連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 68

住民の知恵を集めて進める豊かなまちづくり

No.68 『住民の知恵を集めて進める豊かなまちづくり』地域の自主判断で数々の事業を展開する、岡山県鏡野町の取り組み 山崎親男 町長
鏡野町B&G海洋センター(岡山県)

地域の自主判断で数々の事業を展開する、 岡山県鏡野町の取り組み
山崎親男 町長

プロフィール
山崎親男 町長:
昭和28年(1953)生まれ、岡山県旧鏡野町出身。事業家から町会議員に転進。副議長を経て、2005年に町村合併によって誕生した新生鏡野町の初代町長に就任し、現在に至る。
鏡野町B&G海洋センター(岡山県)
平成4年(2002年)開設。平成7年に町の予算でプールの温水化を実施したほか、今年6月には海洋センター修繕助成を受けて大幅改修を終了。海洋センターは町の健康づくり拠点に位置づけられており、周辺には各種スポーツ施設が整備されている。

緑濃い山あいに吉井川の源流が下る、自然豊かな岡山県鏡野町。林業や農業に励みながら、海洋センターを拠点に健康なまちづくりをめざし、高齢化が進むなかでも健全経営によって町立病院は黒字を維持。昨年からは、住民の自主判断によってさまざまな事業を展開する「未来希望基金」を設立して地域の活性化を推進しています。 そんな魅力あふれる町政を担う山崎親男町長に、ふるさと鏡野町に託す夢をお話いただきました。

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第3話未来希望基金の誕生

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地域主催の運動会に参加する山崎町長(中央)。このような行事に「未来希望基金」を活用するところも少なくありません

次世代へのプレゼント

 地域の人たちに推されて、事業家から町会議員に転身した山崎町長。それから十数年後の2005年に、ふたたび大きな転換期が訪れました。旧鏡野町をはじめとする周辺町村が合併して、現在の鏡野町が誕生。その初代の町長を担うことになったのです。

 議員時代には多くの住民の要望を受け、利用者が健康になれば採算が取れると考えて海洋センター・プールの温水化を進めた山崎町長。新たに生まれ変わった鏡野町でも、地域の声に耳を傾け、地域の特色を活かした町づくりをめざしていきたいと考えました。

 そのような思いが具体化された代表例が、昨年から導入された「未来希望基金」です。これは、町内12地区それぞれが独自に考えた事業を、町の予算で設けた基金によって行う仕組みです。地域の要望を受けて町が事業を考えるのではなく、地域に振り分けられる予算を使って住民が直接案を考えて事業を行う点が大きな特徴です。

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ピアニストを育成するサマーキャンプの開催にあたり、地域の文化センターで挨拶に立つ山崎町長。鏡野町ではスポーツ、文化、両面において、さまざまなイベント活動を展開しています

 「使うことのできる予算は住民の数によって決まるので、各地区によって事業内容が異なりますが、それぞれにユニークなアイデアがどんどん出てきて驚きました。街灯をLEDに交換した地区があると思えば、村の運動会の予算に充てたところもあるし、産直野菜の販売所をつくった地区もありました。

 いずれにしても、このようなお金の使い方は地域それぞれが主役になって考えるからできるものであって、けっして行政主導でできるものではありません。どの地区の事業も成功しており、地域で暮らす次世代の子どもたちへのプレゼントになると思います」

役場ができなかった事業も実現

 「未来希望基金」の構想は、かつて山崎町長が公民館の運営委員をしていたときに考えついたものでした。

 「公民館は地区ごとにあるのだから、地区によってニーズが違って当然です。そのため、どの地区の公民館も同じメニューの運営をしていたら行き詰ってしまいます。運営委員をしながらこのようなことに気づき、公民館は住民の数や年齢層の違いなど地区ごとの特性を考慮しながら身の丈に合った予算を組んで運営することが望ましいと思いました」

 公民館は地区のニーズに合わせた使い方をすべきで、通り一遍等の運営は避けたほうが良いと考えた山崎町長。その発想を広げると、町の予算も一部でいいから地域ごとのニーズに合わせるべきだという考えに向います。

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無駄のない経営で黒字を守り続けている鏡野町国民健康保険病院。「未来希望基金」を使って、病院内に買い物バスの停留所もできました

 「未来希望基金の予算は地区の人口に合わせて分配され、多いところでは年間1000万円ほどの金額になります。初年度の昨年は、町の企画課の職員が地区ごとに出される提案の相談に奔走して苦労しましたが、今年はだいぶ落ち着いて対応できるようになりました」

 ある地区では、基金で買い物バスの運行を開始。評判が高まって町立病院のなかにも停留所ができて、通院する人に重宝されるようになりました。

 「このような事業は、そもそも町がすべきところなのですが、町より先に住民の皆さんのアイデアによって生まれたところに地域活性化のヒントがあると思います。現在、基金の総額は年間約1億円ですが、このような事業が自主的に展開されるのであれば、将来的にはその倍あってもいいと思います」

 行政がしてもおかしくない事業を、基金を通じて住民が率先して行う例が出てきた鏡野町。ある日、山崎町長が登庁して窓を開けて驚いたこともありました。

 「いつも窓を開けては野草が伸びた川原を気にしていたのですが、地域の人たちが基金を使ってきれいに清掃してくれたのです。私だけでなく、誰もが荒れた川原を気にしていたというわけですが、そんな問題も地域ですみやかに解決してくれるようになりました」

 町の予算に対して、住民の意識が陳情型から提案型に変わってきたと指摘する山崎町長。海洋センターをはじめとする各スポーツ施設の運用に関しても、しだいに地域の人たちの力が活用されるようになっていきました。(※最終回に続きます)

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いたるところに美しい自然が残る鏡野町。
川原の草取りなどに住民が率先して励んでいます

写真提供:鏡野町