連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 95

すべての町の子に、たくましく生きてもらいたい


2013.12.04 UP

水辺の安全教室を中心にさまざまな体験学習に力を入れている、宮城県川崎町

杜の都、仙台市の南隣に位置し、山や川の豊かな自然に恵まれた宮城県川崎町。昭和60年に開設した海洋センターを拠点に、さまざまなスポーツや健康増進事業を進めてきました。4年前からは全小学校の体育授業に水辺の安全教室を採用し、すべての町内の小学校の子供たちが水辺の安全知識を学び、水と親しむことの楽しさを体験するようになりました。これは、「学力だけでなく、たくましく生きるための知恵を身につけることも大切である」と、各小学校の校長先生が考えたからでした。ほかにも、"運動笑楽校"という名の総合型地域スポーツクラブや学校支援ボランティア(学校応援団)による地域の協働教育に力を入れる川崎町。その取り組みの様子を関係者の皆さんからお聞きしました。

プロフィール
● 宮城県川崎町

仙台市から約20km南に位置し、人口は約9,600人(平成25年10月現在)。蔵王山麓域にあって名取川水系の河川が釜房湖に流れる、自然豊かな環境を有している。そのため、キャンプやカヌー、スキーといったアウトドアスポーツ、レジャーが盛んで、水辺の安全教室を中心とした子供たちへの野外体験教育にも熱心に取り組んでいる。

● 川崎町B&G海洋センター

昭和60年(1985年)開設。運動場や多目的コートが隣接し、町のスポーツ拠点として機能。各種大会や教室等、町内のほとんどのスポーツ行事に利用されているほか、4年前からは町内全小学校で水辺の安全教室を実施。指導者会は学校支援ボランティアとして子供たちのサマーキャンプや登山支援活動などに協力している。なお、平成23年には東日本大震災により施設に甚大な被害が生じたが、B&G財団助成事業で復旧工事を実施して現状に復帰した。

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第1話自然豊かな町に求められた授業

町内水泳大会で決まった大きな一歩

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町内水泳大会の様子。4年前、出場する各学校の生徒の応援に駆けつけた校長先生方の話し合いによって、町内すべての小学校で水辺の安全教室を行うことが決まりました

 平成10年から11年にかけて川崎町B&G海洋センターに勤務し、現在は教育委員会の生涯学習課に勤めている冨田丈靖さん。いまから4年前には、佐藤芙貴子教育長から子供たちを水の事故から守る方策を求められました。

 「近隣の町で水難事故が起きたことをきっかけに、教育長から子供たちを水の事故から守る良い方策はないかと相談されました。そこで、ちょうどB&G財団から水辺の安全教室の資料が届いていたので内容を説明したところ、とても理解していただけました」

 冨田さんの説明で水辺の安全教室の趣旨に賛同した教育長。さっそく、町内水泳大会の応援に集まった各小学校の校長先生に、話題として取り上げることを提案してくれました。

 また、その一方で、教育長は水辺の安全教室の内容を分かりやすくA4一枚にまとめるように冨田さんに指示。冨田さんは、水泳大会が終わるまでにレポートをまとめて各校長先生に見てもらいました。

 結果、すべての校長先生がレポートの内容に賛同。その場で、町内全小学校(4校+町立幼稚園1カ所)に水辺の安全教室が導入されることが決まりました。

 「事前にB&G財団から資料を頂戴していたので助かりました。教育長や校長先生の方々が、ペットボトルやライフジャケットを使った実践的なメニューに強い関心を寄せてくださったことが、全小学校導入の大きな力になりました」

時限と時間のずれ

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水辺の安全教室の導入にあたって尽力した、教育委員会生涯学習課の冨田丈靖さん(左)。そして、現在、海洋センターで業務責任者を務めている丹野浩伸さん

 校長先生方の賛同を得て、さっそく始まった水辺の安全教室。海洋センター職員の丹野浩伸さんや大宮啓祐さんが中心になって子供たちの指導にあたりましたが、初年度には思わぬ苦労が待っていました。

 「水辺の安全教室には、紙芝居や着衣泳、ペットボトルやライフジャケット体験など豊富なメニューがあります。しかし、初年度は1コマの授業で終わる学校もあり、そうなるとできないメニューが出たり、すべてのメニューが予定通りに進めることができなかったりするケースが生じてしまいました」

 丹野さんたちスタッフは、1コマの授業を1時間と解釈しましたが、学校側は1コマ=1時限(45分)と考えていました。そこに15分のギャップが生じてしまったことも想定外の問題でした。

 「こうしたことから、前の授業の休み時間からプールに集まってもらい、水辺の安全教室を終えた後の休憩時間も利用させてもらうなどして何とか時間を確保するほか、2コマ=2時限(90分)のメニューも考え、『この時間配分なら、これだけのことができます』と説明しながら2コマの授業も増やしていきました」

 水辺の安全教室を実施するにあたっては、全校生徒を対象にする学校もあれば、5、6年生の高学年だけを対象にする学校もあるので、それぞれの学校に応じて授業の展開を工夫していく必要があります。丹野さんたちスタッフは、学校ごとにメニューを考えながら授業を定着させ、いまではどの学校でも「夏になれば、水辺の安全教室がやって来る」と児童生徒や先生が語り合うまでになりました。

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4年前から小学校の授業に導入された水辺の安全教室。着たことのないライフジャケットも、皆で一緒に活動しているうちに慣れてしまいます

 「服を着たまま泳ぐ経験やペットボトルを使って浮く経験などは普段できませんから、子供たちに加えて先生方や保護者などからも『経験させて良かった』という反響をいただきました。

 ライフジャケットにしても、『浮くから大丈夫だ』と説明しても、不安に感じてしまう子も少なくありません。しかし、仲間が浮かぶ姿を見て自分でもするようになるので、教える側としても体験することの大切さをつくづく感じます。こうした経験は、万が一のとき必ず役立ちますから、先生方の間にも理解が深まっていきました」

環境学習の要素も導入

 初年度には苦労したものの、次年度以降は学校側の協力を得ながら順調に水辺の安全教室を展開していった海洋センター。ところが、順調な推移のなかで生じる問題もありました。

 「水辺の安全教室は、海洋センターの水泳教室やマリンスポーツイベントなどでも実施していますので、同じメニューを繰り返し経験する子も少なくありません。ライフジャケット浮遊体験などプールに入って行うメニューは、内容が同じでも体を動かすので飽きませんが、紙芝居に関しては、『また、同じ話か…』などと言って、飽きてしまう子が出てくるようになっていきました」

 そこで、丹野さんたちは地元の川に生息する魚の話などを紙芝居のなかに織り交ぜて紙芝居に変化をつけるようにしていきました。

 「知らないうちに、紙芝居が環境学習やインタープリテーション的な内容になっていきました。水の事故は野外で起きるものなのですから、身を守る安全知識とともに野外そのものの知識も大切です」

 町内の全小学校に水辺の安全教室を導入し、定着させた川崎町。こうした教室のノウハウは、海洋センターのさまざまな事業に活用されていきました。(※続きます)

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水辺の安全教室の内容は学校ごとに工夫する必要があります。時間に余裕があれば、カヌー体験も組み入れます

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最初は興味津々の紙芝居も、毎年同じ内容では飽きられてしまいます。そのため、水辺の安全知識に加えて環境学習的な要素も取り入れていくようになりました