連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 100

海と森にふれながら、家族の絆を深めたい!


海野さんと事務局スタッフで妻の佳子さん

2014.05.21 UP

親子の活動で地域の活性化をめざす、B&G葉山海洋クラブの取り組み

体験クルーズや指導者養成研修など、さまざまなB&G財団事業で自然環境教育の講師を務めていただいている、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センター代表の海野義明さん。
忙しい日々を送るなかで、B&G葉山海洋クラブの活動にも熱心に取り組んでおり、今年からは森に入って山の恵みにふれる活動にも力を入れています。
「ブルーシーとグリーンランドをバランスよく取り入れていきたいと思います」と語る海野さん。親子の参加で家族の絆を深め、集まった仲間の絆で地域の活性化をめざす、同海洋クラブの精力的な活動を紹介していきます。

プロフィール
● B&G葉山海洋クラブ

神奈川県葉山町の海辺にある、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センターのセミナーハウスを拠点に、2005年から活動を開始。同年に設立されたB&G江の島海洋クラブと手を携えながら、親子で行うさまざまな海辺の活動を通じて地域の活性化をめざしており、今年からは近隣の森に入って竹林の整備などに励むグリーンランドのプログラムにも力を入れている。

● 海野義明(うんの よしあき)さん

昭和30年(1955年)生まれ、神奈川県葉山町出身。麻布大学獣医学部卒。日本動物植物専門学院教師を経て1991年、三宅島に移住。その後、故ジャック・T・モイヤー博士とともに海の環境教育事業を展開。2002年に葉山町に拠点を移し、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センターを設立するとともに、2005年にはB&G葉山海洋クラブを立ち上げ、地域の親子を対象にしたさまざまな自然体験活動、環境学習を展開している。

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第3話海洋クラブで育む親子の絆

地域の力を活用したい

葉山町ビーチフラッグス大会の様子。海洋クラブの子供たちは地元のイベントにも積極的に参加していきました

 自然体験活動をともにしながら、やがて指導者になってもらい、我が子はもとより地域の子供たちに自然の大切さを教えてほしい。そんな願いから、親子で学ぶ活動を中心にした「B&G葉山海洋クラブ」を立ち上げた海野さん。同時期に発足した近隣のB&G江の島海洋クラブと手を携えてさまざまな共同事業を展開するほか、地元葉山町が行う駅伝大会やマリンフェスティバルなどのイベントにも、クラブ活動の一環として積極的に参加してきました。

 「2つの海洋クラブが手を携えることで、ヨットハーバーを拠点にする江の島でヨットに乗り、ビーチや岩場のある葉山の海でカヌーやシュノーケリングを楽しむといった幅広い活動ができるようになりました。

 また、クラブ活動で培った自分の子供も他人の子供も皆で育てる。そんな効果を自分たちだけで有していてはもったいない。地域の子供は、地域の皆で育てる。その輪を地域全体に広げたい。そんな思いのもとで、地元のイベントにも極力参加するように心掛けていきました」

 「地域の人や組織との交流は、海洋クラブ活性化の秘訣です」と語る海野さん。地元の漁師さんに頼んで一緒にクラブの親子にヒジキを取らせてもらったり、ワカメ養殖の手伝いをお願いしたりすることもあるそうで、常にさまざまな活動の方向性を模索しています。

大事なタテヨコ、ナナメの関係

地元の漁師さんからワカメの種付けを教えてもらう子供たち。地元の海の食文化も学びます

 B&G葉山海洋クラブには、小学1年生から70代のボランティア指導員まで、さまざまな年齢の人たちが集まって活気にあふれています。

 「子供たちだけでも、葉山町にある4つの小学校のほか、近隣にある7つの小学校などからも来ていますから、普段、顔を合わすことのない異なる地域の子、異なる年齢の子が一緒になって活動しています。

