連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 95

すべての町の子に、たくましく生きてもらいたい


2013.12.25 UP

水辺の安全教室を中心にさまざまな体験学習に力を入れている、宮城県川崎町

杜の都、仙台市の南隣に位置し、山や川の豊かな自然に恵まれた宮城県川崎町。昭和60年に開設した海洋センターを拠点に、さまざまなスポーツや健康増進事業を進めてきました。4年前からは全小学校の体育授業に水辺の安全教室を採用し、すべての町内の小学校の子供たちが水辺の安全知識を学び、水と親しむことの楽しさを体験するようになりました。これは、「学力だけでなく、たくましく生きるための知恵を身につけることも大切である」と、各小学校の校長先生が考えたからでした。ほかにも、"運動笑楽校"という名の総合型地域スポーツクラブや学校支援ボランティア(学校応援団)による地域の協働教育に力を入れる川崎町。その取り組みの様子を関係者の皆さんからお聞きしました。

プロフィール
● 宮城県川崎町

仙台市から約20km南に位置し、人口は約9,600人(平成25年10月現在)。蔵王山麓域にあって名取川水系の河川が釜房湖に流れる、自然豊かな環境を有している。そのため、キャンプやカヌー、スキーといったアウトドアスポーツ、レジャーが盛んで、水辺の安全教室を中心とした子供たちへの野外体験教育にも熱心に取り組んでいる。

● 川崎町B&G海洋センター

昭和60年(1985年)開設。運動場や多目的コートが隣接し、町のスポーツ拠点として機能。各種大会や教室等、町内のほとんどのスポーツ行事に利用されているほか、4年前からは町内全小学校で水辺の安全教室を実施。指導者会は学校支援ボランティアとして子供たちのサマーキャンプや登山支援活動などに協力している。なお、平成23年には東日本大震災により施設に甚大な被害が生じたが、B&G財団助成事業で復旧工事を実施して現状に復帰した。

画像

第4話(最終話)地域に根付く「川崎魂」

 町内の全小学校に導入した「水辺の安全教室」や、総合型スポーツクラブ「運動笑楽校」などを通じて、積極的に海洋センターを運営している川崎町。こうした事業に寄せる期待を、小山修作 町長、ならびに佐藤芙貴子 教育長にお話しいただきました。

木材と人材は山から育つ
インタビュー:川崎町 小山修作 町長

画像

川崎町の小山修作 町長。「木材と人材は山から育つ」をモットーに、子供たちの自然体験学習に期待を寄せています

●山あり川あり湖ありと、川崎町は自然に恵まれています。子供の頃、町長はどのような遊びを体験されましたか。

 私が子供の頃は海洋センターのようなスポーツ施設はありませんでしたから、もっぱら山や川で遊んでいました。年上の子に年下の子がゾロゾロとついていって、野原や川原で遊ぶわけです。いま思えば、知らないうちに年上の子はリーダーになっていて、小さい子が危ない場所に行かないように見守っていてくれました。また、そうしたことから年下の子は年上の子の言うことをよく聞いていました。

●遊びのなかに理想的な年上、年下の関係ができて、野外で遊ぶ際の安全が守られていたのでしょうね。

 年下の子は年上の子がすることを見て育ちますから、一緒に遊ぶなかで安全知識も自然に伝わっていきました。しかし、時代とともに状況が変わり、異年齢同士の子供たちが集団になって近くの山や川に遊びに行くことが激減してしまいました。いまの子供たちを山や川に行かせてもリーダー役がいないのですから、B&G指導者のようにアウトドアを良く知る大人がついていてあげることが必要です。

●その点、川崎町では学校支援ボランティア「かわさきっ子応援団」に登録したB&G指導者会が子供たちの登山体験などを支えているほか、全小学校に「水辺の安全教室」を導入して子供たちに直接、水辺の安全知識を教えています。こうした取り組みを通じて、子供たちにどのようなことを学んでもらいたいですか。

 私の父は、「木材と人材は山から育つ」が口癖でした。昔の人は、山で木を切って炭を作って収入に充てていましたし、山に行って自然と向き合うことで、たくましく生きるための力や知恵を得ることができました。いまは山に行く機会が減ってしまいましたから、「水辺の安全教室」や登山などの活動体験は、「人材は山で育つ」部分として必要不可欠であると考えています。また、そのような事業が私たちの町でできるのも、海洋センターやB&G指導者会があるおかげですから、とても感謝しています。

●こうした子供たちの体験活動に関して、保護者からどのような声があがっていますか。

 私たちの町には山や川があって自然環境が整っていますから、そこで子供たちが身心を鍛えることを多くの保護者の方々が望んでいます。昔、地域の山は木材や炭などの物質的な恵みを与えてくれる存在でしたが、いまは人の心や体を育む豊かな環境を与えてくれる存在でもあります。そのことを、地域の人たちも肌で感じているのだと思います。

