2023.09.08 UP 防災拠点事業 各自治体が必要とする資機材を幅広く支援 地域の特色が出る防災倉庫の設置

活用想定事例から見る配備資機材と島根県雲南市の防災倉庫

日本財団助成事業

9月1日より3週連続で実施している「B&G防災拠点」の企画特集。B&G財団で推進している防災拠点の設置及び災害時相互支援体制構築事業(以下、本事業)のこれまでの歩みや今後の展望を紹介していく。

先週は第1回目として、「油圧ショベルと相互応援」をテーマに取り上げた。油圧ショベルを動かし、被災地の瓦礫撤去や土砂の掘削を行う様子は、豪雨災害が頻発する日本における新たな災害支援の形を表しているのではと感じる。第2回目となる今週は「ハード整備と防災倉庫」がテーマとなるが、油圧ショベルやスライドダンプはもちろんのこと各自治体が整備している機材の詳細を紹介するとともに、言わば拠点の中心にもなる防災倉庫について、主に島根県雲南市の事例を取り上げたい。

防災倉庫整備の一例。一から建築する自治体もあれば、既製品を採用して設置する自治体もある

防災倉庫整備の一例。一から建築する自治体もあれば、既製品を採用して設置する自治体もある

譲れない事業の核は必須機材として、各地域が必要とするニーズは任意機材として網羅する

まず、本事業における資機材整備の内容について簡単に紹介したい。実施が決定した自治体に対して交付される機材配備支援金が、防災倉庫をはじめとする倉庫の整備や資機材の購入費用として支援される。そのうち、全自治体が必ず整備しなければならない機材枠である「必須機材」と、各自治体が必要とする資機材を選択し、適宜整備することができる「任意機材」の2つに分かれている。

「必須機材」には、油圧ショベルにスライドダンプ、救助艇または水上バイク、そして、防災倉庫の4点があり、本事業の柱である被災地における迅速な復旧・復興に必要不可欠な機材が位置づけられている。一方「任意機材」は、各自治体が必要と考える資機材の配備が可能である。この「任意機材」枠を設け、そして、各自治体で基本的に自由に選択できるよう制度を構築した理由は、大前提として各自治体で想定される災害は大幅に異なる。地震、津波、豪雨など災害が異なれば、備える備蓄品の内容や機材の用途も変わってくる。本当に地域が必要なモノは、その地域に住む人々、すなわち、各自治体の担当者たちが一番ニーズをよく分かっているからだ。

全国津々浦々に同一規模の拠点をネットワークでつなぎながらも、多様化が進む地方の末端まで必要とする要望に応えるには、当然のごとく机上だけの事業展開では不可能だ。だからこそ、事業の核となる部分は「必須機材」枠として必ず整備し、「任意機材」として地域の要望を汲み取り、本事業における機材配備支援のスキームを整えた。

  • 油圧ショベルは2.5tの小型重機。狭い場所でも瓦礫撤去がスムーズなサイズを採用した

    油圧ショベルは2.5tの小型重機。狭い場所でも瓦礫撤去がスムーズなサイズを採用した

  • スライドダンプの荷台の上げ下ろしは、ボタン一つで簡単に操作が可能

    スライドダンプの荷台の上げ下ろしは、ボタン一つで簡単に操作が可能

「任意機材」のチョイスは各自治体によってかなり特色が出る。すでに動いている自治体における災害対策や防災計画に基づき選んだり、防災用品や備蓄品のストックが少ない地域を選定し配備したりとその選定方法も様々である。よく配備されている備品として、段ボールベッドや災害用トイレ、避難所におけるプライバシー確保用のパーテーション、LED投光器などが目立つ。その他、ホイルローダーやチェーンソーなど、油圧ショベルと同様に、機動力のある機材も人気だ。これら機材は、雨風による倒木・土砂崩れが発生した際に、地方インフラの復旧や緊急対応など、あらゆる場面での活躍が期待できる。

しかし、何よりも配備に対する要望が多い機材はドローンと言っても過言ではない。ドローンは、活用できる機会が非常に多いのだ。上空からカメラを使って活用する想定がメインとなるが、サーモグラフィーカメラが搭載されていれば、人命の捜索も可能になる。また、なかなか人の足では立ち入ることができないような山奥の崩落現場や危険を伴う現場での確認作業も容易になる。

ドローンの災害現場での活用は、2021年7月に起こった静岡県熱海市の土石流災害が一つの契機になっていると思う。当時の現場では、雨による二次災害の恐れもあり救助・捜索活動が難航した。以前から災害現場でもドローンは活用されていたが、それら状況も重なり、複数の空撮写真から被災場所の地図画像を作成することができ、被害状況の迅速な把握につながれば、捜索活動の安全性の向上と迅速化につながると期待されるようになったのではと思う。

