連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 102

カヌーを通じて、たくさんの親子に絆を深めてもらいたい

2014.07.31 UP

~地域に根付いたカヌー活動に励む、B&G宮崎シーライオン海洋クラブ~

今年6月8日(日)、宮崎市の海浜公園で「B&G杯 第2回サンビーチ 一ッ葉 カヌーアスロン大会」が、B&G宮崎シーライオン海洋クラブの主催で開催されました。カヌーとビーチランを組み合わせたこの大会を発案したのは、カヌーに魅せられて同海洋クラブを立ち上げた藏本政一さんでした。
「カヌーというよりも、カヌーに集う仲間の輪が大好き。大人と子供、親子みんなで海に出て楽しい時間を分かち合っていきたい」と語る藏本さん。カヌーアスロン大会をはじめとする、同海洋クラブのさまざまな取り組みについてご紹介します。

プロフィール
● 藏本 政一(くらもと まさかず)

1958年、生まれ。長崎県出身。海が好きで水産高校から大学水産学部に進学し、高校時代はカッター、大学時代はレガッタで活躍。卒業後は宮崎市に移り住んでシーカヤックを楽しむ傍ら、日南市の南郷B&G海洋クラブなどで子供たちにカヌーを指導。2012年には、地元の活動拠点としてB&G宮崎シーライオン海洋クラブを設立した。

● B&G宮崎シーライオン海洋クラブ

平成24年(2012年)1月、開設。宮崎市の海浜公園「サンビーチ・一ツ葉」の北ビーチを拠点にカヌー活動を展開するほか、バスやトラックにカヌーを積んで県内各地を移動しながらカヌー&キャンプなども実施。地元の小学生や修学旅行生を対象にした各種カヌー体験教室にも力を入れている。

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第5話(最終話)子供たちの成長を見守りたい!

復活したアイデア

藏本さんの妻、綾子さんが作った第1回大会のチラシ。1,000部刷って、さまざまな場所に配布しました

 キャンプをしながら楽しむカヌーツーリングや、専用の釣竿で楽しむカヌーフィッシングなど、設立当初から従来の枠に囚われない幅広い活動を展開しているB&G宮崎シーライオン海洋クラブ。昨年11月には、クラブの活動拠点である宮崎市の海浜公園「サンビーチ 一ッ葉」北ビーチ(以後、サンビーチ)で、カヌーとビーチランの順位を競う、「第1回サンビーチ 一ッ葉 カヌーアスロン大会」を主催して話題になりました。

 「日南市の南郷B&G海洋センターでカヌー教室を手伝っていた頃、艇庫の目の前の沖に島があったので、カヌーで渡って島の周囲をランニングして帰るイベント競技ができないものか考えたことがありました。しかし、町役場の人に相談したところ、『島に向かう海面には大きな船が行き交う航路があるので開催は難しい』と助言され、断念した経緯がありました。

 ところが、現在、私たちの海洋クラブが活動しているサンビーチの海面はヨットやカヌー、ウインドサーフィンといった非動力型のマリンスポーツ専用エリアに指定されているため、一般船舶やモーターボートなどが入ってくることはありません。ですから、ここなら以前に考えた構想を形にすることができるのではないかと思いました」

 沖に出て島をめざすことはできませんが、サンビーチなら他の船を気にすることなくブイ回りのレースが楽しめます。そこで、島の周囲をランニングする代わりに浜辺を走るビーチランに置き換えた形で、かつて考えたアイデアが復活することになりました。

 「ビーチランは砂に足を取られることもあるので、普通の道を走るランニングとは、また違った難しさがあります。足が速い人でもけっしてあなどれず、体力の消耗を抑えながら砂地を器用に走ることを考えなければなりません。結果的にランニングがビーチランに変わりましたが、これはこれで良かったのかなと思います」

 こうして昨年に実現した、「第1回サンビーチ 一ッ葉 カヌーアスロン大会」。総勢42人の参加者を集めて盛況を呈したため、今年6月には早々と第2回大会が開催され、初回を上回る50人以上の参加者が集まりました。

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「第1回サンビーチ 一ッ葉 カヌーアスロン大会」に集まった参加者の皆さん。42人のカヌー愛好家が楽しい1日を過ごしました

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サンビーチの砂浜を懸命に走る人々。砂に足を取られてあわてるシーンも多々ありました

パドルはスコップにあらず!

大人や子供が力を合わせてカヌーを海に運ぶ海洋クラブの皆さん。親子で一緒に楽しむことに重点を置いています

 昨年今年と、盛況のうちに終わったカヌーアスロン大会。その成功の陰には地道な努力がありました。

 「大会参加者を集めるために私の妻がパソコンでチラシを作り、皆で手分けをして地元の幼稚園や学校に配って歩くほか、近所の美容院などにも置かせてもらいました。チラシを見て興味を持つ人が出てくることを思えば、こうした呼び込みの活動も楽しいものです」

 カヌーアスロン大会は、海洋クラブの主幹事業に位置付けて毎年継続していきたいと語る藏本さん。この競技は基本的に大人と子供のペアで参加するので、親子が一緒になって海への関心を高める絶好の機会になり得ます。

 「親子で参加して海やカヌーに興味を持ってくれたら、その後は子供同士でクラブのいろいろな活動に励んでいって欲しいと思います。いま、海洋クラブに来ている小学生たちが中学生や高校生になったら、今度は自分たちで年下の子の面倒をみながらカヌーやキャンプなどを楽しんで欲しいのです」

 年下の子の世話をすることが、自分自身に対する自信につながるはずだと指摘する藏本さん。クラブの子共たちには、カヌーの活動を楽しむだけでなく、カヌーを通じて大人になってくためのさまざまな勉強をしてほしいそうです。

 「ビーチで活動していると、パドルをスコップにして砂遊びを始める子もよくいます。そこで、『道具を大切にしなさい』と注意しても、なかなか言うことを聞きません。しかし、そんな子でも、カヌーで海に出た際、砂を掘って傷んだパドルが折れてしまえば、つくづくと注意された意味を振り返ることでしょう」

 そのためにも、言うことを聞かない子には、一度、折れたパドルで海に出しても良いのではないかと藏本さんは考えているそうです。

 「なぜ大人から注意されるのか、その意味を知ることで子供は成長していきます。パドルで砂を掘ったらいけないことが現実的に理解できれば、普段の生活のなかで大人に注意されることも前向きに捉えることができるようになるのではないかと思います」

 カヌーを通じて、子供たちは「ならぬものは、ならぬ」という道徳的な教えを自然に受け止めることができるようになると語る藏本さん。カヌーアスロン大会のような活動に励む一方、そこに集まってくるたくさんの子供たちの成長を見守り続けていきたいと述べていました。(※完了)

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ライフジャケットの着用を手助けし合う子供たち。年長者が年下の面倒をみることを海洋クラブの方針にしています

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第2回カヌーアスロン大会の運営を支えた海洋クラブ、ならびにボランティアの皆さん。カヌーを通じて仲間の輪が広がります