事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

第8弾 不登校の子どもに安心できる場所を。
南あわじ市拠点「島のゆくりば」

2024.03.21 UP

日本財団助成事業

兵庫県の最南端に位置する、南あわじ市。このまちの子ども第三の居場所「島のゆくりば」拠点は、2023年の7月に開所。不登校や何らかの理由で学校に行きづらい子どもを対象にしている拠点だ。子どもにとって安心できる“居心地のいい場所”となることを第一に、さまざまな取り組みを行っている。子どもたちが利用することになったきっかけや、関わり方で気をつけていることなど、「島のゆくりば」マネージャーである合田尚美さんに話を聞いた。

アウトドア活動の魚釣り

アウトドア活動の魚釣り

拠点を知った主なきっかけは「学校からのおすすめ」

廃校を活用し子ども第三の居場所「島のゆくりば」を実施

廃校を活用し子ども第三の居場所「島のゆくりば」を実施

合田さん:
現在、小学校1年から中学校3年生までの合計33名が登録しています。一番多いのが中学1年生で、男女合わせて6名。毎月少しずつ利用者が増えてきています。登録するには、まず臨床心理士による保護者の面接を行い、「どういう経緯で学校に行けなくなってしまったのか」、「どういったことに困っているのか」などをヒアリングします。そして何より、本人が通いたいと思ったら利用がスタート。平日の運営時間が10時から17時30分となっていて、各々が好きな時間に利用することができます。

合田さん:
「島のゆくりば」を知ったきっかけとして、ホームページで見つけた方や利用者からの紹介などがありますが、主に学校の先生からすすめられたという子が多いです。この拠点は、南あわじ市の教育委員会から委託を受けているので、教育委員会から学校へ働きかけていただいたということもあります。それに加えて、私たちも各学校をまわり、どんな施設なのかという説明をしました。

「島のゆくりば」マネージャーの合田尚美さん(左)と連携して事業を行っている南あわじ市職員の瓶井さん(右)

「島のゆくりば」マネージャーの合田尚美さん(左)と連携して事業を行っている南あわじ市職員の瓶井さん(右)

専門家がいることで、親御さんの心にも変化が

臨床心理士や公認心理師、理学療法士など、専門家がいるのも「島のゆくりば」の特徴である。合田さん自身も、約30年特別支援教育に携わってきた元教員だ。専門家がすぐそばにいるというメリットは、子どもだけでなく親にとっても大きい。かなり心強い存在になっているようだ。

合田さん:
最初に、臨床心理士と親御さんの面談をします。その際、専門家からのアドバイスを受けられるというのはとても大事なことです。子ども本人も大変ですが、そこに寄り添う親御さんもずっと悩み、つらい思いをしています。臨床心理士という専門家に話すことによって、少し気持ちが楽になることもあるようです。お母さんが月に2回のペースで相談に来るといったケースもあります。また、月1回開催している「不登校親の会」(淡路島内3市対象)では、「ここなら安心して本当の気持ちが言える」とおっしゃっている方もいました。

学校に行けなくなる理由はそれぞれ違う

子どもによって学校へ行けなくなる理由はさまざま。嫌なことが重なってしまったり、大勢の人がいるガヤガヤした場所が苦手だったり、親友にもなり得るはずの同世代の同性が怖く感じてしまったり……。当初は話してくれなかった原因を、後からポツリポツリと語り始めることもあるという。施設を利用することによって起きた子ども変化や、向き合い方として気をつけていることを聞いてみた。

合田さん:
最初来たときに、表情がないというか……全く笑わないし、しゃべっても一言か二言というお子さんがいました。2回目に来た時に、その子のある才能に気づき、「上手ね、素敵ね」と褒めたことがあります。意図して褒めたわけではなく、本当に素敵だったので思わず出た言葉でした。そこから少しずつ心を開いてくれるようになり、最近は笑顔を見せてくれることも増えました。また、施設で母親と一緒に楽しい経験をし、それを父親に話したことで父親の考え方が変わり、それを感じた子どもも変わっていくきっかけになって、良い方向に進み学校に戻ったという事例もあります。

最終目標は学校に戻ることではなく社会的な自立

合田さん:
ただ、ここに来るまでにたくさんつらい気持ちを抱えてきたお子さんが多いので、大きな変化はそんな簡単には起きません。やっとスタッフと会話をしてくれるようになったとか、小さな変化の積み重ねですね。おしゃべりが好きな子とはたくさん会話を楽しみ、あまりしゃべりたくないのかなと感じる子には、むやみに話しかけたりはしません。その子に合った微妙な距離感を保ちながら、常に見守っています。そして、子どものいいところや素敵な部分を見つけたら、素直に褒めるようにしています。

ちなみに、「島のゆくりば」では、学校に戻ることを目標にしている訳ではありません。もちろん各々目標は違うと思いますが、我々の最終目標としては、社会的な自立を目指しています。

スタッフと子どもを同じ目線で繋ぐ5つの方針

「島のゆくりば」では、5つの方針を掲げている。内容はスタッフとしての心得でもあるが、そこには年齢による上下の関係もなく、人間として対等であるという気持ちが表れている。