ドローンの可能性はまだまだ未知数であり、今後、油圧ショベルと合わせて活用されれば、より早急な現場確認、人命捜索や救助にもつながるだろう。

  • 電動コンクリートブレーカーと油圧ショベルを活用した模擬訓練の様子

    電動コンクリートブレーカーと油圧ショベルを活用した模擬訓練の様子

  • 配備された任意機材も、各自治体で実施するお披露目式にてそれぞれ紹介している

    配備された任意機材も、各自治体で実施するお披露目式にてそれぞれ紹介している

大きさも、形も、数も、自治体によって異なる防災倉庫

そして最後に防災倉庫を紹介したい。今回は、島根県雲南市を事例に、防災倉庫設置の経緯や完成後の式典の様子を紹介する。

島根県雲南市では、「令和3年7月豪雨災害」を経験している。2021年7月6日から12日にかけて大雨となった。特に7月12日には線状降水帯の影響により、時間雨量が100ミリを超える地点もある中で、記録的短時間大雨情報が発表され、避難情報の警戒レベル5「緊急安全確保」を発令する 事態となり、多くの市民が避難を余儀なくされた。この記録的な大雨により、市内各所で河川の氾濫や土砂崩れ、倒木などが発生し、市内の広範囲において甚大な被害が発生した。

本事業で整備した防災倉庫も、この災害にて大きな被害を受けた地域の一つに設置された。もともとこの地域は、地盤が悪く、土砂くずれをしやすい特殊な地域であった。少々の雨が降っても、川の近くの土砂が崩れる、あるいは木が倒れるといったことが頻繁に起きている。また、雲南市の市街地からも少々離れた場所にある。有事の際には、いち早く初動体制・復旧活動に取りかかれるよう、防災倉庫を整備することとなり、油圧ショベルやスライドダンプもここに保管していく予定だ。

どこにどのような防災倉庫を設置するかは、各自治体の防災・災害対応に対する戦略や考え方による。雲南市の事例のように、市街地から離れ、過疎地域に設置される倉庫も少なくないのだ。

  • 島根県雲南市の防災倉庫。写真は、倉庫内にて調印式及びお披露目式を実施している様子

    島根県雲南市の防災倉庫。写真は、倉庫内にて調印式及びお披露目式を実施している様子

  • 倉庫内には油圧ショベルやスライドダンプが保管される。地域住民の安全を守る機材たち

    倉庫内には油圧ショベルやスライドダンプが保管される。地域住民の安全を守る機材たち

防災倉庫の形状や設置場所は、各自治体にて定めている。市役所の敷地内に設置する自治体もあれば、消防署敷地内に設置する自治体もある。そして、一つとは限らない。高知県四万十町では、13ヵ所にも防災倉庫を本事業にて整備している。

四万十町は、高知県内では一番面積が広い自治体。沿岸部もあれば、緑豊かな山間部もあり、広大な土地を有しているのだ。それだけ自然が豊かである一方、南海トラフ地震はもちろん、近年頻発する豪雨に対する土砂災害にも常日頃から警戒しなければならない。そのため、小規模で簡易的ではあるが、複数の防災倉庫を整備することで、避難所用品の備蓄率を増やし、どの地区でも住民の安心・安全を守れる体制づくりに寄与させたのだ。

防災倉庫は、平時から避難所備品などの多くが保管されている。毛布やトイレ、そして飲料に至るまで、有事の際には地域住民の命を守る砦にもなる。そして、本事業では重機類を保管する倉庫として整備されている自治体も多い。どのような活用をされていても、地域の安心を生み出す砦であることは間違いない。

  • 北海道石狩市の防災倉庫。市役所の敷地内に整備し、毛布などの避難所グッズを保管

    北海道石狩市の防災倉庫。市役所の敷地内に整備し、毛布などの避難所グッズを保管

  • 群馬県明和町の防災倉庫。大量の備品を保管できる。大きな看板がトレードマーク

    群馬県明和町の防災倉庫。大量の備品を保管できる。大きな看板がトレードマーク

B&G財団は、2021年度から自治体と連携し、災害支援に即応できる機材と人材を備えた「防災拠点」を整備し、油圧ショベルとダンプカー、救助艇などの機材を配備すると共に、機材の操作方法と災害対応の研修を受けた人材を育成しています。
 全国の「防災拠点」担当者が、どこの拠点でも同じ器材と手法で災害支援活動ができる体制を整え、平時には「防災拠点」に備えられた段ボールベッドや災害用トイレ、ドローンなどを使用して、地域住民の「防災訓練や避難所運営訓練」を実施し、災害時だけでなく平時も活用される新たな防災拠点を目指します。
 防災拠点は、2021年度第一期の25ヵ所、2022年度第二期29ヵ所が決定しました。

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