●地域の自然のなかでさまざまな体験を積んだ子供たちに、どのような大人になってもらいたいですか。

 メキシコで空手の道場をしている叔父は、「日本は学歴重視だが、世界に出たら関係ない。まずは、裸一貫でどれだけ自分をアピールできるかが大切だ」とよく口にしています。つまり、何をするにもたくましく生きる力が必要なのだということです。さまざまな体験活動を行った「かわさっき子」たちには、故郷への思いを大切にしながら、どんどん外の世界にも羽ばたいていってもらいたいと思います。

 ― いろいろなお話、ありがとうございました。

画像

「水辺の安全教室」で川の生態観察に励む子供たち。こうした活動を通じて故郷の自然を大切に思う心が育ちます

画像

美しい自然に囲まれた川崎町。町内の釜房湖からは雄大な蔵王連峰を望むことができます

生きるための力を育みたい
インタビュー:川崎町 佐藤芙貴子 教育長

画像

川崎町の佐藤芙貴子 教育長。「水辺の安全教室」に大きな理解を示してくださいました

画像

「水辺の安全教室」でライフジャケットを着用する子供たち。経験することで身に付く知恵がたくさんあります

●町内の全小学校に「水辺の安全教室」を導入するにあたっては、教育長の理解が大きかったと伺っています。どのような点に賛同していただけたのでしょうか。

 昔と違い、最近の子供たちはあまり川で遊びません。ということは、安全に対する知識も乏しいということですから、何かあったときのことを考えれば「水辺の安全教室」は必要であると思います。幸いにも川崎町には海洋センターがあり、担当者が熱心だったことから導入することができました。

●各小学校の校長先生にレポートを見ていただいて導入を決めたそうですが、難色を示す校長先生はいなかったのでしょうか。

 担当者がA4一枚の短いレポートにまとめていたので、校長先生の方々には手渡したその場ですぐに目を通していただいて、賛同を得ることができました。A4一枚とはいえ、プログラムが分かりやすく説明されており、文章を通じて担当者の熱意が感じられる内容でした。学校の先生は万能ではありませんから、学校だけで「水辺の安全教室」はできません。しかし、この教室はB&Gの指導者が引き受けてくれますから、学校側としては安心して導入することができました。

●「水辺の安全教室」は導入されて4年経ちましたが、先生や保護者の反響はいかがでしょうか。

 B&Gの指導者が行う教室を手伝いながら、学校の先生方もいろいろな安全知識を身につけていくことができました。ですから年々評価が高まり、現在ではプールの利用について話し合う時期が来ると、まっさきに「水辺の安全教室」のスケジュール調整が行われるようになりました。
また、子供たちが教室の様子を家に帰って話しますから、「ペットボトル浮きなどは、いままで知らなかった知恵で、こうしたことを教えてもらってありがたい」といった声を保護者の方々から聞くようになりました。

画像

川崎町生涯学習ガイドの裏表紙に紹介された「「"川崎魂"を育む、かわさき自分づくり教育」の概要。地域や家庭、学校、行政が協働して子供たちを育てることが謳われています

●「水辺の安全教室」のほかにも、海洋センターはいろいろな事業に利用されています。生涯学習の観点から、海洋センターにはどのような役割を期待していますか。

 海洋センターは、幼児から高齢者まであらゆる層の住民の方々に親しまれていますが、その理由は施設のハード面もさることながら、「低学年のドッジボール大会には柔らかいボールにしてほしい」といった保護者の声をすぐに反映するなど、ソフトの面でもスタッフが細かい配慮をしてくれるからだと思います。この柔軟な対応力で、町のスポーツ、健康づくりの拠点として機能し続けてほしいと思います。

●海洋センターに事務局を置く「運動笑楽校」では、B&G財団が開発した「アクアリズム」や「フロアリズム」をはじめ、幼児や小学生を対象にしたプログラムに力を入れています。町の子供たちにはどのような大人に育っていってもらいたいですか。

 私たちの町では、知・徳・体・食を中心に、地域や家庭、学校、行政が協働して子供たちに学ぶことや働くことの意義を伝える、「"川崎魂"を育む、かわさき自分づくり教育」を推進しています。"川崎魂"とは、「生まれ育った川崎を愛し大切に思う心」「最後まであきらめずにがんばる力」を意味しており、町の子供たちには、こうした心と力を備えた人間になってもらいたいと願っています。B&G財団の理念と一致するところがあると思いますので、その意味でも海洋センターは町にとって必要不可欠な存在です。教育といえば、とにかく学力といわれがちですが、生きるための力を育むことも大切だと思っています。

 ― いろいろなお話、ありがとうございました。