連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 90

小さなドングリを集めて、大きく育つ仲間の輪

2013.07.10 UP

~植樹活動に励む、NPO「地球の緑を育てる会」
                       理事長の石村章子さん~

子育てを終えた石村章子さんが、中国の沙漠で緑化事業を展開するNGO「日本沙漠緑化実践協会」の仕事に就いたのは、18年前のことでした。
「銀座で電話当番のような仕事があるけれど、やってみる?」という、いまは亡き主人の言葉に、銀座が大好きな私はすぐOKの返事をしましたが、実はそれが沙漠緑化を旨とする団体のお仕事でした」
石村さんは、その団体で働きながら緑化事業に関心を寄せ、やがて自ら発起人の1人となってNPO「地球の緑を育てる会」を設立。宮脇 昭 横浜国立大学名誉教授が提唱する、「その土地本来の植生を活かした植樹」を広めるようになりました。
「主人は若い頃から環境問題に関心を寄せていました。ですから、仕事に忙しい自分に代わって緑化の仕事を私に勧めてくれたのだと思います」
亡くなられたご主人の思いと共に、苗を育て、木を植えていきたいと語る石村さん。植樹に励む大勢の仲間に囲まれながら、忙しい日々を送る石村さんの横顔を紹介いたします。

プロフィール
● 石村 章子(いしむら あやこ)さん

(昭和18年)1943年、満州国大連生まれ。東京女子大学卒業後、大手銀行入社。結婚退社後は主婦業に専念したが、夫の勧めを受けて1995年から5年間、NGO「日本沙漠緑化実践協会」の事務局長を務める。その後、自ら発起人の1人となって2001年に「地球の緑を育てる会」を設立(翌年、NPO法人化)し、理事長に就任。横浜国立大学の宮脇 昭 名誉教授を顧問に迎え、茨城県つくば市を拠点に社会奉仕活動に励む民間団体「明るい社会づくり筑浦協議会」と手を携えながら緑環境再生事業を進めている。

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第2話ドングリの教え

つくばに暮らしたい!

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2つの団体のボランティアが協力しながら、毎年、たくさんのドングリが集められています

 宮脇先生に背中を押されて、「地球の緑を育てる会」を設立した石村さん。当時、石村さんは横浜市に住んでいましたが、息子さんが就職した先の茨城県つくば市周辺の環境が好きになっていきました。

 「これも何かの縁で、息子が就職したのは国立環境研究所でした。広々とした学園都市のなかに数々の国家機関や企業の研究所があり、森林被覆率40%以上という豊かな緑の街並みが美しく、主人を亡くしたあとだったので、息子夫婦と二世帯で暮らそうと思って土地を購入しました」

 地元の不動産会社に足を運んで土地を探した石村さん。その際、なぜ横浜から移り住むのか説明しながら、設立したばかりの「地球の緑を育てる会」の話をしたところ、応対していた社長さんが、「そのような活動をするのなら、ドングリを育てる土地を貸してあげよう」と言ってくれました。

 願ってもない申し出に感謝した石村さん。すると、一緒に「地球の緑を育てる会」を立ち上げた副理事長の須藤高志さんが、つくば市周辺で清掃などの社会奉仕活動に励んでいる民間団体「明るい社会づくり筑浦協議会」に声を掛けて、育苗や植樹の活動で手を携えることになりました。

 「ボランティア団体には同じ志を抱く人が集まるので、異なる2つの団体が1つにまとまるのは珍しいことだと思います。どちらも、力むことなく、できることをやってみようと自然体で取り組んだことが良かったのだと思います」

 こうして土地と人手が、まさに自然体で揃っていった石村さんたちの活動。重なる縁のもとで、最初の活動が始まっていきました。

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2つの団体が手を携えた2001年の秋、つくば市で「地球の緑を育てる会」顧問の宮脇 昭 横浜国立大学名誉教授と「明るい社会づくり筑浦協議会」会長の村上和雄 筑波大学名誉教授(分子生物学)による講演が行われました

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2001年の秋、「明るい社会づくり筑浦協議会」と一緒に初めて行ったドングリのポット苗づくり。多くが枯れてしまいましたが、貴重な教訓を得ることができました

貴重な失敗の経験

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筑波山に生える樹齢400年のスダジイ。「その土地本来の植生」が大切なことから、現在、石村さんたちは筑波山のどこに行けばどんなドングリを拾うことができるか、しっかりと把握しています

 宮脇先生の教えに従って、皆でドングリを集めてポット苗作りを始めた石村さん。社長さんが貸してくれた土地は「どんぐり広場」と名づけられ、トレイやポットなどは「明るい社会づくり筑浦協議会」の皆さんが持ち寄ってくれました。

 「最初はよく分からないので、皆で近くの公園に行ってドングリを集めました。どこに落ちているドングリでも良いのかと思ったのです」

 集めたドングリで7000鉢ものポット苗を作った会の皆さん。ところが、最後まで元気に育ったのは、わずか1500鉢でした。

 「ドングリが育つ間は、常に誰かが必ず見守っていなければいけないのです。この最初の活動のとき、私はまだ横浜から通っていましたし、活動の体制もゆったりと皆の自然体に任せたものだったので、十分に目が届いていませんでした。

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ポットの草取りや水やりに励むボランティアの皆さん。最初の失敗を乗り越え、現在は約8万鉢もの苗が育成管理されています

 また、人工的に整備された公園に行ってドングリを集めましたが、宮脇先生の理論に従えば、『その土地本来の植生』をちゃんと調べる必要がありました」

 ドングリを枯らすことなく育てるには、しっかり根を生やすまで信念を持って見守っていなければならないと語る石村さん。最初の活動はつまずいてしまったものの、枯れてしまった5500鉢のドングリから大切な教訓を得ることができました。

 その後、石村さんは横浜から地元に移り住み、残った鉢を大事に育てながら会の活動を進めていきました。(※続きます)

写真提供:NPO「地球の緑を育てる会」