事業内容を知る 「子ども第三の居場所」

第5弾 山形村教育長に聞く「子ども第三の居場所」の役割と学生ボランティアとの連携
2024.01.26 UP

日本財団助成事業

左からB&G財団 地方創生部子ども支援課 牧岡咲良、山形村教育委員会 教育長 根橋範男さん

左からB&G財団 地方創生部子ども支援課 牧岡咲良、山形村教育委員会 教育長 根橋範男さん

長野県山形村の「子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)」は、2023年4月から村内農業者トレーニングセンターの空き部屋を利用して運営している。
山形村は、2020年に隣接している松本市にある松本大学と包括連携協定を締結。その繋がりから拠点での学生ボランティアの受け入れを行っている。連携協定締結の経緯や学生ボランティア活用の効果、今後の展望などについて、山形村教育委員会の根橋範男教育長にお話を聞いた。

松本大学との連携、実現までの背景

山形村教育委員会 教育長 根橋範男さん

牧岡:
子ども第三の居場所での学生ボランティア活用についてお話を伺います。今は何人くらいの学生さんが関わってくれているんですか?

根橋教育長:
松本市にある松本大学の学生が9人、支援員として関わってくれています。宿題で分からないところを一緒にやってくれたり、カードゲームなどの遊びに付き合ったりと、子どもたちに合わせて活動してくれています。

牧岡:
たくさんの学生さんが関わってくれているんですね!
ちなみに今回の松本大学の学生さんと連携は、山形村と松本大学での包括連携協定と関わりがあるとお聞きしました。松本大学との連携協定の締結から現在の連携に至った背景を教えてください。

根橋教育長:
山形村村長が松本大学と協定を結びたいと言い始めたのが2020年10月です。松本大学は地域に密着した大学という考え方で運営されていたので、地域の課題に関わって解決するお手伝いをしてほしいと考えたのです。村長が大学と話をしている中で、包括連携協定を結びましょうということになり、2020年12月に協定締結となりました。

牧岡:
山形村の地域の課題解決に関わってほしいという考えと、松本大学の地域に密着して貢献したいという思いが一致して始まったんですね。その協定締結から子ども第三の居場所にボランティアの学生に来てもらうことになったのは、どのような経緯ですか?

根橋教育長:
協定締結当時はまだ子ども第三の居場所がありませんでしたので、「山形っ子タイム」という活動で学生に関わってもらったのが始まりでした。小学校で職員会のある水曜日は学校が早く終わるので、放課後、家に家族がいない子どもたちは学校に残り、学校支援地域本部という地域の学校応援団の人たちと関わりながら過ごしていたのです。それを「山形っ子タイム」と呼び、水曜日の放課後の居場所として2013年から活動していました。

ですが「山形っ子タイム」に参加している地域のボランティアの方々が高齢化して、発達段階の元気な子どもたちと関わることが大変になってきたので、大学生のお兄さんお姉さんに来てもらうととても助かるという話があったのです。

左からB&G財団 地方創生部子ども支援課 牧岡咲良、山形村教育委員会 教育長 根橋範男さん

2022年度から、学生に来てもらいたいということで、山形村から松本大学教育学部へ行って地域連携の窓口となっている方に相談をしていたのですが、教育学部だけでは授業時間の関係もあり、なかなか来てくれる学生が見つかりませんでした。
その後も、教育学部だけでなく、他の学部にも広く呼びかけて学生に参加してもらえるような仕組みづくりをしていきましたが、これもなかなかうまくいかず、、、
そんな中、村内に子ども第三の居場所が開設されるということで、2023年3月ごろ、子ども第三の居場所の事業の目的をお話しし、改めて大学生のボランティアのお願いをしました。

その結果、教育学部の特別支援関係のゼミの先生と繋がることが出来たのです。子ども第三の居場所の活動に、学生がボランティアとして参加することによって、将来教師になった時に役立つだろうと先生に思っていただいたようで、先生が中心となって学生に働きかけていただき、学生が子ども第三の居場所に来てくれる形ができました。

牧岡:
学内でも大きな枠で募集するよりも専門的なゼミや学生に対してアプローチしたことが功を奏したんですね。
学生がボランティアに来てくれるようになって、拠点がにぎやかになったといった変化についてのご感想はありますか?

  • 子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

  • 子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

根橋教育長:
学生は若いお兄さんやお姉さんなので、子どもたちにとってはちょっと自分に年齢の近い人で、親しみやすいんだと思います。スタッフの平均年齢は60代で、一番若くて30代です。子どもたちは大人の支援員には言いにくいことも、年の近い学生には言えるということもあると思います。子どもたちは学生たちが来ることを心待ちにしているんですよ。やはり若い人が関わると、居場所がとても活性化してくるのだと思います。

牧岡:
拠点スタッフさんにお伺いした時も、学生が来る日は『今日、学生さん来るよね』と言って身だしなみに気をつけるようになった子もいるとお聞きしました。学生も拠点での活動を楽しいと言ってくれていたので、双方にとっていい経験になっているんですね。

大学との連携の鍵は地域と関わりのある担当者がいたこと

左からB&G財団 地方創生部子ども支援課 牧岡咲良、山形村教育委員会 教育長 根橋範男さん

牧岡:
他の拠点でも大学生との活動を広めていきたいと思っていますが、他の自治体では、大学との協定があるものの、どのように事業相談をしたらよいか悩んでいるケースが多くあります。根橋教育長は、どのように相談されたのですか?

