連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No.106

水をつかみ、風をとらえて、より速く走りたい!

2014.12.24 UP

~第69回 長崎国体で活躍した、海洋クラブ出身のアスリートたち~

今年も、全国の海洋センター・クラブで練習に励んでいる青少年の皆さんが競泳やカヌー、ヨットの競技で活躍し続けています。9月から10月にかけて長崎県で開催された第69回国民体育大会でも50人の選手が6種目の競技に出場し、19人が入賞を果たしました。
今月の注目の人では、同国体カヌー・スプリント競技少年女子2種目を制覇した山梨県の渡邉えみ里さん(高校3年生)、ならびにセーリング競技成年女子SS級で3位入賞を遂げた大分県の後藤沙季さん(25歳)の2人の選手を取材しましたので、ご紹介します。

●B&G海洋センター・海洋クラブ選手の入賞者を紹介!
●第69回 国民体育大会に出場した海洋センター・クラブの選手(OB・OG含む)リスト

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第4話仲間がいれば、大きな壁も乗り越えられる!(ヨット選手 後藤沙季さん その2)

転戦でつかんだ自信

中学3年生のときに出場したOP級アジア選手権大会で艤装をチェックする後藤さん。連戦の疲れも見せず女子準優勝を果たしました


アジア選手権大会で女子準優勝の表彰を受ける後藤さん。大会期間中には予備日を使ってB&G財団を表敬訪問してくれました

 小学6年生で出場したOP級全日本選手権大会をきっかけに、風の変化を読む才能を発揮していった後藤さん。ジュニアの日本代表にも抜擢されるようになり、中学2年生のときにはスペインで開催されたOP級世界選手権大会に出場。3年生になってからもエクアドルで開催された同大会に出場して女子6位入賞を果たしました。

 エクアドルから帰国した後藤さんは、その2日後に韓国で開催された「福岡・上海・釜山ジュニア親善OPレース」に出場して見事に優勝。その3日後には神奈川県で開催されたOP級アジア選手権大会で女子準優勝を獲得する活躍を見せました。

 また、アジア選手権大会の期間中にはレースの予備日を利用してB&G財団を訪問。韓国の親善レースで獲得した優勝トロフィーと世界選手権大会6位入賞の盾を手に、各大会の感想や海洋クラブの日頃の活動について語ってくれました。

 「エクアドルの大会は沙季にとって2回目の世界選手権だったので、だいぶ落ち着いてレースに臨むことができましたが、強風が吹いたため外国勢に比べて体の小さな彼女には厳しいレースになりました。そのため本来の走りが満足にできず、6位入賞はしたものの本人にとっては少し悔しさが残る大会になりました。

 しかし、こうした経験の積み重ねによって彼女は成長し、続くアジア選手権大会で準優勝したことが大きな自信につながりました」

 ジュニアの日本代表になるなど、中学生になってトップクラスの選手に成長した後藤さんの姿に目を見張った濵本さん。その後、後藤さんは地元の高校に進学してからもヨット部に入って活躍を続けていきました。

2人乗りへの戸惑い

大学3年生のときには、カタールで開催された470級ジュニア世界選手権大会で3位入賞を獲得。国際大会で日の丸を揚げることができました

 OP級ヨットは15歳以下が対象のクラスなので、高校に進学した後藤さんはOP級より大きいFJ級という2人乗りのヨットに乗るようになりました。ところが、小学2年生のときからずっと1人乗りのOP級で活動してきた後藤さんだったので、最初は2人乗りヨットの操船に戸惑いを感じました。

 「FJ級は2人乗りなので各々に役割分担があるのですが、ついつい私は何でも自分でしようとしてしまって、相方とのコンビネーションが上手く取れませんでした。これまで乗っていたOP級は操船のすべてを1人でするので、その習慣が体に染みついていました」

 監督から、「1人でやり過ぎる!」、「OP級のクセが抜けない」といった注意を受けながら部活に励んだ後藤さん。1、2年生の頃はFJ級になかなか馴染むことができずに苦労しましたが、3年生になると2人乗りの操船にも慣れてきて、国体少年女子の部で3位入賞を獲得。その後、地元を離れて関西大学に進学してからは、FJ級をひと回り大きくした470級という2人乗りのヨットに乗りました。470級はオリンピックにも採用されている国際クラスなので、活躍の場が世界中に広がります。後藤さんに寄せる周囲の期待も膨らんでいきました。

