球生活を過ごしてきた久保選手。高校生活最後の大会を終え、引退を迎えた高校3年の夏。久保選手を不慮の事故が襲いました。

「中学、高校では、野球部に入りました。そのまま野球に没頭して最後の大会を終えた高校3年生の7月。知人の運転する車に同乗していたところ、事故に遭いました。その時、脊髄を損傷して、車いす生活になりました」

車いす生活でも見出した希望

久保選手は、事故に遭って入院した当時を振り返り、その時の苦悩を語ります。

「半年ぐらい入院して、その内のほとんどは寝たきりの状態でした。事故に遭ってすぐの頃は、退院した後にどうやって生活をしていけばいいのか、ということで頭がいっぱいでした。野球ができなくなったという辛さもありましたし、普通に歩くことができない、今まで当たり前に送っていた生活ができなくなった、この車いす生活をどう過ごしていけば良いのか、ということしか考えられませんでした」

きわめて深刻な悩みを抱えている中、久保選手の人生を大きく変える出逢いがありました。

「車いす生活になると、スポーツも車の運転もできないかもしれない、というイメージを持っていました。そんな中、病院に置いてある雑誌に目を通していたら、車いす陸上競技の記事を見つけたんです。まだ車いすになってもできることがあるんだ!と希望を持つことができました。だんだん調べていくうちにパラスポーツにいろいろな種目があることを知っていき、世界が広がっていきました」

入院当時の久保選手

「当時、テレビに出て、活躍している車いす陸上競技の選手にも、影響を受けました。事故に遭うまでは、あまり意識してパラリンピックを見ていませんでした。でも、自分が車いす生活を送ることになって、意識して見るようになってからは、パラスポーツに興味が湧いてきたんです。車いすでもできることがあることを、その時に気付かされました。一人で海外に行ったり、レースをいくつもこなしたりしている選手がいることを知って、すごい衝撃を受けましたね。もう自分は、そのときはずっと、病院の中で生活をしていかなくちゃいけないんだ、と思っていましたから」

「それからは、他の患者さんがいなくなる時間を見計らって、リハビリ室で借りた1~2kgの砂袋を病院の車いすに括りつけて、病棟や外の坂道を一生懸命走ったりしていました。警備の人に『危ない!』って毎日怒られていましたが、その時は若さもあって、もう全然気にせず走っていました。その内、警備の人にも諦められて、声も掛けられなくなりました(笑)」

とてもストイックな性格の久保選手。最初は、パラリンピックスポーツの魅力に惹かれたことだけが理由となって、走っていたわけではないそうです。

「振り返ってみると、その頃は、何かをがむしゃらにやっていないと、立ち直れないくらい落ち込んでいたんだと思います」

そして、20歳を迎えた久保選手は、本格的にパラリンピックスポーツに向けて、練習を開始していきます。

(文・鈴木 慶

久保選手ゆかりの海洋クラブ

大小合わせて60本を数える美しい川が流れる北海道美幌町。
野球場・少年球場と4種公認の陸上競技場を保有する「柏ヶ丘運動公園」のすぐ隣に、久保選手が小学生の頃に通っていた美幌町B&G海洋センターがあります。