連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 100

海と森にふれながら、家族の絆を深めたい!


海野さんと事務局スタッフで妻の佳子さん

2014.05.07 UP

親子の活動で地域の活性化をめざす、B&G葉山海洋クラブの取り組み

体験クルーズや指導者養成研修など、さまざまなB&G財団事業で自然環境教育の講師を務めていただいている、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センター代表の海野義明さん。
忙しい日々を送るなかで、B&G葉山海洋クラブの活動にも熱心に取り組んでおり、今年からは森に入って山の恵みにふれる活動にも力を入れています。
「ブルーシーとグリーンランドをバランスよく取り入れていきたいと思います」と語る海野さん。親子の参加で家族の絆を深め、集まった仲間の絆で地域の活性化をめざす、同海洋クラブの精力的な活動を紹介していきます。

プロフィール
● B&G葉山海洋クラブ

神奈川県葉山町の海辺にある、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センターのセミナーハウスを拠点に、2005年から活動を開始。同年に設立されたB&G江の島海洋クラブと手を携えながら、親子で行うさまざまな海辺の活動を通じて地域の活性化をめざしており、今年からは近隣の森に入って竹林の整備などに励むグリーンランドのプログラムにも力を入れている。

● 海野義明(うんの よしあき)さん

昭和30年(1955年)生まれ、神奈川県葉山町出身。麻布大学獣医学部卒。日本動物植物専門学院教師を経て1991年、三宅島に移住。その後、故ジャック・T・モイヤー博士とともに海の環境教育事業を展開。2002年に葉山町に拠点を移し、NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センターを設立するとともに、2005年にはB&G葉山海洋クラブを立ち上げ、地域の親子を対象にしたさまざまな自然体験活動、環境学習を展開している。

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第2話葉山で始まった新たな展開

島の将来を担う子供たち

 島の自然環境や文化風習を守る地域の継承者を育てたい。そんな願いから始まった小学校の海中観察授業や、その授業内容を継続的に続ける地域教育としての「三宅マリンキッズ」の活動。残念ながら、火山の噴火によって全島民が避難を余儀なくされたため、こうした取り組みも中断されてしまいましたが、モイヤー博士や海野さんとともに地元の自然に触れた体験は、しっかりと子供たちの胸に刻まれました。

 「島を離れたときに中学生・高校生だった子供たちが、東京などに避難した先で大学進学や就職を迎える年齢になると、多くの子が島の復興をめざして農業や漁業、そして教師の道を選んでいきました」

 海洋学習や郷土学習を受けた子供たちが残した作文には、「三宅島は宝物です」とか「島の自然や文化、暮らしを守っていきたい」といった感想が記されていました。授業を通じて郷土を慕う気持ちが育まれたことが、農業や漁業、教育をめざす動機につながったのではないかと海野さんは語ります。

 「子供たちは、避難生活を送りながら島の自然や文化を学んだ日々を振り返ってくれたのでしょう。現在、島の復興は始まったばかりですが、故郷を大切に思う子供たちが立派な大人に成長していますから、この先いろいろな問題が起きても自分たちの力でより良い方向に解決していくことができるのではないかと思います」

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三宅島の海でイルカの観察を行うジャック・T・モイヤー博士。多くの子供たちに貴重な体験を残してくれました

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地元、葉山に戻って開始した「葉山マリンキッズ」の活動。初年度に集まった子供は17人たらずでしたが、翌年以降は倍々に増えていきました

海が好きな親の願い

 三宅島の人々とともに都内に避難した海野さんとモイヤー博士は、島に帰る日を待ちながら「NPO法人オーシャンファミリー」を立ち上げ、各地で海洋環境教育活動を展開。2002年からは海野さんの故郷である神奈川県葉山町に拠点を移し、「三宅島マリンキッズ」の活動を踏襲する形で、「葉山マリンキッズ」を立ち上げました。

 「葉山にも海や山があり、私が子供の頃には一日中、自然のなかで遊んだものでした。ところが2002年に戻ってみると、まったくと言っていいほど海や山に接しない暮らしをしている子供たちの姿がありました。野原の遊び場すらなく、多くの子が家のなかでテレビゲームに没頭していたのです」

 このような状況では、「三宅島マリンキッズ」のような活動はままならないと感じた海野さんでしたが、初年度の「葉山マリンキッズ」は、口コミだけで17人の子供たちが集まりました。

地元の海で生き物観察を行う「葉山マリンキッズ」の子供たち。海野さんは、さまざまなプログラムで子供たちを家の外に出していきました

 「当時は、海辺に暮らしたくて都会から葉山に移り住む若い夫婦が少なくありませんでしたが、海で遊ぶ楽しさを自分の子供に伝えることがなかなかできないでいました。彼らは当たり前のように海に入って遊んだ青春時代を送っていましたが、時代が変わってテレビゲームの世代になってしまった我が子にどう向き合ったらいいのか困惑していたのです。そのため、『葉山マリンキッズ』に賛同して我が子を預けてくれました」

 初年度の活動の評判は周囲に広まり、「なぜ口コミだけで集めたのか」といったクレームも出たため、次年度は町の広報誌にメンバー募集の告知を載せると、一気に51人もの子供が集まりました。

 「海が好きで葉山に暮らす親御さんたちは理解があって、『自分には教えられないので、ぜひ息子にいろいろな海の遊びを教えてほしい』などと言ってくれました」

親も一緒に学ぼう!

B&G江の島海洋クラブのヨットでセーリングを楽しむ葉山の子供たち。隣町同士の海洋クラブは、設立当初から手を携えていきました

 次年度になって51人に急増した「葉山マリンキッズ」。海に理解があるものの、我が子に海の楽しさを教えられない親が多いことから、海野さんは親子教室の形に変えていくことを思い立ちました。

 「当時から体験クルーズの講師などを務めさせていただいていた縁もあり、『葉山マリンキッズ』の活動が3年目を迎えたとき、B&G財団の方々から海洋クラブの登録を勧められました。そのため、これを機会に親子で学ぶ活動を中心にしたクラブにしたいと考えました」

 自然体験活動をともにしながら、やがて親には指導者になってもらい、我が子はもとより地域の子供たちに自然の大切さを教えてほしい。また、その子供たちが親になってから地域の子供たちを指導してくれたら、循環型の地域教育が成り立ちます。その理想を、海野さんは新たに生まれるB&G葉山海洋クラブに託しました。

 また、このとき同時にB&G江の島海洋クラブも誕生。葉山とは湾を隔てた対岸に位置する関係から、2つの海洋クラブは発足当時から手を携えてさまざまな共同事業を行っていくことになりました。

 「2つの海洋クラブが手を携えることで、オリンピックハーバーを拠点にする江の島でヨットに乗り、ビーチや岩場の海岸に近い葉山でカヌーやシュノーケリングを行うといった、幅広い活動ができるようになりました。

葉山、江の島2つの海洋クラブがヨットハーバーに集合。セーリングクルーザーの体験乗船を通じて交流を深めました

 こうしてB&G葉山海洋クラブとして新たなスタートを切ると、親子合わせて141人ものメンバーが集合。大所帯になったため、セーリングクルーザーの体験会には江の島海洋クラブだけでなく、葉山のヨットハーバーにも声を掛けて何隻ものセーリングクルーザーを動員してもらうほか、海上保安署にもお願いして巡視船にも乗せてもらうなど、周辺地域のさまざまな協力を得る努力を続けていきました。(※続きます)