姉妹ペアの誕生

長崎国体の表彰台に立つ後藤さん姉妹(左が沙季さん)。2人の活躍はB&G別府海洋クラブの大きな励みになっています

 大学に入って、ふたたび新たなクラスに乗り換えることになった後藤さん。OP級からFJ級に移行したときと同じように最初の頃は470級になかなか馴染めませんでしたが、2年生になって徐々に大会で上位に入るようになり、3年生になると大きな成果を上げることができました。カタールで開催された2010 国際470級ジュニア世界選手権大会に日本代表として出場し、世界の強豪を相手に3位入賞を果たしたのです。これは、同大会で日本の女子選手がメダルを獲得した初めての快挙でした。

 「日本から2チームが参加して2番手に選ばれたのが私たちだったので、あまりプレッシャーを感じていなかったことが良かったのかも知れません。また、レースが始まると得意な風が吹いて思った以上に速く走ることができました」

 メダルの獲得は想定外の喜びだったと語る後藤さん。世界選手権大会3位の結果にその後の期待も高まりましたが、後藤さんは大学を出た後、地元大分県の県庁に就職する道を選びました。

 「大学を卒業した後、地元で就職することは以前から決めていました。ただし、別府にはハーバーがあってヨットの環境が整っているので、仕事をしながら練習を続け、できれば国体だけは出場していきたいと思いました」

 その言葉通り、後藤さんは社会人になった2012年から2人乗り国体種目のセーリングスピリッツ級で練習を始め、大分県の成年女子代表として同年の岐阜国体、そして翌年の東京国体に出場して、それぞれ5位入賞を獲得。今年に入ると、後藤さんと同じように海洋クラブでOP級に乗って育ち、大学時代もヨット部で活躍していた妹の沙織さんが社会人となって成年女子の種目で出場できるようになったため、姉妹でペアを組んで長崎国体に臨みました。

 「妹も海洋クラブに入って小学生の頃からヨットに乗り続け、私と同じ関西大学に入ってインカレ(全日本学生選手権大会)で優勝しました。経験もあって結果も残している妹なので、気心知れた姉妹のペアでどれだけ走ることができるか試したい気持ちがありました」

練習は厳しく、遊びは楽しく!

 長い間、ヨットを続けてきたなかで、このとき初めて妹さんとペアを組んだ後藤さん。最初の頃は、練習をしながら言い合いもしたそうですが、しだいに息が合うようになっていき、国体が始まると思っていた以上に速く走ることができました。

 「国体に向けて、2人で『入賞はしたいね』と言っていたのでしたが、レースが始まると優勝も狙える展開になっていき、最終日には1点差でトップを追う位置にいました。実際には、最後のレースで苦手としていた強風が吹いたため、わずかの差で順位を落として3位になってしまいましたが、初めての姉妹ペアはとてもよい経験になりました」

 初めて組んだペアで表彰台に立つ活躍を見せた後藤さん姉妹。2人の原点は子供の頃に通った海洋クラブの活動にありました。そんな思い出深いクラブの艇庫で今回の取材を行った際、後藤さんは練習に来ていた子供たちとしきりに言葉を交わしていました。

 「私がヨットを続けることができたのは、良き仲間の励ましがあったからにほかありません。ですから、どこの海洋クラブでも、練習だけでなく仲間と遊んで過ごす時間も大切にしてほしいと思います。ただし、練習と遊びのメリハリだけは心得ておきたいものです。その区別がないと、目標を見失ってなかなか上達できないようになってしまいます」

 「大いに練習し、大いに仲間と遊ぼう!」と、後輩の子供たちにエールを送る後藤さん。メリハリのある有意義なクラブ活動を通じて、世界をめざすたくさんの選手が出てくることを楽しみにしているそうです。(※完)

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今年の長崎国体に向けて練習に励む後藤さん姉妹。初めてのペアで3位入賞を果たしました

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取材当日、練習に来ていたクラブの子供たちと撮った記念のショット。奥の中央が後藤さん、その右隣りがクラブ代表の濵本さんです