連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 104

いつまでも、力いっぱいカヌーを漕ぎ続けたい!

2014.09.24 UP

~同じ海洋センターの水面から世界に羽ばたいた2人のカヌー選手~

琵琶湖と水路でつながる、滋賀県近江八幡市の小さな湖、西の湖。その湖畔に建設された近江八幡市安土B&G海洋センター艇庫は、一般住民を対象にしたカヌーの普及に利用されているほか、複数の地元高校カヌー部が合同で練習の拠点にしており、今日までに3人の日本代表選手を輩出しています。
その2人、八日市南高校から立命館大学を経て、社会人となった現在も世界の舞台に立ち続けている小梶孝行選手と、八幡商業高校時代から世界に挑み、現在は同志社大学に進んでインカレ制覇をめざしている坂田 真選手にお会いすることができましたので、これまでの振り返りや今後の抱負などについて語っていただきました。
※第1~2話:小梶選手 第3~4話:坂田選手 第5話:地元のカヌー指導者 饗塲忠佳氏の順で、ご紹介していきます。

プロフィール
● 近江八幡市安土B&G海洋センター

平成8年(1996年)開設。水路で琵琶湖に隣接する西の湖の湖畔に艇庫を設け、一般利用に加えて周辺地域の複数の高校カヌー部が練習拠点に活用。これまでに3人の日本代表選手が育っている(今回取材の小梶、坂田両選手。ならびに現在、日本体育大学在学中の中村由萌選手)。また、西の湖周辺のヨシ路は水郷めぐりの名勝として琵琶湖八景の一つに数えられており、カヌーツーリングやキャンプが楽しめる。

● 坂田 真(さかた まこと)第3~4話

平成4年(1992年)生まれ、滋賀県出身。滋賀県立八幡商業高校カヌー部で活躍し(カヤック選手)、3年生のときにジュニア日本代表としてスロバキアで開催された「ピースタニー国際レガッタ」に出場。同志社大学進学後、同校カヌー部に在籍しながら2年、3年生時に日本代表としてワールドカップに参戦。3年生時に第49回全日本学生選手権大会1000mペアで優勝。4年生になった今年は主将を務めながら練習や競技活動に励んでいる。

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第4話母校に錦を飾りたい!(坂田選手 後編)

真冬の修行

 高校カヌー部の監督から、「3年生の授業を終えて大学に入るまでの間は、小梶君と一緒に自主トレーニングに励め」と言われた坂田選手。2月に入ってほとんどの授業が終わると、さっそく北風が吹く寒い湖面で2人の猛練習が展開されていきました。

 「地元の大先輩と一緒に練習できるまたとない機会ですから、大学に入る4月までの2カ月間は、これでもかと言うぐらいカヌーに集中する毎日を送りました」

 山にこもって修行に励む剣士のように、一心不乱にカヌーを漕ぎ続けたと振り返る坂田選手。カナディアン(小梶選手)よりカヤック(坂田選手)のほうがスピードの出る種目でしたが、大学のトップレベルと高校のトップレベルが競り合うと、ちょうど同じぐらいの速さになるため、小梶選手も手加減せずに坂田選手の相手をすることができました。

 「2人でメニューを考えたうえで、『なぜ、こんなことを延々とするのだろう』と自問するぐらい、お互いに競い合って走り続けました」

 この2カ月間でパドリングのスキルもさることながら、人並み外れた体力と何があっても負けない強い精神力が身についたと語る坂田選手。その成果は、小梶選手に勧められて入学した同志社大学カヌー部の時代を迎えて開花していきました。

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取材当日のカヌー体験教室で準備運動に励む坂田選手(左)と小梶選手。かつて2人は2カ月間にわたって猛練習に明け暮れました

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カヌー体験教室で模範走を行う坂田選手(奥)と小梶選手。2人で修行に励んだ際は、こうして速さを競い合う練習に力を入れました

分かち合いたい勝利の喜び

カヌー体験教室の参加者の出艇を手伝う坂田選手。当日は、大勢の参加者にカヌーの楽しさを伝えてくれました

 前回で述べたように、仲間と勝利を分かち合いたいことからクラブの全体的な活動を重視する同志社大学カヌー部の門を叩いた坂田選手。入部後は、さっそくチームの総合力が求められるペアやフォアの練習に励んでいきました。

