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No.002:山口県周防大島町 椎木 巧 町長 誰もが主役で幸せに暮らせる町づくりをめざして
2017.03.08 UP

瀬戸内の「ハワイ」として、その観光資源をもとに積極的な島おこしを行う山口県周防大島町。B&G全国サミットへの出席で上京の折に、椎木巧町長にまちづくりについてお伺いしました。

プロフィール 椎木 巧(しいき たくみ)町長
1948年(昭和23年)生まれ。山口県周防大島町出身。1966年に旧大島郡橘町へ入庁。旧橘町総務課長を経て、2002年に大島郡合併協議会事務局次長となり、大島郡4町の合併に携わる。2004年に周防大島町が誕生した後、総務部長、副町長を歴任。2008年に周防大島町長に就任し現在に至る(現在3期目)。B&G全国サミット 副会長。



第3話:誰もが主役で幸せに暮らせる周防大島をめざして

島の住民も移住してきた方も一緒に…

- これからの周防大島町のまちづくりについて、考えをお聞かせください -

 2008年に町長に初めて立候補する際は「観光交流人口100万人」、2期目は「交流から定住へ」というキャッチフレーズで町づくりを進めました。交流人口をもとに移住定住人口を増やしていこうという訳です。

 そして、2016年の3回目の選挙では、ある程度、移住定住者が増えている背景があったので、「誰もが主役になれる町」という言葉を掲げました。

 これまでより少し判りにくい主張ですが、移住者の方にも活躍してもらいたい、もともと島に住んでいる方にもますます頑張ってもらいたい、そういう町にしていきたい、という意味を込めました。

 人口の自然減は死亡の数に比べて出生の数が少ないことで生じるので、それを食い止めるのは日本全国の課題で、とても難しい側面があります。

 その一方、地域としては都会に人が流出する社会減が第一の課題となっていますが、社会減を食い止めプラスに転じる流れを作るためには子育て世代の移住定住が一番大切だと考えています。

 ただ、その子育て世代の移住定住が一番難しいテーマであり、年金で暮らす方と違って経済的な自立が大きな課題になります。では、周防大島でどのように経済的自立を図るのかとなりますが、これまでの実例などから3つの取り組みをご紹介したいと思います。

消費者ニーズに合わせた多品種少量生産

 ひとつは、町の大きな資源である自然環境、それを活用した一次産業、農業漁業に取り組んでいただくことです。ただし従来の農業、漁業ではなく、いま正によくいわれている多品種少量生産をめざしたい。大量ではものすごく人件費がかかりますが、家族労働にプラスちょっとだけ人件費をかければできる規模で、みかん生産に取り組む方法もあるのです。

 周防大島では、9月24日に路地のみかんの初出荷を行い、それから翌年4月に採取して6月に出荷するみかんまであります。つまり、9月から6月まで、生果のみかんがあり、ないのは7月と8月だけなんです。

 現在、みかんは過剰生産の時代からどんどん縮小しています。却って本当においしい、消費者ニーズに合ったものは価格も適正化していますから、そういう意味で取り組みがいがあると考えています。

  • 周防大島町では、多品種少量生産に適した最大10カ月間にわたりみかんを出荷できる環境がある

  • 周防大島町の豊かな自然環境を活かして、一次産業に取り組む方法も考えられる

 漁業でも、カタクチイワシの船曳漁が盛んです、ダシ煮干しにするのですが、朝5時に網を引いて夕方3時には商品になっている。その日にもう出荷してしまいます。6次産業とまではいいませんが、捕る、加工する、そして販売するという取り組みで付加価値をあげています。

 2つ目は大島で起業する、という方法です。B&G全国サミットの出店でも、お隣に出店した雲南市のワインに、大島のオイルサーディンをと売り込みましたが、ワインの消費拡大はこれからも大いに期待が持てるところです。

 このオイルサーディンは、ワインに合うものをということで開発されましたが、規格に合わない大きめのカタクチイワシを使ったものです。ものは考えようということです。

 3つ目は、どこかにお勤めしたいという方を対象にしたものです。周防大島には製造業がないので、なかなかお勤めして自立するというというニーズに応えるのが難しいところでしたが、昨年7月、ようやく小学校跡地に、初めて都会にある企業のサテライトオフィスを誘致することができました。小さな町ですから大規模な職場ではありませんが、震災以降、災害で会社全体がストップしてしまう、ということを心配する企業は増えています。

 これまでは、開発だけ、製造だけという形の機能移転が多かったのですが、会社機能の全て、総務的機能のほか開発、物流、製造のなどの20~30%を、段階的に移したいというニーズが生まれてきています。今回のお話しは、現時点で10人規模ですが、将来的には25人程度の雇用を生み出す見通しとなっています。これからもサテライトオフィスの誘致を進めたいと思います。

大島だから移住定住しよう、と思ってもらえるように

 また、町では「定住促進協議会」を作り、町外から定住した方に地域おこし協力隊を加え、定住促進活動を展開しています。その方針は、「過度なおもてなしはしない」「補助金もそんなに出さない」「移住者の数を追いかけない」です。

 数さえあればいいのか、といえばそれば違います。本当に大島に想いを抱いた方に、来ていただきたいと考えています。

  • 町の暮らしも十分に見ていただいて、周防大島だから、と移住して来て欲しいですね、と椎木町長

  • 誰もが「幸せに暮らせる周防大島」になることが一番大切

 こうした考えなので、移住者の家賃は何年間無料とか、子供が生まれたら多額のお祝い金といった移住者の方に特化した補助はありません。そうではなく、大島の魅力とか大島だから移住定住しよう、と思ってもらえるように、その魅力をきちんと伝えていくことに力を入れています。あまり拙速にではなく、大島を十分見ていただいて、その上で移住を決めていただきたいと思っています。

 移住希望者向けのツアーでは、移住後のイメージを掴みやすいよう、学校はここ、買い物はここ、こんなに不便なこともありますよ、というところも見せます。大きなスーパーは隣の市にありますので、そのスーパーに連れていきます。正直に大島のスーパーはこんな規模だということも見ていただきます。医療機関も大島の医師会の先生に説明してもらいます。あれもある。これもあるという、と良い事ばかり言うのではなく、生の暮らし方を見ていただきたいのです。

 そのため、すでに大島に移住している方々との交流会も開いており、意見交換をしたり一緒に島内で活動していただいたりしながら移住後の具体的なイメージづくりをお手伝いしています。

 つまりは、島にもともと住んでいる方も移住してきた方も、誰もが「幸せに暮らせる周防大島」になることが一番大切なのです。1万8千人の島の人口が1万人になったとしても、皆がすごく幸せですよ、といっていただけるのであれば、それは数だけではない魅力だと思います。

 これからのまちづくりは、住んでいる方がいかに幸せに暮らしていけるか、ということがすごく大切だと思います。移住定住対策もあまり数だけにこだわるものではないと考えています。

 それでも、今は高齢者の割合が非常に多いということを考えると、これからのまちづくりには、若い子育て世代の存在が重要で、移住定住は大きな柱です。周防大島を本当に気に入って移住してもらい、幸せな暮らしが実感できるようなまちづくりを着実に進めていかなければならない、と考えています。
※完

(文:進藤 博行

体育館、プール、艇庫の各施設で、年間約2万5千名に利用されています。
海洋性スポーツや自然体験活動などを通して、青少年の「こころ」と「からだ」の育成と、地域住民の健康維持、コミュニティづくりなどに活用されています。