連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 94

子供たちの夢を後押ししていきたい!


2013.11.13 UP

カヌー選手のアドバンスト・インストラクター、依田伸一郎さんが歩む道

この秋にさまざまな競技で熱戦が繰り広げられた、第68回国民体育大会(スポーツ祭 東京2013)。カヌー・スラローム/ワイルドウォーター競技会も東京都青梅市の特設会場で開催され、岡山市建部町B&G海洋センターのアドバンスト・インストラクターとしてカヌーの指導に励んでいる依田伸一郎さん(現:同町福祉事務所勤務)も、ワイルドウォーター競技の岡山県代表として力を奮いました。国体はもとより国際大会でも活躍している依田さん。選手として自分自身を鍛えながら若手の育成に努めているトップアスリートに、これまでの道のりや今後の展望について語っていただきました。

プロフィール
● 依田 伸一郎(よだ しんいちろう)さん

昭和51年(1976年)生まれ、岡山県出身。大学時代にカヌーを始め、スプリント競技で活躍(関西インカレ3位など)。大学卒業後は、7年後に開催される地元国体でカヌー競技場を誘致した岡山県建部町に就職し、海洋センターに勤務しながら国体選手の育成に尽力。自らも妻、聡子さんとともに練習を重ね、平成17年に地元で開催された「おかやま国体」ワイルドウォーター種目で夫婦揃って優勝。以後、ワイルドウォーター競技の第一人者として国内外の大会で活躍し続けている。

● 岡山市建部町B&G海洋センター

昭和56年(1981年)開設。艇庫、体育館で構成。町内を流れる旭川沿いに艇庫を持ち、昔からカヌーが盛ん。平成17年には、「おかやま国体」カヌー競技(スラローム/ワイルドウォーター)が町内の特設会場で開催されている。

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第2話7年後に向けた底辺の拡大

転機を呼んだ国体の地元開催

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今年の国体(スポーツ祭 東京2013)スラローム競技の様子。カヌー競技には平水面で行うスプリントのほか、写真のように急流を使って行うスラローム、ワイルドウォーターの3種目があります。旧建部町が誘致した岡山県国体では、スラローム、ワイルドウォーターの2種目の競技が行われました

 大学時代、1人しかいないカヌー同好会で学生新人戦を制覇。その勢いに乗って、インカレや全日本選手権大会で活躍し続けた依田さん。神戸国際大学で経済を学んでいたことから、将来は貿易が盛んな神戸で通関の仕事に就きたいと考えていましたが、卒業が近くづくと両親から郷里の岡山県に戻ってきてほしいと懇願されました。

 「カヌーに精を出した一方、就職活動は遅れ気味でした。そのため、両親の意見に耳を傾け、岡山県内の仕事も探すうちに、7年後の岡山県国体でカヌー競技の開催を誘致していた旧建部町から声を掛けていただきました。町に就職して、地元開催の国体で活躍できる選手を育成してほしいとのことでした」

 めざしていた通関の仕事は諦めなければなりませんでしたが、町に就職すれば指導者として大好きなカヌーに携われるうえ、両親の意向に沿って郷里の岡山県に戻ることになります。依田さんはすぐに心を決め、大学を卒業すると神戸を離れました。

 「振り返ってみれば、岡山県で国体が開催されることになり、それに伴ってカヌー競技を誘致した旧建部町が指導者を募ってくれたことが、その後の私の人生を決めました。いまもなお私が現役の選手で活動していられるのも、このような就職の機会をいただけたからにほかありません」

 天の声に導かれるようにして、郷里に戻って理想の仕事に就いた依田さん。町に就職すると、海洋センターに配属されてカヌーの指導に励んでいきました。

普及をめざして

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町内を流れる旭川で実施されているカヌー教室。依田さんはB&G普及艇を使って、より多くの子供たちにカヌーの楽しさを伝え続けました

 旧建部町が誘致した国体カヌー競技は、スラロームとワイルドウォーターの2種目でした。町内を流れる旭川が格好のゲレンデになっていたからでした。

 「私はスプリント(フラットウォーター)の選手でしたから、地元開催の国体に地元の選手を送るためには、段階的にスラロームやワイルドウォーターの専門家に指導してもらう必要がありました。

 ただし、7年後を見据えて少年少女の段階から選手を育てていくには、基本となるフラットウォーターから着手すべきだという意見が数多く出され、また、優れた選手を出すためにはカヌーを楽しむ環境を整えて底辺を拡大する必要もあったので、私はいかにして町の子供たちにカヌーを広めるかという課題に取り組んでいくことになりました」

継続は力なり

 依田さんは、ただちに海洋センターに配備されていたB&Gの普及艇を使って、より多くの子供たちに経験を積んでもらう活動に着手。その一方、カヌーを体験した子供たちが競技に進んでいけるように、レーシング艇も購入して積極的に乗せていきました。

 「B&Gの普及艇に乗れるようになると、そこで満足して飽きてしまう子も出てきます。ですから、簡単には乗りこなせないレーシング艇を勧めてあげることで、子供たちは何度も水に落ちながら挑戦意欲を高めていきました。

 また、私がカゴを背負ってカヌーに乗り、子供たちがカヌーを漕ぎながら水面に浮かんだボールを拾って投げ入れる、水上玉入れ大会なども考えました。とにかく、どんなかたちであってもカヌーに乗り続けてもらうことが大切だと思いました」

 こうして、カヌーの活動を町の子供たちの間に根付かせていった依田さん。その後、地元の中学校にカヌー部がなかったため、小学生時代に海洋センターでカヌーを覚えた子が、中学に入ってからも続けられるように、町の体育協会に相談して中学校にカヌー部が誕生。地元の高校にも同好会ができたため、これで小学生から高校生までが一貫してカヌーの活動ができる環境になりました。(※続きます)

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国体の開催をもとに、カヌーの町として知られるようになった旧建部町。地元の子はもとより、県内各地の学校が体育実習などでカヌーの体験に訪れています

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B&G普及艇でカヌーに乗り込む子供たち。底辺の拡大をめざして地道な普及活動が展開されていきました