 「小梶先輩に教わったとおり、同志社大学カヌー部は皆がフレンドリーに接してくれるため、ペアやフォアといった団体種目や皆が一丸となって戦う学校対抗に力を入れやすい雰囲気がありました」

 坂田選手は大学2年生および3年生のときに日本代表に選出され、ワールドカップやU23(23歳以下)の世界選手権大会に出場しましたが、その一方で仲間と味わう母校の勝利にこだわりを持ち続け、3年生のときに開催されたインカレ(第49回全日本学生選手権大会)1000mペアで、念願の優勝を手にすることができました。

 「同志社大学に入ってきてくれた高校の後輩と組んでの優勝だったので、喜びもひとしおでした。ペアは一番小さな2人だけの仲間ですが、シングルで勝つこととはまた違った感動を味わうことができました」

 インカレという晴れ舞台で、仲間と勝利を分かち合うことができた坂田選手。この喜びを糧に、4年生になった今年は主将としてカヌー部全体をとりまとめながら、日々の活動に励んでいます。

 「4年生になったため、今年は最後のインカレになります。ですから、精一杯頑張って皆と一緒に歩んできた活動の集大成にしたいと思います」

 今回の取材でこう述べた坂田選手。チームとしてどうしたら最大の力を発揮することができるのか、仲間と一緒に知恵を出し合いながら部活に励んできたことで、人間として大きく成長することができたと語っていました。

 坂田選手が思いを込めた今年のインカレは、取材から1カ月が過ぎた8月の最終週に石川県小松市で開催。結果、同志社大学はチームの総合力が問われる学校対抗で、過去最高に並ぶ総合4位(男子)の成績を収めることができました。

頑張れば良いことが待っている

B&G艇に乗って水面の散歩を楽しむ2人。レジャーで乗るカヌーの楽しさも十分に知っています

 主将として母校カヌー部を率いながら、最後のインカレを終えた坂田選手。日本代表に3回も選ばれて国際大会の経験を積んだことから、今後はオリンピックを目指してほしいという声も少なくありませんが、坂田選手自身は競技の第一線から退く気持ちを早くから固めています。

 「カヌーを続けることで、いままでずいぶんと家族の力を借りてきましたので、大学を出てからは家族に貢献したいと思っています。オリンピック選手になれば、家族も喜ぶでしょうから恩返しの1つにはなると思いますが、それよりも就職を決めてしっかり働くことが何よりの孝行になると考えています」

 仕事に慣れて落ち着いたらカヌーの活動を再開するかも知れないものの、社会人としての経験を積んでいない現段階でそのようなことは考えないと語る坂田選手。しかし、取材当日にゲストとして訪れたカヌー体験教室のようなイベントで、多くの人にカヌーの楽しさを伝えることには協力していきたいと述べました。実際、この日のカヌー体験教室でも、多くの参加者に声を掛けながらパドルの使い方や乗艇のコツなどを教えてくれました。

 「とにかく、カヌーに乗ったらパドルで水をつかんで進むことに心地良さを感じます。ですから、レジャーとして乗るカヌーも最高に面白いと思います。また、漕いで進まなくても、プカプカと水の上を浮いているだけでも楽しいものです」

カヌー体験教室で出会った子供たちと撮った記念のショット。坂田選手はカヌーの活動に励む日本中の子供たちに大きな期待を寄せています

 カヌーは手軽に水辺の自然と触れ合うことのできる乗り物なので、より多くの子供たちに乗ってもらいながら、さまざまな体験をしてほしいと坂田選手は語ります。

 「そのなかで競技に関心を持つようになったら、どうしたら速く走れるようになるか試行錯誤しながら練習に励んでほしいと思います。小梶先輩とよく話すのですが、カヌーは練習の努力を裏切りません。頑張れば頑張るほどに速く走れるようになるスポーツです」

 一生懸命に努力すれば、自然に自信がわいてくると指摘する坂田選手。カヌー競技に関心を持った日本中のたくさんの子供たちが自信をもって練習に励むようになれば、いつか必ず誰かがオリンピックの表彰台に立つことができるだろうと語っていました。(※第5話:饗場忠佳監督に続きます)