連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No.106

水をつかみ、風をとらえて、より速く走りたい!

2014.12.03 UP

~第69回 長崎国体で活躍した、海洋クラブ出身のアスリートたち~

今年も、全国の海洋センター・クラブで練習に励んでいる青少年の皆さんが競泳やカヌー、ヨットの競技で活躍し続けています。9月から10月にかけて長崎県で開催された第69回国民体育大会でも50人の選手が6種目の競技に出場し、19人が入賞を果たしました。
今月の注目の人では、同国体カヌー・スプリント競技少年女子2種目を制覇した山梨県の渡邉えみ里さん(高校3年生)、ならびにセーリング競技成年女子SS級で3位入賞を遂げた大分県の後藤沙季さん(25歳)の2人の選手を取材しましたので、ご紹介します。

●B&G海洋センター・海洋クラブ選手の入賞者を紹介!
●第69回 国民体育大会に出場した海洋センター・クラブの選手(OB・OG含む)リスト

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第1話辛いことがあっても、その先には未来がある!(カヌー選手 渡邉えみ里さん その1)

初めての大会で得たうれしい結果

渡邉さんと都築監督のツーショット。これまで二人三脚でさまざまな大会に臨んできました。

 すでに練習に励んでいたお兄さんに連れられて、小学2年生の頃から地元富士河口湖町の上九一色カヌークラブ(B&Gやまなし海洋クラブ)に通うようになった渡邉えみ里さん。最初のうちは1人で水面に出ることに戸惑いもありましたが、慣れてくるにつれてどんどんカヌーに乗ることが楽しくなっていきました。

 「パドルが使えるようになると、水上で風を切って進む楽しさを覚えました。特に加速してスピードが上がったときに得る爽快感がなんともいえませんでした」

 小学3年生の夏休みには、初めての大会となる「B&G杯 全国少年少女カヌー大会」に出場。デビュー戦でいきなり3位の成績を収めて、周囲を驚かせました。

 「初めての大会で表彰台に立つことができたので、とてもよく覚えています」と振り返る渡邉さん。加速したときの爽快感に加え、良い成績を収めたときの達成感も得るようになって、さらに練習に励んでいきました。

 「当時、クラブには10人ぐらいの小学生の仲間がいて、毎週土曜日に集まって皆で励まし合いながら練習を重ねていました」

 クラブの練習場所は富士山の麓にある精進湖で、ここはカヌー競技場として水面が整備されています。とても恵まれた環境のもとで渡邉さんは力をつけていき、地元の中学に進学してからも、カヌー部に入ってさまざまな大会をめざしていきました。

二人三脚の日々

上九一色カヌークラブ(B&Gやまなし海洋クラブ)が拠点にしている艇庫。丘を下ると専用桟橋があって精進湖の競技場水面にアクセスできます

 カヌー部のある中学校は全国でもそう多くはありません。しかも、渡邉さんが進学した富士河口湖町立上九一色中学校は精進湖からほど近いため、競技場の水面で実践的な練習を毎日行うことができました。

 「水面に毎日出て練習できる中学校はめったにありません。この恵まれた環境のもとで、えみ里たちカヌー部の部員は10~12キロぐらいの距離を毎日のように漕ぎ込んでいきました」

 そう語るのは、渡邉さんが中学2年生のときに上九一色中学校に体育の教師として赴任し、カヌー部で渡邉さんの指導にあたった都築和久 監督です。都築監督は山梨県立市川高校カヌー部OBで、大学を経て体育の教師として地元に戻ってからは、中学カヌー部や上九一色カヌークラブの指導を行いながら、県カヌー協会の強化主任コーチに就任。2012年のロンドンオリンピックに出場した地元のエース、藤嶋大規(旧姓:渡邊)選手の育成にも努めました。

地元、精進湖で練習に励む渡邉さん。小学2年生のときからこの水面で腕を磨いてきました


 そんな頼れる指導者と出会うことができた渡邉さん。中学カヌー部にやってきた都築監督は渡邉さんが持っている力を見出して指導に励み、高校生になった現在も二人三脚でさまざまな大会に挑み続けています。

 「中学に入って都築先生に指導していただくようになってから、とても練習量が増えて心身ともにきつくなりましたが、練習を積めば積むほどタイムが上がっていくので、辛さよりも喜びを感じるようになっていきました」

 週末だけ練習していた小学生の頃に比べ、中学に入ってからは毎日10キロ以上も漕ぐようになった渡邉さん。ベテラン指導者の都築監督のもとで、着々と実力をつけていきました。

高校でリベンジを果たしたい!

一昨年の岐阜国体で撮った貴重なショット。中央の渡邉さんを囲んで、右が山梨県チーム監督として参加した都築さん、左はロンドンオリンピック日本代表の藤嶋選手

 タイムを上げながら、きつい練習をこなしていった渡邉さん。ともに水面に出る、カヌー部の仲間の輪の強さも、ハードな練習を乗り越える大きな原動力になっていました。

 「カヌーは、どんなに遅い選手でもタイムが上がれば練習が楽しくなるものです。ですから、タイムの目標を設定することで選手のモチベーションが上がります。また、一緒に練習する仲間の雰囲気も重要です。1人1人が個々にタイムの目標を持つ一方、チームがひとつにまとまって次の大会の目標を掲げることで、お互いを励まし合うことができるからです」

 チームが掲げた目標に向かって皆が練習に頑張るため、その雰囲気に合わせて自分も頑張ることができたと振り返る渡邉さん。やがて、その成果がいろいろな大会で発揮されていきましたが、3年生のときに出場した中学生最後の大舞台、全中(全国中学生カヌー大会)では惜しくも4位となって表彰台を逃してしまいました。

 「えみ里は勝つだけの力を持っていましたが、目標の大会に合わせて心身のコンディションを最大に高めるピーキングが十分にできていませんでした。中学生の選手に、『気持ちをコントロールしなさい』と言っても、なかなかできるものではありません」

 表彰台は逃したものの、都築監督に焦りの気持ちはありませんでした。ピーキングの問題が解消できるようになれば、高校生になってから必ず良い結果を出せると思っていたからです。

 「中学3年生のときの全中は、優勝を狙っていたので4位の結果には満足できず、とても残念な思いをしました」と語る渡邉さん。しかし、都築監督が考えたとおり、高校に進学した渡邉さんは破竹の勢いで大きな成果を獲得していきました。(※続きます)