連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 84

海を大切にしてくれる子どもたちを増やしたい! 


2013.01.30 UP

~海や漁業の資料を収集しながら海洋教育にも力を入れる、
「海の博物館」館長 石原義剛さん~

温暖な気候と穏やかな湾が連なるリアス式海岸の地形を活かして、古くから漁業が盛んな三重県の志摩半島。この地で網元を務めながら漁業の振興に力を入れた政治家の父、石原円吉氏の意志を受け、昭和46年に漁業や海の大切さを発信する「海の博物館」を鳥羽市に開設した石原義剛さん。 各地に足を運んで集めた伝統的な漁具や船の数々は昭和60年に国の重要有形民俗文化財に指定されましたが、「集めたものを並べて見せるだけが仕事ではありません。海のすばらしさを伝える情報発信や教育活動も大切です」と石原さんは語ります。 今回は、貴重な資料の展示もさることながら、環境問題の研究に取り組む一方、子どもたちを海に連れ出してさまざまな体験教育に力を入れている、「海の博物館」の活動に注目してみました。

プロフィール
●石原義剛さん
昭和12年生まれ、三重県津市出身。大学卒業後、東京で就職するも、32歳のときに父、円吉氏の意志を受けて郷里にU-ターン。3年の準備期間をおいて昭和46年に「海の博物館」を鳥羽市に開設。以後、館長を務めながら大学などで講演をこなす一方、子どもたちを対象にした海洋体験教育にも力を入れている。
●「海の科学館」(財団法人 東海水産科学協会)
網元を務めながら県会議員、衆議院議員を務めた石原円吉氏が、昭和28年に地元の漁業振興を目的に設立した財団法人東海水産科学協会を母体として、昭和46年に設立。三重県各地に伝わる伝統的な漁具や漁村文化の保存・継承を目的とした博物館事業に加え、漁業や海の文化を一般的に知ってもらう啓蒙普及活動にも力を入れている。昭和60年には、博物館が収集した6,800点余の資料が国の重要有形民俗文化財に指定されている。
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第4話(最終回)体験する博物館

環境にやさしい施設づくり

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平成4年に開設した現在の海の博物館。建築物としても注目され、日本建築学会賞や日本文化デザイン賞などを受賞しています


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大きな木の梁を使った収蔵庫の天井。木を使ったことで通気がよく、空調費の軽減につながっています

 環境問題を考える「SOS」(救え、われらのいのちの海を)キャンペーンを展開し、漁の伝統を継承している海女さんの文化を世界無形文化遺産に登録しようと広く呼びかけている「海の博物館」館長の石原さん。平成4年には、手狭になった博物館を1万8000平米もの広大な敷地に移転することになりました。

 「昭和60年に6,879点の資料が国の重要有形民族文化財に指定された後も、収集物がどんどん増えていったため、大きな収蔵庫の必要性が生まれました。そのため、国の補助を受けて広い敷地に展示棟や研究棟など8棟で構成される施設を作ることができました」

 環境問題に取り組む石原さんらしく、新しい博物館は木材を多用して光熱費があまり掛からないエコな施設作りをめざしました。

 「建物の多くの部分に木材を使っていますが、木は呼吸するので室内の温度や湿度の調整を助けてくれます。同じ規模の一般的な博物館の場合、どんなに工夫しても空調に年間2千万円ぐらいの費用が必要ですが、ここは500万円程度で済んでいます」

 建築家の内藤 廣氏が設計した新しい海の博物館は、エコな構造もさることながら木を使った美しい建築物としても話題になり、日本建築学会賞や日本文化デザイン賞などを受賞。建物を見学するために訪れる人も多いそうです。

教育の原点をめざしたい

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自習室で貝殻細工の体験学習を楽しむ子どもたち。自習室は日本財団の助成を受けて建てられました

 


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近くの磯で海辺の体験学習もできます。現在、修学旅行の生徒が全国各地から訪れています

 

 木をふんだんに使って生まれ変わった「海の博物館」。リニューアルオープンから6年が過ぎた平成10年には日本財団の助成を受けて自習室を開設し、体験学習プログラムを行うようになりました。

 「自習室を建てたのは、修学旅行で博物館を訪れる子が多かったので、体験学習の場を提供しようと考えたからでした。やがて、学校教育のなかに総合的な学習の時間が導入されていったので、私たちもいろいろなプログラムを考えて海の総合学習に力を入れていきました」

 海の博物館は波静かな入り江の近くにあるので、浜や磯に出て海辺の観察が楽しめます。そこで、石原さんやスタッフの皆さんは海苔作りの実験やタコの干物作り、貝を使ったアクセサリー作りなど、さまざまなアイデアを体験プログラムに採用していきました。

 「現代っ子は塾や習い事で忙しいですが、ここに来たら誰もが海遊びに没頭して日常を忘れます。都会にある水族館でも学ぶことは多いと思いますが、実際に海に入ったり海で取れるものに触れたりすることで、自分なりに発見できることもいろいろあるはずです」

 教育の原点は現場にあると語る石原さん。多くの人が都会に憧れて郷里を後にしますが、子どものときに自然と触れ合った体験は都会に出てもきっと何かの場面で役に立つと指摘します。

 「子どものときに、自然のなかで人生の原点となる体験をしておいてほしいと思います。木や枝の形を考えなければ木登りはできませんが、町の公園にあるジャングルジムではそこまで複雑な体験はできません。

 また、木登り同様、海に入れば波や潮の満ち干など、さまざまな自然の変化に出合います。だから海は危険な場所だという人もいますが、変化のある自然のなかで複雑な体験を重ねることで、敏感に危険を察知できるようにもなるのです」

 毎年、全国各地から大勢の修学旅行を受け入れながら、いろいろな体験学習プログラムを展開している海の博物館。石原さんは、「日本は海に囲まれた国なのだから、子どものうちに海を体験し、海に目を配る大人になってほしい」と語っていました。(終)