島のゆくりば 5つの方針

  • 1.「子ども自身がフリースペースの活動の主人公である。」という思いを全スタッフが共有する
  • 2.子どもとスタッフが共に“学び合う”という認識を、全スタッフが共有する
  • 3.プログラムは、一人一人について子どもとスタッフが話し合って決める
  • 4.社会的“自立”とは、「一人で目的を達成できないときに、上手に人に助けを求められるようになること」と定義する。人に迷惑をかけることも人に迷惑をかけられることも「当たり前のこと」という認識をスタッフが持つ
  • 5.先生・生徒・教室など、学校を連想させる言葉を使わない。また、男女の区別をするような呼び方もしない

合田さん:
どうしても、「一人で頑張らなくちゃ」と思い、長い間心をすり減らしている子が多い中、困っているときは誰かに助けてもらえばそれでいいと伝えることで、ずいぶん心が楽になると思うんです。この拠点がその子にとって安心できる場所であることが一番大事だと思います。

そして、子どもはこういう施設で大人のことを「先生」と呼んでしまいがちですが、ここに「先生」は存在しません。そういう場所であるからこそ、お互いが呼んでほしい名前を自ら伝えます。例えば、私は下の名前が尚美なので、なおちゃんと呼んでもらっています。

たくさんのコンテンツを準備し、学びを応援する

“学ぶことの楽しさ”に対しても工夫を凝らしている。子どもがやってみたいことを申し出た場合は、スタッフと相談してお互いが合意した上で個人指導となる。そのほか、すでに用意されたカリキュラムは「コンテンツ」と呼び、もちろん参加は自由。内容はかなり充実している印象だ。

科学の時間

科学の時間

  • 絵画の時間の子どもたちの作品(1)

    絵画の時間の子どもたちの作品(1)

  • 絵画の時間の子どもたちの作品(2)

    絵画の時間の子どもたちの作品(2)

合田さん:
科学、絵画、パソコン、音楽など、月に1~2回、曜日ごとに分かれています。月に1回はアウトドア活動も行い、魚釣りやモルック(フィンランド発祥のボウリングに似たゲーム)などをやっています。最近、南あわじ市の体育館を借りて、バドミントンや卓球をする運動の時間も新しくできました。細かな内容は、それぞれの担当スタッフが企画しています。

クッキー作り

クッキー作り

合田さん:
例えば、科学ではフィルムケースロケットを飛ばす実験をしたり、絵画では色の構成を学んだり。パソコンではマインクラフト、音楽療法士による音楽活動など、そのときによって内容は異なります。特に好評なのは、土曜日に月1回ある親子ふれあい食事会。生チョコや餅つき、ピザやバーベキューなど、自分たちで作って食べます。この日は兄妹も呼んで、みんなで楽しんでいます。

これから「島のゆくりば」が求めること

合田さん:
現在、「島のゆくりば」は、スタッフが8名おります。常駐しているのは2人で、その時の必要に応じて応援を頼んでいます。年齢は30代から70代までおりますが、若い力が必要だなと感じています。というのも、ほかの拠点で大学生ボランティアが活躍していると聞いており、子どもたちと年齢が近い分、一緒に何かしてくれると楽しいのではないかなと思っています。ただ、この拠点の特性上、不登校の子どもに対してある程度の知識や理解が必要になるので、なかなか一般募集という訳にはいかず……。でも、若い子の対応力や応用力は素晴らしいので、ぜひ来てくれることを願います。いずれ、ここを利用していた子どもが成長して、スタッフとして来てくれるなんて未来があったらうれしいですよね。

「わかってくれる人がいること」は、とても大切なこと

不登校の子どもが対象である「島のゆくりば」だが、実は学校に通えていても、つらい思いを抱えている子どもたちの居場所にもなっている。

合田さん:
その子たちは、放課後や土曜日に利用しています。「静かなところで宿題をしたい」という子もいれば、コンテンツの音楽活動の中で発散する子、大好きなパソコンをするためなど、理由はそれぞれ。逆に、「楽しいことを見つけたい」と来ている子もいます。ここ「島のゆくりば」でエネルギーをしっかり溜めて、明日も頑張ろうという気持ちになってもらえるようにと、心がけて接しています。

「島のゆくりば」という名前の由来は、“ゆっくりできる場所”、“ゆっくり成長できる場所”という意味が込められていて、我々の気持ちは、ここにすべてが詰まっています。子どもたちにとって、安心できる場所であり続けたいと思っています。

まとめ

子どもにとって、子ども第三の居場所「島のゆくりば」拠点のスタッフたちは、仲間のようであり、頼りになる大人でもあり、お互いに成長しあっていこうと前に進んでいるように思えた。“通う”という大きな一歩を踏み出した子どもたちには、明るい未来が待っているに違いない。

「子ども第三の居場所」のお問い合わせはB&G財団 子ども支援課(TEL:03-6402-5311 mail:kodomo@bgf.or.jp)までご連絡ください。

家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」。全国207か所(2024年2月末現在)に設置され、全国への更なる開設を目指す。

B&G財団は、引き続き子ども第三の居場所の設置自治体を募集しています。ぜひ、お気軽にB&G財団 地方創生部 子ども支援課(TEL:03-6402-5311 mail:kodomo@bgf.or.jpまでお問合せください。ご応募をお待ちしております。

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