連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 90

小さなドングリを集めて、大きく育つ仲間の輪

2013.07.24 UP

~植樹活動に励む、NPO「地球の緑を育てる会」
                       理事長の石村章子さん~

子育てを終えた石村章子さんが、中国の沙漠で緑化事業を展開するNGO「日本沙漠緑化実践協会」の仕事に就いたのは、18年前のことでした。
「銀座で電話当番のような仕事があるけれど、やってみる?」という、いまは亡き主人の言葉に、銀座が大好きな私はすぐOKの返事をしましたが、実はそれが沙漠緑化を旨とする団体のお仕事でした」
石村さんは、その団体で働きながら緑化事業に関心を寄せ、やがて自ら発起人の1人となってNPO「地球の緑を育てる会」を設立。宮脇 昭 横浜国立大学名誉教授が提唱する、「その土地本来の植生を活かした植樹」を広めるようになりました。
「主人は若い頃から環境問題に関心を寄せていました。ですから、仕事に忙しい自分に代わって緑化の仕事を私に勧めてくれたのだと思います」
亡くなられたご主人の思いと共に、苗を育て、木を植えていきたいと語る石村さん。植樹に励む大勢の仲間に囲まれながら、忙しい日々を送る石村さんの横顔を紹介いたします。

プロフィール
● 石村 章子(いしむら あやこ)さん

(昭和18年)1943年、満州国大連生まれ。東京女子大学卒業後、大手銀行入社。結婚退社後は主婦業に専念したが、夫の勧めを受けて1995年から5年間、NGO「日本沙漠緑化実践協会」の事務局長を務める。その後、自ら発起人の1人となって2001年に「地球の緑を育てる会」を設立(翌年、NPO法人化)し、理事長に就任。横浜国立大学の宮脇 昭 名誉教授を顧問に迎え、茨城県つくば市を拠点に社会奉仕活動に励む民間団体「明るい社会づくり筑浦協議会」と手を携えながら緑環境再生事業を進めている。

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第4話開墾、植樹、そして懇親!

楽しい子育て

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ドングリから育った苗の鉢上げ作業に励む皆さん。子育ての感覚で作業を楽しんでいます

 さまざまな人の知恵と努力によって、軌道に乗っていった「ドングリ広場」の育苗活動。トロバコのなかで無数のドングリが芽を出すと、鉢上げなどの作業に追われることになりますが、仕事が増える苦労よりドングリが育つ喜びのほうが大きいと石村さんは語ります。

 「小さなドングリが芽を出して育ち始めると、『一週間で、こんなに大きくなったの!』といった喜びが日ごとに高まります。数え切れないほどの芽が育つので、その後の作業は大変ですが、大きく育って出荷のときを迎えると、『よく、ここまできたね』と言って、娘を嫁に出すような気持ちになります」

 大勢の人の手を経て1粒のドングリが小さな苗木に成長しますが、「1粒のドングリが人と人をつないで豊かな人間関係を育んでくれるんです」と、石村さんは語ります。プレハブのボランティアハウスはけっして豪華な施設ではありませんが、休憩時間になれば作業を楽しむ仲間たちの笑顔であふれます。

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休憩を取る、JICAで研修中の外国人の皆さん。国際学園都市の近郊だけに、世界各国の人が作業に参加してくれます

 「事業が拡大すればするほど作業のメニューも増えますから、手伝ってくれる人の輪もどんどん広がります。ここは国際学園都市に近いので、海外留学生やJICA(国際協力機構)の研修に参加する人たちもボランティアでやってきて、会の人たちとの交流を楽しんでいます」

 作業で広場がにぎわうときには、100人前のバーベキューコンロがフル稼働。海外から参加のボランティアも加わるときは、今日はタイ料理、明日はトルコ料理と、いろいろな国の料理が振舞われて楽しみも増えます。

筑波山の開墾

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筑波山の随所にびっしりと生えるシノダケ。周囲の木の根を圧迫しています

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過密林も大きな問題。間伐しながら開墾を進め、常緑樹を植える場所を確保していきます

 こうして石村さんたちの育苗事業が軌道に乗ると、「出荷するのもいいけれど、地元にも植えたいね」という声が会の人たちから上がるようになりました。

 「筑波山は地元の名峰で、外観は美しい緑に覆われていますが、山に入るとシノダケ(アズマネザサ)がびっしりと生えて森の木々の根を圧迫している場所が少なくありません。

 また、材木用として過去に植えられた杉や松、檜などは、伐採期を迎えているのに需要を失って過密林のまま放置されており、人の手を入れなければシノダケに根を邪魔されて森全体が窒息してしまいます。

 そこで、私たちは筑波山神社の宮司、田中泰一さんと相談し、神社林にはびこるシノダケを伐採して土地を開墾し、土地本来の常緑樹を植えていく活動を提案させいただきました」

 過密林やシノダケの問題は全国各地で発生しており、日本の森の存続に関わる大きな問題になっていると語る石村さん。事情を理解した神社の協力を得て、さっそく会の人たちは開墾に取り掛かりました。

 「ところが、思った以上にシノダケがはびこっていて、最初のうちは1日に1平米ぐらいしか開墾できませんでした。でも、やれば少しでも開墾できるわけですから、気長にコツコツと続けてみようと皆で励まし合いました」

アフター5は大事な時間

 石村さんたちが始めた開墾は何年も続き、まとまった開墾地が出来ると植樹祭を開催しながらシイ、タブ、カシといった土地本来の常緑広葉樹を植えていきました。現在、その数は2万3,000本ほどに達しており、植樹が済んだ開墾地では既存のスギやヒノキも植樹した苗と共に健全に生育し、豊かな混交林を形成しています。

 「森づくり事業は、日本財団をはじめとするさまざまな団体、企業の応援を受けて少しずつ前進し、昨年は1泊2日の植樹祭を企画しました。これは、開墾と植樹、そして懇親の3つの要素で成り立っており、作業後のアフター5も重視しています。一泊してビールを注ぎ合い、食事をしながら語り合うことで、仲間同士の交流が深まります」

 泊りがけのプランを考えたのは、単に植樹をして散会するより、「同じ釜の飯」を共にした森づくりのネットワークの広がりを希望したからでした。この企画には海外留学生やジャイカの研修に来た外国人も数多く加わっており、なかには自分の体験をブログに載せて世界に発信する人も出てきています。

 インターネットを使って森づくりを世の中に紹介する若い人たちに、頼もしさを感じるという石村さん。こうした活動の広がりを通じて、社会の多くの目が環境問題に向き始めていることを実感しているそうです。(※最終回に続きます)

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「筑波山水源の森づくり」植樹祭で作業の説明を行う宮脇先生。毎年、こうやって少しずつ土地本来の常緑樹を増やしてきました

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泊りがけのプランでは、大勢の人が参加しました。写真では夕食の席で海外留学生のボランティアが紹介されています

写真提供:NPO「地球の緑を育てる会」