連載企画

 

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 97

元気な話題を、どんどん発信していきたい!


2014.02.19 UP

B&G広報大賞で全部門入賞に輝いた、雲南市加茂B&G海洋センターの活動

積極的な広報活動を通じてB&Gプランの普及に努めた海洋センター・海洋クラブを、毎年表彰する「B&G広報大賞」。2013年度は全国から2,140件もの報道作品が寄せられ、「加茂B&Gレスリングクラブ」の活動を紹介した「テレビの部」を筆頭に「新聞の部」や「地域広報の部」など全部門で優秀賞に選ばれた、雲南市加茂B&G海洋センター(島根県)が大賞に輝きました。
常時、19社のメディアにプレスリリースを配信している同センター。学社協働で独自のキャリア教育を進める同市教育委員会の取り組みを含め、その積極的な活動の様子を拝見させていただきました。

プロフィール
● 雲南市加茂B&G海洋センター(島根県)

昭和62年(1987年)開設(体育館・上屋付きプール)。同市は平成16年に近隣6町村が合併して誕生。市内にはヤマタノオロチ伝説を生んだ斐伊川が流れ、遺跡や古墳も数多い。センターは、テニスコートや野球場、サッカー場などが整備されたスポーツの丘・ふれあいの丘に隣接。年間を通じてさまざまなスポーツが楽しめる環境が整っており、体育館で練習に励む「加茂B&Gレスリングクラブ」からは複数の全国チャンピオンが生まれている。

● 「雲南加茂B&G海洋センター新聞」制作スタッフ(現役・OB)

昭和62年の開設以来、同センターでは歴代の指導員が「B&G海洋センター新聞」を手作りで毎月発行し、広報活動を支えてきた。左から現制作担当の大谷麻美さん、制作担当OBで現センター所長の毛利智史さん、新聞の創刊に尽力した教育長の土江博昭さん、そして制作担当OBで現在、「加茂B&Gレスリングクラブ」の指導に励んでいる原 恵介さん。

画像

第3話広がれ! ラブレスリングの輪!

1年半の辛抱

取材当日、体育館を訪れると、大勢の子供たちが原さんの指導を受けていました。皆、真剣な目つきで原さんの動作を見つめています

 積極的な広報活動を展開している雲南市加茂B&G海洋センター。今年度のB&G広報大賞では、テレビや新聞などのメディア4部門すべてにおいて優秀賞に選ばれ、「加茂B&Gレスリングクラブ」の活動を紹介したテレビのニュース番組が大賞に輝きました。

 平成14年に海洋センターに赴任した原 恵介さんが、地域の子供たちを集めて指導に励むようになった同クラブ。原さんは中学校に入ってからレスリングを始め、大学時代まで選手として活躍。海洋センターで働くことが決まると、仕事の傍ら体育館で子供たちにレスリングを教えるようになりました。

 「就職する際、レスリングのことは頭にありませんでしたが、たまたま体育館にレスリング用のマットがあったので、クラブを立ち上げる意欲が湧きました。所長さんに聞いてみると、海洋センターが開設した昭和62年当時、地元中学校の先生がボランティアで子供たちにレスリングを教えるようになったものの、5~6年後にその先生が異動してから活動が途絶えてしまったとのことでした」

体育館の入り口には、伊調千春、馨姉妹選手が世界選手権大会で着用したユニフォームが飾られており、クラブの大きな励みになっています

 職場でマットを見つけた、その偶然に驚いた原さん。運命的な出合いを感じながら「加茂B&Gレスリングクラブ」を立ち上げましたが、しばらくの間は、なかなか子供たちが集まりませんでした。

 「活動が10年ぐらい途絶えていたので、ゼロからのスタートと同じ状態でした。最初は小学校でマット運動をしている子供たちに声を掛けてみましたが、『レスリングなんて、したことがないから分からない』といって興味を示さず、保護者からも『危なそうだから、子供にはさせられない』などと言われたものでした」

 それでも諦めずに、海洋センター新聞などを使ってレスリングクラブの告知に励んでいった原さん。その甲斐あって、クラブの看板を掲げて1年半後に、ようやく1人の小学3年生の男の子が、「してみたい!」といって原さんのもとにやってきてくれました。

気がつけば強豪クラブ

年上の子は年下の子の指導を行います。ちびっ子2人を見守っているのは全国大会を制覇した小野正之助君(小4)で、「試合で勝ったときはとてもうれしい。だから、いつかはオリンピックに出て勝ちたい」と語っていました

