連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 100

海と森にふれながら、家族の絆を深めたい!


海野さんと事務局スタッフで妻の佳子さん

2014.05.28 UP

親子の活動で地域の活性化をめざす、B&G葉山海洋クラブの取り組み

体験クルーズや指導者養成研修など、さまざまなB&G財団事業で自然環境教育の講師を務めていただいている、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センター代表の海野義明さん。
忙しい日々を送るなかで、B&G葉山海洋クラブの活動にも熱心に取り組んでおり、今年からは森に入って山の恵みにふれる活動にも力を入れています。
「ブルーシーとグリーンランドをバランスよく取り入れていきたいと思います」と語る海野さん。親子の参加で家族の絆を深め、集まった仲間の絆で地域の活性化をめざす、同海洋クラブの精力的な活動を紹介していきます。

プロフィール
● B&G葉山海洋クラブ

神奈川県葉山町の海辺にある、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センターのセミナーハウスを拠点に、2005年から活動を開始。同年に設立されたB&G江の島海洋クラブと手を携えながら、親子で行うさまざまな海辺の活動を通じて地域の活性化をめざしており、今年からは近隣の森に入って竹林の整備などに励むグリーンランドのプログラムにも力を入れている。

● 海野義明(うんの よしあき)さん

昭和30年(1955年)生まれ、神奈川県葉山町出身。麻布大学獣医学部卒。日本動物植物専門学院教師を経て1991年、三宅島に移住。その後、故ジャック・T・モイヤー博士とともに海の環境教育事業を展開。2002年に葉山町に拠点を移し、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センターを設立するとともに、2005年にはB&G葉山海洋クラブを立ち上げ、地域の親子を対象にしたさまざまな自然体験活動、環境学習を展開している。

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第4話(最終話)海と森のクラブをめざしたい!

我が子の成長に驚く親

活動の当日、1日のスケジュールなどを確認し合う大勢の親子。この10年、常に親と子が一緒になって行動をともにしてきました

 2005年の設立以来、今日までに300組以上の親子がさまざまな自然体験を行ってきたB&G葉山海洋クラブ。最初の頃に活動していた子供たちも、いまでは高校生や大学生となってボランティア指導者に成長する一方、子育てを終えた親のなかからも、「何か役に立ちたい」、「活動が楽しい」といってクラブの仕事を継続的に手伝う人たちが現れています。

 「かつて子供だった世代や若い親だった世代が、ともにいまでもクラブの活動に携わってくれているのは、ひとえに親子で一緒に活動することを掲げてきたおかげだと思います」

 子供だけをクラブに預けて帰ってしまうと、どうしても親は子供の成長に気づきにくくなると語る海野さん。親子で一緒に活動することで、我が子の成長を肌で感じる場面が次々に出てきます。また、的確に成長を促す手法を親が獲得することができます。

 「親子の活動によって得られる一番の成果は、なんといっても子供と親が仲良くなっていくことです。そして多くの親が、『こんなこともできるようになったのか!』とか、『こんなに生き物に詳しかったのか』などと言って、我が子の成長に驚き、喜びます」

 こうした親子の姿を目にするたびに、自然体験を親子で分かち合うこの大切さを再認識してきたという海野さん。我が子の成長に驚く親も、少なからず海野さんと同じ思いを抱くようになって、積極的にクラブの運営に協力していきます。

 「海洋クラブに関心を寄せて参加する親のなかには、子供の頃に海や山で遊んだ人も少なくありません。ですから、クラブに頼らなくても自分たちで我が子に海や山の楽しさを教えてあげられるのではないかと思うところですが、彼らは自分たちで勝手に外遊びをした時代に育っていて、親から遊び方を教わった人はほとんど見かけません。

 ですから、家遊びが増えた現代っ子の事情を憂慮して、彼らが我が子を外に連れ出したいと思っても、どうやって海や山の楽しさを教えていいのか迷ってしまう場合が多いのです」

 外遊びを体験しながら育ったものの、我が子にその楽しさをなかなか伝えられないでいる親たちの力になりたい。海洋クラブをつくる際、海野さんが親子体験にこだわった理由が、まさにここにありました。

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地元の森に入って環境整備に励むボランティア指導者の皆さん。海野さんのもとには、海洋クラブのOB、OGをはじめ、さまざまな縁で活動を手伝う人たちが集まります

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今年から始めた「森の教室」でタケノコ掘りに励む親子。なにやらお父さんのほうが夢中になっているようです

グリーンランドにも注目

竹を使ってご飯を炊いた「森の教室」の皆さん。香ばしい食事を楽しむことができました

第3話で紹介した「ふくしまキッズ」と葉山の子供たちが、一緒につくった大漁旗。自然の恵みという今年の活動のテーマにつながる「食」という言葉が飾られています

 海洋クラブということもあって、これまで海の活動に焦点を絞ってきた海野さんですが、ここにきて地元の山や森にも目を向けるようになりました。

 「今年になってから『森の教室』を開き、年12回の開催を計画しました。初回は葉山の森に入って親子で自然観察を行い、その後はタケノコ掘りやタケノコ料理などを通じて野外生活を皆で楽しんでいます」

 自然の恵みを頂くことは、自然と人とのつながりを考えるうで子供たちにとって大きなインパクトになると海野さんは語ります。夏に入ったら川魚を捕って食べ、秋には木の実やキノコ採りに出掛ける予定を立てているそうです。

 「食のキーワードは大正解で、タケノコ掘りを行ったときには、親も子も夢中になって『ここ掘れ、そこ掘れ』と大騒ぎになり、取れたてのタケノコは柔らかくて美味しく、竹を使って炊いたご飯も実に香ばしいものでした。収穫して食べるという行為は生きることに直接つながる本能的なものですから、こうした活動を通じて森の恵みのありがたさを知ってもらいたいと思っています」

 親子の活動なら、子供だけには任せられない火や刃物を使うメニューもできるようになると語る海野さん。「自然と触れ合うことは楽しい」、「その自然を持続させていくにはどうしたらいい」、「だから、森づくりという環境を整える仕事が必要である」、といった一連のテーマをこれから追い求めていくそうです。

 「今年の春に森の恵みを頂いて楽しみましたから、その感動体験を胸に、秋から冬にかけては竹林や森の整備作業を親子で行っていくつもりです」

 こうした作業で環境を整えれば、来年の春にはタケノコ掘りに加えてカブトムシやクワガタムシもたくさん出てくるようになると、楽しそうに話す海野さん。そんな活動を知った地元の人たちから、「後継者がいない炭焼き窯の継承もなんとかできないか」とお願いされたり、後継者問題の出てきた製材所の今後についての相談もされたりしました。

B&G財団をはじめ、さまざまな団体、機関の仕事を依頼される海野さん。これまでに数多くの著書や研究書を発行しています

 「山や森に入って活動することが地域の再生にもつながっていくので、今年から始めた『森の教室』は一石二鳥の取り組みになっていくと思います。ブルーシー・アンド・グリーンランドだから、緑の活動にもこだわりたい」

 そう語る海野さん。もちろん海の活動も従来通りに続けており、年間を通じてグリーンランドの活動が軌道に乗ったら、「今週は海、来週は森」といった交互の活動で1つの大きなプログラムを構築していきたいと目を輝かせていました。(※完了)