連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 88

体と頭を楽しく動かせば、たくさんの元気が沸いてくる

2013.05.22 UP

レクリエーションゲームの普及・指導に励む、東 正樹さん

37年間にわたって実施してきたB&G財団の体験クルーズ事業。その多くの航海に参加して、船上や寄港地で参加メンバーに楽しいレクリエーションゲームを提供してくれたのが、現在、(公財)日本レクリエーション協会専門委員を務めている東 正樹さんでした。
「レクリエーションゲームが人を元気づけ、元気が生きる力を育みます」と語る東さん。今年3月のラストクルーズに講師として乗船していただいた際に、これまでの振り返りを含めていろいろな話題をお聞きすることができました。

プロフィール
●東 正樹 (あずま まさき)さん

昭和25年(1950年)生まれ、三重県出身。大学で社会学や体育学を専攻しながら、ボランティア活動を通じてキャンプやレクリエーションゲームのノウハウを習得。卒業後は、東京都レクリエーション協会連盟(現:協会)の講師として、企業や学校などでレクリエーションゲームを指導するほか、B&G体験クルーズや指導者養成研修の講師としても活躍。TBSラジオ「全国こども電話相談室」の回答者や日本オリンピック委員会強化スタッフを務めるなど、幅広い活動を展開し続けている。
著書:「いちばんやさしいレクリエーションゲーム全集」(成美堂出版)ほか多数。

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第3話仲間の絆で社会が変わる

知らない人同士をつなぎたい

 レクリエーションゲームを教えていると、知らない間に子どもたちの人気者になってしまう東さん。今年のB&G「体験クルーズ」小笠原でも、デッキランチのときなどに東さんを囲む子どもたちの輪ができました。

 「船のなかで、よく子どもたちが私を囲んでくれますが、実は私を話のタネにしながら子ども同士の会話が弾んでいます。つまり、私のようなレクリエーション指導者は、知らない人たち同士の心をつなぐ仕事をしているのです」

 知らない人同士が会話をするには共通の話題が必要です。「ねえねえ、レクリエーションの東さんって、おもしろいね」、「本当だね!」。そんな短い会話でもお互いに声を掛け合うことで、自然に心が通っていくと東さんは指摘します。

 「単純な会話でも言葉を交わすことができたらしめたもので、そこから話題が広がって仲良くなっていきます。ですから、私はレクリエーション以外の時間でも、いろいろな子に声をかけて話題づくりのお手伝いをしています。

 レクリエーションゲームを楽しんだ子どもたちに、後で声を掛けてあげると皆、喜びます。そして、『さっき、東さんが私におもしろい話をしたよ』、『えー、どんな話!?』などといったやりとりをしながら仲間同士の輪が広がります」

 船の上では、知らない人同士のコミュニケーションが深まりやすいと語る東さん。逃げ場のない空間で生活を共にすることで、誰もが同じ釜の飯を食べる運命共同体であることを無意識のうちに感じ取るからだそうです。

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B&G「体験クルーズ」小笠原のデッキランチで子どもたちに囲まれる東さん。食事を楽しみながら、さまざまな質問が飛び交います

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ゲームの表彰を行う東さん。真面目な顔をしておかしなことを言うので、子どもたちの表情が和らぎます

レクリエーションの力

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コンピューター時代の現代っ子でも、東さんの手にかかればジャンケンを勝ち抜くシンプルなゲームでも夢中になって遊びます。いまも昔も子どもの本質は変わっていないと東さんは指摘します


 「元気が生きる力につながり、生きる力が仲間を生んで絆をつくる」。これが東さんのレクリエーション哲学です。

 「生きる力は1つの知恵であり、レクリエーションによってその知恵が育まれれば、仲間の絆、すなわち人と人のコミュニケーションが発展していきます。そのため、私は最近、レクリエーションとは言わずに、コミュニケーション能力を高める活動などと言う場合があります。

 また、コミュニケーションという言葉を使うことで、イベントの予算もつきやすくなるものです。というのも、現代社会においては人々のコミュニケーション能力の欠如が問われているからです。

 そして、実際にさまざまなレクリエーションを通じて参加した人たちのコミュニケーション能力が高まります。仲間ができて絆を感じることができれば、社会がより良い方向に変わっていくのではないでしょうか。私は、そこに大きな期待を寄せています。

 ですから、私のように社会教育、体育教育に携わる者としては、子どもたちの輪を育むB&G財団の事業を心強く感じています」

大切にしたい経験の積み重ね

 テクノロジーが進化する時代にあって、東さんのようなレクリエーション指導者が教えてくれるゲームは、昔ながらの手法を踏襲した、いたってシンプルな内容です。

 「時代が移り変わっても、子どもの本質は変わりません。シンプルなゲームでも、現代っ子たちは夢中になって遊びます。ただ、時代が変化するスピードが速くなっていることが気になります。本質的な部分は変わらないにしても、子どもも大人も時代のスピードに自分たちを合わせようとして、経験の積み重ねが浅くなりがちだからです」

 かつての親は、我が子がハイハイしているうちは手押し車を与えて歩行に向けた経験を積ませたものでしたが、最近は電池で動く機関車や自動車を買い与える親が多くなりました。その分だけ、子どもが自分の体を動かさなくなっていると、東さんは指摘します。

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年齢も出身地も異なる子ども同士が同じ部屋で寝起きするB&G「体験クルーズ」。船旅でさまざまな体験を重ねながら日ごとに成長していきます

 「ハイハイの子は、手押し車で遊ぶことで足腰が鍛えられ、しだいに立って歩くコツを覚えていきます。しかし、そんな経験の積み重ねが減ってしまうと、転びやすい歩き方が身についてしまったり、無用心に歩いてケガを負ったりしがちです。

 歩行は一例であって、経験値が浅いままにいろいろなことを身につけていくと、さまざまな面で自信が得られにくくなってしまいます」

 子どもの心身は、時間をかけて丁寧に育てていきたいと語る東さん。見聞きした知識を実感に変える時間がとても大切なのだそうです。(※最終回に続きます)