連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 91

世界に羽ばたく子を、わが町で育てたい!


2013.08.21 UP

海辺の活動、競泳選手の育成に励む、志賀町富来B&G海洋センター

B&G全国ジュニア水泳大会で常に優秀な成績を収めている石川県チーム。その一翼を担っているのが、池端久泰選手(2009年度最優秀選手)や日髙雅子選手(2012年度最優秀選手)を輩出している、志賀町富来B&G海洋センターです。
施設がオープンする際に愛称を公募し、小学生が考えた「フレア」(フレッシュアップ・クラブの略)という呼び名がつけられた同センター。1998年に事業を始めて以来、多くの住民に親しまれながら地域の健康づくりや子供たちの水泳指導に励んでいます。
今回は、こうした活動を二人三脚で支え続けている2人の指導員を連載で紹介するとともに、最終第4話では、海洋センターに寄せる期待を小泉 勝 町長にお聞きいたします。

プロフィール
● 志賀町富来B&G海洋センター

旧富来町時代の平成10年(1998年)、屋内温水プール施設として開設。愛称を公募し、「フレア」という名で住民に親しまれ続け、平成17年に2町合併よって志賀町となってからも子供たちの水泳教室から高齢者の健康づくり事業が熱心に続けられている。
また、B&G富来海洋クラブも昭和61年(1986年)に開設。手作りの艇庫を拠点に、カヌーやOPヨット、キャンプなどの活動が盛んに行われている。

● 谷場 宣彦さん(右)

1974年生まれ、旧志賀町出身。民間スイミングクラブを経て、海洋センターの開設に合わせて旧富来町役場に就職(現:志賀町教育委員会)。以後、海洋センター職員として各種水泳教室の指導にあたっている。

● 戸野 陽介さん(左)

1976年生まれ、旧富来町出身。旧富来町役場に就職し、海洋センターに赴任(現:志賀町教育委員会)。以後、谷場氏とともに海洋センターの運営にあたる一方、海洋クラブの指導にも励んでいる。

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第3話海洋センターに集まる期待

選手コースの誕生

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昨年のB&G全国ジュニア水泳大会 男子50m背泳ぎで、大会新記録を出した池端久泰選手。2009年大会では最優秀選手に選ばれています

 消防署と連携を取りながら水辺の安全教室を行うなど、活発な活動を展開している志賀町富来B&G海洋センター。年間を通じて利用できる屋内温水プールを利用した水泳の指導にも力が入れられています。

 「海洋センターがオープンして何年かしたとき、水泳教室を修了した子が次々にいろいろな大会で賞を取るようになりました。そこで、子供たちや保護者の皆さんから、『もっとスキルアップして上の大会をめざしたい』という声が上がったため、選手コースを別途に設けてレベルの高い練習を行うようになりました」

 選手コースができたときの様子を、そう振り返った谷場さん。選手コースは海洋センターができて6年目の2004年に開設され、谷場さんが民間スイミングクラブで養った選手育成のノウハウが投入されました。

 「一度、誰かが大会で賞を取ると、周囲も盛り上がるものです。このときも、皆でがんばろうという雰囲気が生まれて子供も保護者も熱心だったため、翌2005年には日本スイミングクラブ協会に登録して本格的に競泳の世界に入っていきました。

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昨年のJOCジュニアオリンピックに出場したときの日髙雅子選手。取材時は全国ランキング4位に立っていました

 「そして、この頃からB&Gの全国ジュニア水泳大会(以下、B&Gジュニア水泳大会)に出ることを1つの大きな目標に掲げ、石川県の常連チームとして毎年参加させていただくようになりました」

 B&Gジュニア水泳大会における同海洋センターの活躍は著しく、最近でも池端久泰選手(2009年大会最優秀選手・2012年大会50m背泳ぎ大会新1位/中3)や、日髙雅子選手(2012年大会最優秀選手・100m自由形2位大会新/中2)などが頭角を表し、JOCジュニアオリンピックカップでも優秀な成績を収めています。

オリンピックをめざそう!