根橋教育長:
松本大学に地域連携担当の職員がいて、その方が窓口となっています。何か相談をすると学部長などを通じて、いろいろとつなげてくれるので、やはり最初に地域連携に取り組んでいる方とつながれたことがポイントです。いきなり大学の教授へアプローチするよりも、大学関係者の中ですでに地域と関わりを持ってくれている人に事業を理解してもらい、協力してもらうことで連携が進めやすいかと思います。

牧岡:
学生が拠点に来るときに意識していることはありますか? こちらから指示するのではなく、学生に自由に支援してもらうようにするなど、学生に来てもらった時に気をつけていることはありますか?

根橋教育長:
まずは子どもたちになじんでもらうことが一番なので、制限や指示は特にしていないですね。夏休みぐらいから入ってきてくれているので、今は、子どもやスタッフとかなり打ち解けてきています。学生自身も拠点でできることが多くなってきたので主体的に動いてくれるようになりました。

学生にとっては、これから社会に出ていくための大切な経験でもあると思うので、失敗やまずいところを強く指摘するのではなく、「ここはこうしたほうがよかったよね」というような指導の仕方をしています。

  • 子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

  • 子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

学生がロールモデルとなり、子どもの自立心が養われる

B&G財団 地方創生部子ども支援課 牧岡咲良

牧岡:
子どもたちに慣れることも大切にしながら、スタッフさんからアドバイスをもらって学生は活動しているんですね。学生にも話を聞きましたが、子ども自身が、自分のやりたいことが何なのか気づけるようサポートする姿勢を、ここで学んでいるのだと思いました。

根橋教育長:
B&G財団さんの理念でもあると思いますが、子ども第三の居場所では自己肯定感や自立心を養わせてあげたいので、なるべく自分で気がつかせる、考えさせることを大事にしています。

  • 子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

  • 子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

学生たちは、きっと自分の成功や失敗を子どもたちに話していると思うんですね。そこから子どもは生き方を学んで、挑戦できるようになっていくと思います。まず、子どもたちにとって、第三の居場所を居心地のいい場所、ほっとできる場所として作り上げる。安心できる場所でお兄さんお姉さんから話を聞くことで、子どもたちは彼らみたいになりたいという憧れの気持ちを抱くようになるでしょう。そして、自ら学び出し、苦手なものも学ぶことができるようになるし、自立できる力や生き抜く力がついてくると思います。学生が、その子どもにとってのロールモデルになるかもしれないですね。

牧岡:
確かに学生に夢を語ってもらえると、子どもたちも自分はどうなりたいかを考えるきっかけになると思います。「こういうお兄さんお姉さんがいる松本大学に行きたい」「僕も大学に行くために勉強しよう」といった気持ちも育まれるかもしれません。

子どもたちにとって、学生や第三の居場所はどんな存在?

子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)

牧岡:
これまでの子ども第三の居場所の取り組みで、子どもたちの変化はありましたか?

根橋教育長:
子どもたちは最初と比べるとかなり成長したと感じます。
来た当初はスタッフと目を合わせてくれなかった子どもも、他の子どもたちとコミュニケーションをとったり、スタッフのサポートがある中で色々な活動したことにより、次第に自ら話が出来るようになりました。拠点に来ていることがいい影響を与えているんだと思います。

また、大学生が来てくれていることで子どもたちの活動の幅も増えましたし、子どもたちも学生さんたちに関心があるので、来てくれることを楽しみにしているという声をよく聞きます。

牧岡:
すでにいい影響が出始めているんですね!子どもたちもお兄さんお姉さんと遊びたいという気持ちが伝わってきました。学生も拠点で待ってくれている子どもたちがいたら嬉しいし、拠点に来ている意義がありますね。

子どもとともに保護者の支援も

子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)の前で

牧岡:
今後の展望については、どのようにお考えでしょうか?

根橋教育長:
子どもが第三の居場所に通うことで、親の意識も変わってきました。両親の仲が悪い家の子が落ちつかなかったり、人をたたいたりすることがあったのですが、母親を子育て支援課につなげたり、学校の先生との会議を行ったりした結果、ただ言うことを聞かない子どもではないことがわかりました。支援が必要な子だとわかったんです。周りが支援してくれる安心感を得て、母親の精神状態が安定し、子どもへの目線も変わりました。障害などがある場合は、適切な対応が必要です。今はそうした保護者支援にも携わっています。

子どもの成長を実感できるのは喜びですので、学生との連携によって、子どもも学生もともに成長していける場所として、子ども第三の居場所を運営していけたらと思います。

牧岡:
B&G財団としても子どもたちのために子ども第三の居場所と大学生を繋ぐ取り組みを積極的にしていきたいと考えています!
本日はお話しいただきありがとうございました。

子ども第三の居場所(愛称:トロッコにこにこフレンズ)の皆様

「子ども第三の居場所」のお問い合わせはB&G財団 子ども支援課(TEL:03-6402-5311 mail:kodomo@bgf.or.jp)までご連絡ください。

家庭環境や経済的理由などさまざまな事情により、家で過ごすことが困難な子どもたちが、放課後から夜間までの時間を過ごすことができる拠点として整備を進めている「子ども第三の居場所」。2023年12月末現在、全国196か所に設置され、全国への更なる開設を目指す。

B&G財団は、引き続き子ども第三の居場所の設置自治体を募集しています。ぜひ、お気軽にB&G財団 地方創生部 子ども支援課(TEL:03-6402-5311 mail:kodomo@bgf.or.jpまでお問合せください。ご応募をお待ちしております。

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