 1年半待って、やっと現れた待望のクラブメンバー。しかし、原さんと小学3年生の子では、あまりにも身長が違うので、体を組んで練習することが思うようにできませんでした。

 「仕方がないのでマット運動を指導していたら、そのうち彼が3人の仲間を連れてきてくれたので、体を組む練習ができるようになりました」

 しだいに練習が形になっていくと、原さんは4人の子供たちをクルマに乗せて各地の試合に遠征。すると、そんな活動の様子を見た多くの子供や保護者かから、「自分もしてみたい!」とか「ウチの子にもさせてあげたい!」といった声が上がるようになっていきました。

 「もともと子供が好きで子供の笑顔を見るのが楽しかったので、最初のうちはマットの上で自由に跳んだり跳ねたりしながら、体を動かす楽しさを体感させていきました。マットの上なら少しぐらい転んでも痛くありませんから、子供たちも遊ぶ感覚で知らずにレスリングに触れていきました」

 こうした子供たちの笑顔が、仲間を増やす大きな力になっていったに違いありません。現在は、3歳児から中学3年生まで男女26人のメンバーが週に3日の練習に励んでいます。

 「練習が好きな子ほど覚えも早いのですが、3日も空ければ覚えたことを半分ぐらい忘れてしまいます。ですから、なるべく日を空けないで練習を続けていくことが大切で、その積み重ねによって会得したものを試合で出せたら、本人も私も『ヤッター!』と叫びます」

 この喜びがあるから練習に励むことができると語る原さん。気がつけば、「加茂B&Gレスリングクラブ」は強豪クラブの一角に名を連ねるようになり、昨年の第30回全国少年少女レスリング選手権大会では、メンバーの小野正之助君(小学生の部24kg級)、小野こなみさん(小学生の部20kg級/正之助君の妹)、そして鳥目裕太君(小学生の部28kg級)の3人が優勝に輝きました。

心に秘めた夢

壁に貼られた皆の目標。「(相手を)崩してタックルを入れる」といった技の習得をめざす言葉もあれば、「金メダルを取りたい」といった夢を言葉で表す子もいます

 クラブの運営が軌道に乗っていくなかで、原さんはさらに「ラブレスリング」という仲間の輪を広げていく活動にも力を入れていきました。

 「これは全国のレスリング好きが集まって、皆で合宿をしながら技術を磨きあったり、情報を交換しあったりする活動です。ここの海洋センターでも何度かしたことがありますが、現在は岡山県の環太平洋大学の施設をお借りして年に2回ほど実施しています」

 合宿中には、元オリンピック選手やプロの格闘家などがボランティアで指導してくれるそうで、期間中には練習試合も行って勝負勘も養います。

 「多いときには200人ぐらい参加しますので、同じレベルの子同士で組んだり、自分より少し強い子に手合わせをお願いしたりしながら、たくさんの仲間と交流を深めます。普段は海洋センターで練習に励み、ラブレスリングの合宿で経験を積みながら、いろいろな大会でその成果を試す流れができました」

 こうした活動を通じて全国の仲間と切磋琢磨している、「加茂B&Gレスリングクラブ」の子供たち。取材当日、皆が練習に励む体育館を訪ねると、それぞれの子が自分で決めて書いた目標が壁にずらりと貼られていました。練習前と後に、各自が大きな声で自分の目標を自分に言い聞かせるそうです。

 「自分で目標を言って耳に入れることが、実行する力につながるそうなので、実践していますが、大会で結果が出せなかったとしても、そこまでがんばったことを褒めてあげるようにしています」

 目標に向かって練習に励む子供たちを、温かい目で見守り続けている原さん。いつかはクラブの誰かがオリンピックの晴れ舞台で活躍してほしいと、心の奥に大きな夢を描いているそうです。そんなうれしい日が来たら、「雲南市加茂B&G海洋センター新聞」は、どんな号外を出すのでしょうか。こちらも楽しみです。
※次号(最終話)は、学社協働のキャリア教育を進める雲南市の取り組みについて、同市教育委員会の土江博昭 教育長にお話を伺います。

画像

取材時に集まってくれたクラブの子供たち。年上の子が年下の子の面倒をみながら、現在、3歳児から中学3年生までが、ともにマットで汗を流しています