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2011年のB&G全国ジュニア水泳大会 女子200mメドレーリレーでも、日髙選手が参加した石川県チームが大会新記録で優勝を遂げました

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現在、おもに戸野さん(左)が海洋クラブを担当し、水泳教室では谷場さん(中)が選手コースを指導。育成コースはスタッフの谷内可奈さん(右)が担当しています

 選手コースができて10年、現在は14人の精鋭が在籍しており、さらに次世代を担う6人が育成コースで練習に励んでいます。指定管理の海洋センターがプロのインストラクターのもとで競泳に力を入れるケースはありますが、志賀町富来B&G海洋センターの場合は、自治体の直営ながら谷場さんが持つノウハウを活かして指導に励むことができました。

 「一般の水泳教室で、ある程度のカリキュラムを終えた段階で、さらに水泳に関心を持つ子供たちに選手コースや育成コースを勧めています。選手コースには高校生もいて、国体もめざしています」

 今年は国体に行く選手が出るかも知れないと語る谷場さん。昨年のB&Gジュニア水泳大会で最優秀選手に選ばれた中学生の日髙雅子選手も、全国ランク4位(2013年7月取材時)になっており、すでに全国中学校水泳競技大会の出場も獲得。将来を嘱望されています。

 「志賀町は海に面した町ですから、ここで生まれ育った子供たちは泳ぎを覚えて海で遊び、仲間を思いやる心や自然環境を守る気持ちを育んでもらいたいと思います。また、そのなかで競泳に興味を持った子がいたら、高校、大学と水泳を続けて大きな舞台をめざしてほしいですね」

 選手コースの最終目標は、オリンピックだと明言した谷場さん。小学生の頃、埼玉県松伏町B&G海洋センターで練習を重ね、ロンドンオリンピック女子200mバタフライで銅メダルを獲得した星 奈津美さんのような、すばらしい選手が誕生する日はそう遠くないかも知れません。

30年後を見据えたい

 海洋センターで水泳教室の選手コースの練習が始まると、その活動の影響を受けて地元の中学校にも水泳部ができましたが、少子化が進むなかで数年前から町内の一部の学校や保育園でプールが取り壊されていきました。

 「中学校に水泳部ができたときはうれしかったのですが、たくさんあった小学校が統廃合する時代の変化を受けてプールが廃止されてしまったのも仕方のないことでした。しかし、その反面、海洋センター近隣の保育園や小中高校が水泳の授業や部活動で海洋センターを使うようになりました」

 効率の面を考えれば、1校1プールの発想より、海洋センターを有効利用したほうが理に叶っていると指摘する谷場さん。ドイツのような地域スポーツ社会を参考にしながら海洋センターづくりを進めた、B&Gプランの理念を改めて認識することができたそうです。

 「学校の授業を受け入れるなどして、町の施設として欠かすことのできなくなった海洋センターですが、ここにきて老朽化が目立ってきました。そのため、修繕助成をお願いする予定を立てていますが、私たち関係者は30年先までの利用を見据えて手を打ちたいと思っています」

 自由設計の方針に沿って、屋内温水化や全館バリアフリー化を実現した志賀町富来B&G海洋センター。「皆が知恵を出し合ってつくった大切な施設だからこそ、メンテナンスを怠らないようにして次世代につなげたい」と、谷場さんは語っていました。 (※最終回(町長インタビュー)に続きます)

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町の小中高校が、水泳の授業や部活動を海洋センターで行っています。1校1プールで行うより経費や管理の面でメリットが大きいそうです

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海洋クラブの活動も活発に行われており、昨年にはB&G財団の舟艇機材配備を受けたレスキューボートがカヌーなどのサポートに活躍しています

写真提供:志賀町富来B&G海洋センター