 また、子供たちを指導するボランティアに関しても、地域の親御さんや学生に加え、三宅島時代に手伝ってくれた人たちも数多く参画してくれていて、国が主導した『自然体験活動指導者養成講座』の講師を私が務めていたこともあって、その受講生なども来てくれています」

 普段の活動では、20人ほどの子供たちに10人ぐらいの指導者がつくそうですが、指導者のほうが多い場合もあるそうで、学生が抱える就職の悩みを親御さんたちが聞いたり、若いお母さんが年配の人に子育ての悩みを聞いたりする場面もよくあるそうです。

 「昔だったら、兄弟や従兄弟、御祖父さんや御祖母さん、そしてご近所さんなど、多種多様な人間関係のなかでもまれながら子供たちが成長していきました。しかし、少子高齢化、核家族化が進んだ昨今、子供たちの人間関係は非常に狭くなっています。

 ですから、自然体験学習を広める目的で始めた私たちの海洋クラブではありますが、やってくる子供たちにとっては、人間同士のコミュニケーションを学ぶ社会教育的な場としても機能しているように思えます。異なる地域の子供同士に加え、大人も学生も高齢者も一緒に活動する、タテヨコ、ナナメの人間関係がとてもよく機能しています」

 B&G葉山海洋クラブは、セミナーハウスとして借りた海辺の古民家を拠点にしています。今ではめずらしくなった畳の大部屋が並んでおり、その広々とした空間は子供たちの工作室になることもあれば、大人も交えた懇親会場にも変身します。

 「広々とした畳の部屋を見て驚き、気持ちが萎縮してしまう子もいますが、そんな子でもしばらくすれば、ほかの子と一緒になって家のなかや庭で遊ぶようになります。ですから、人づきあいの幅が狭くなった昨今とはいえ、子供同士の垣根というのは、本来、非常に低いものなのだということが分かります」

 解放的な畳の部屋に集う、子供や親、学生や高齢者の人たちは、大きなひとつのファミリーのように見えると海野さんが語ります。クラブの活動を通じて、地域社会が失いかけた人づきあいの大切さを守っていきたいと述べていました。

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現在、力を入れている山の恵みに触れる活動で集まってくれたボランティア指導員の皆さん。タテヨコ、ナナメの関係で豊かな人間関係が築かれます

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子供たちに磯の観察を指導するボランティアの皆さん。子供たちと一緒になって、自分たちも大いに活動を楽しみます

継承されていく活動

 「葉山マリンキッズ」の活動をさらに充実させる目的で、2005年に設立された葉山海洋クラブ。この10年間に300組以上の親子が葉山で楽しい活動を展開してきました。

 「子供もさることながら、親の多くは家族で好きなことに打ち込める時間を持てたことに大きな喜びを感じるようです。当然、そこから親子共通の話題ができますから、家に戻ってからも家族同士の会話が弾むようになっていきます。参加された親御さんたちにとっては、そのことが一番の収穫になっているようです」

 「葉山マリンキッズ」時代の子供たちは、現在、中学生から大学生になっており、その多くがボランティアで海洋クラブの活動を手伝ってくれています。また、親子で参加した人のたちのなかからも、自分の子供が大きくなって手離れした後、活動を手伝うケースが出ています。

 「10年が過ぎて、世代の循環ができたことは、とてもうれしいです。最初の世代が、現在、もう指導者となって手伝いに来てくれています。次の世代、そしてその次の世代も続いていってほしいと思います」

 B&G葉山海洋クラブで一緒に活動する親子が、どんどん仲良くなっていく姿を見続けてきた海野さん。これからも、その絆を1つでも多く増やしていきたいと語っていました。(※続きます)

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セミナーハウスとして借りている古民家。解放感あふれる広々とした畳の部屋は、さまざまな用途に活用できます

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原発事故の影響を受けた現地の子供たちを支援する「ふくしまキッズ」の活動にも賛同し、菜の花畑の散策などを通じて福島と葉山の子供たちが交流を深めました