連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 99

B&G指導員親子が獲得した、OP級世界選手権大会へのチケット


2014.04.09 UP

二人三脚でヨットの頂点をめざす、B&G時津海洋クラブの尾道さん親子

OP級ヨットの日本代表チームに入るためには、数々の国内大会で上位の成績を収めたうえ、全日本選手権大会や最終選考会レースを勝ち抜かねばなりません。
2014年度の日本代表チームを決める最終選考会レースは昨年12月に別府市で実施され、幼い頃からアドバンスト・インストラクターの父、輝寿さんの指導を受けながら二人三脚で練習に励んできたB&G時津海洋クラブの尾道佳諭君(中2)が準優勝を獲得。4位に入ったB&G兵庫ジュニア海洋クラブの藤原達人君(中2)とともに、今年10月にアルゼンチンで開催される2014年度 OP級ヨット世界選手権大会に出場する日本代表チームに選抜されました。
今回は、頂点の舞台に立ったら「少しでも上位をめざしたい!」と意欲を語る尾道佳諭君と、その活躍をサポートし続けるB&G指導員、輝寿さん親子の活動に注目しました。

プロフィール
● 尾道輝寿(おのみち てるひさ)さん

昭和50年(1975年)生まれ。長崎県時津町出身。中学1年生のときからB&G時津海洋クラブでヨットを始め、大学を出ると町役場に就職。アドバンスト・インストラクター資格を取得して海洋センターに5年間勤務し、以後、別の部署に異動してからも海洋クラブで子供たちのヨット活動を指導し続けている。

● 尾道佳諭(おのみち けいと)くん

平成11年(1999年)生まれ。長崎県時津町出身。小学1年生のときから、父、輝寿さんの指導を受けてヨットを始め、小学2年生でB&G OP級西日本大会Cクラス優勝。以後、数々の国内大会で頭角を現し、昨年はヨーロッパ選手権にも出場。今年は10月にアルゼンチンで開催される世界選手権大会への出場が決まっている。

● B&G時津海洋クラブ

平成元年(1989年)、時津町B&G海洋センターの設立に併せて活動を開始。体育館の隣に建設された艇庫を拠点に、大村湾でヨットやカヌーの練習に励んでおり、会員は国体などの全国大会に積極的に出場している。

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第2話迷いながらめざした未来

親子の時間を作りたい

家族でピクニックを楽しむ、幼い頃の佳諭君。お父さんは、「早く大きくなってヨットに乗せたい」と思っていたはずです

 町役場に就職した後、5年間にわたって海洋センターの仕事に従事した輝寿さん。中学生時代から通って慣れ親しんだ海洋クラブの運営にも力を入れ、子供たちのヨット活動を支えていきました。

 「私が海洋センターに配属された頃から、すでに先輩の指導者がOP級のいろいろな大会に海洋クラブの子供たちを連れていっていました。ですから私もその志を受け継ぎ、OP級全日本選手権大会出場を最大の目標に掲げて練習に励みました」

 こうして、海洋センターに勤務しながらヨットの活動に精を出した輝寿さん。その後、別の部署に異動してからもアドバンスト・インストラクターの資格を活かしてボランティアで海洋クラブの指導を続け、やがて小学校に上がる年になった長男の佳諭君もクラブの輪の中に加えました。

 「週末になるとヨットの指導をしていたので、息子も海洋クラブに入れないと親子の時間がなかなかできないと思い、すでに幼稚園に通っていた頃から艇庫の周りで遊ばせていました。ですから、佳諭は他のスポーツを知る前からヨットや海に触れていました」

 佳諭君は、体が大きくなるのを待って、小学校に上がってから本格的にヨットの活動に参加。最初の頃は、高学年の子と一緒に2人で乗ってヨットに慣れていきました。

理屈抜きで走れ!

 「2人で乗っているときは年上の子と一緒だったので、海に出ても怖さを感じたことはなく、風が穏やかなときにヨットで揺られている感覚が好きでした」と振り返る佳諭君。

 ところが、しばらくして1人で乗るようになると、思うように操船できないことも出てくるようになりました。

2009年のB&G OP級ヨット西日本大会で艤装に励む尾道さん親子(小学4年生当時)。ヨットを通じて充実した親子の時間が流れていきました

 「誰でも、小学1、2年生ぐらいのときは、セーリングの理論なんてよく分かりません。ある程度、操船できるようになった子供たちに、『あそこのブイを回ってきてごらん』と言えば、上手にヨットを動かして回ってきますが、そのブイが風上なのか風下なのかよく理解していない子も少なくありません。ですらか、小さな子供にヨットを教えるときは、理論よりも体で覚えることが先決だと思います」

 そう語る輝寿さん。佳諭君にも最初は体で覚えてもらおうと、ヨットで海に出た佳諭君をコーチボートで追いながら、風に合わせてシート(セールを操るロープ)を引いたり緩めたりする動作などを教えていきました。

 最初の頃は、指示される意味がよく分からずにいた佳諭君。ところが、海に出る回数を重ねていくと、理屈を抜きしていろいろな操船のスキルが身ついていきました。

 「幼い頃からヨットや海に触れていたためか、佳諭は風が吹いても怖がらずにハイクアウト(体を艇の外に張り出す乗り方)ができました。オーバーヒール(過度な傾斜)になりそうになったら、体重を利用してバランスを取るという基本の動作が反射的にできたことは大きな強みになりました」

ヨットをやめたい!

 海洋クラブに通いながら、しだいにセーリングの腕を上げていった佳諭君。小学2年生になると、初心者を対象にしたB&G OP級ヨット西日本大会のCクラスに出場し、初めてのレースで優勝を飾ることができましたが、その後は日々の練習で父に反発する場面も出てくるようになりました。

 「他の子供たちと同じ指導をしているつもりでしたが、佳諭に対しては皆の3倍ぐらい叱っていたようです。そのせいか反発するようになって、とうとう『ヨットをしたくない』と言われてしまいました」

 「誰よりもたくさん叱られるので、ヨットをやめたくなってしまいました。また、学校の友だちがしているサッカーやソフトボールもしてみたいと思うようになりました」

 そんな思いを輝寿さんにぶつけた佳諭君。父の輝寿さんはその言葉を受け止めながらも、「もう少し、がんばってみようよ!」と励ましました。

 「当時は、まだ『次の大会に出場する』、『入賞をめざす』といった、はっきりとした目標を立てて練習をしていなかったので、何のために叱られているのか疑問に感じてしまって辛かったのだと思います。

 また、他のスポーツをしても良いのですが、練習や大会のスケジュールは重なることが多いものです。特に団体競技では、『ヨットの大会に行きます』などと言って1人だけ抜ける訳にもいきませんから、複数のスポーツを並行して行うには無理がありました」

 「やめたい」という思いを吐き出したものの、そんな父の話に耳を傾けた佳諭君。B&G OP級ヨット西日本大会のCクラスで優勝して以来、セーリングの腕は確実に上達していたので、「もう少しヨットを続けてみよう」と気持ちを切り替えていきました。(※続きます)

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B&G OP級ヨット大会では、低学年の初心者でも簡単なレースが楽しめるCクラスを設けており、岸辺や港内の安全な水面を使って多くの子供たちが貴重な体験を行っています

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初心者向けの簡単なレースながら、Cクラスの優勝を手にした小学2年生の佳諭君(左端の小さな子)。この経験を踏み台にして世界への道が開けていきました