連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 98

年間を通じた活動で、子供たちにふるさとの良さを伝えたい!


右から、連携を提案した海洋センター職員の村川さん。ともに手を携えた「ふるさと探検隊」の小野さん、金子さん(事務局長)、町田さん

2014.03.26 UP

他団体との連携で活動の輪を広げた、B&G生月海洋クラブ

長崎県西部に位置する、南北約10キロ、東西約2キロの細長い形をした生月島(平戸市生月町)。昔から漁業が盛んで、かつては沿岸捕鯨も行われて賑わいましたが、近年には少子高齢化が進み、この15年間で地域の人口が約25%減少。子供の数に至っては50%以上も減ってしまいました。
そのため、昭和60年に開設された地元の生月町B&G海洋センター、クラブの利用者数も次第に下降線を辿りましたが、現役、およびOBのB&G指導員に地域のボランティアが加わり、地元で活動している生月自然の会「ふるさと探検隊」と海洋クラブの連携が実現。ともに手を携えて双方の事業を行うことで、これまで夏場が中心だった海洋クラブの活動が一気に年間型に拡大していきました。「いまでは、新しい艇庫を建てる気運も高まっています」と気を吐く関係者の皆さんに、活動の経緯や今後の展望などをお聞きしました。

プロフィール
● 平戸市生月B&G海洋センター(長崎県)

昭和60年(1985年)開設(体育館・上屋付プール)。島の中心部にあって野球場に隣接しており、地域のスポーツ、健康づくり拠点として機能。特に夏場は、出前授業で地元小学校の水泳指導に力を入れている。

● B&G生月海洋クラブ

昭和59年(1984年)に設立。漁業倉庫を艇庫として借りて活動を続け、地元に密着した活動を展開。2年前からは生月自然の会「ふるさと探検隊」と連携して多岐にわたる活動に励んでいる。

● 生月自然の会「ふるさと探検隊」

地元博物館の館長でセンター育成士OBの金子 証氏が事務局長となって、地域の文化や歴史、自然を学ぶさまざまな活動を展開。島の子供たちに地元の海を学び体験してほしいと、海洋クラブの活動と連携するようになった。

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第4話(最終話)半年で解ける魔法

親も一緒に体験してほしい

 リタイア世代が関心を寄せて参加するようになってきた生月自然の会「ふるさと探検隊」。その結果、子供たちの活動を見守るボランティアの数は増えつつありますが、一方で、最近は言うことを聞かない子や叱っても平気でいる子が現れるようになりました。

 「10年前には、子供たちに『待て!』と言えば待ってくれたものでしたが、最近では言っても耳を貸さず、勝手に動き回る子が出てくるうようになりました。このような子は、いつどんな行動に出るのか分からないので、注意して見ていなければなりません」

 そう語る村川さん。言うことを聞かない子が出てきたことから、村川さんがその話を保育士や小学校の先生にしたところ、「保育園や学校に入る前に済ませておくべき家のしつけができていない子が増えている」という、同じような悩みを聞くことができました。

 「無鉄砲な行動に出てケガをする子もよくいますが、このような子は幼いときに大人から『危ない』、『してはいけない』などと注意された経験が乏しかったのかも知れません。そんな子供ほど、海洋クラブや『ふるさと探検隊』の活動に参加して、多少の危険を体験しながら大きな危険を避ける知恵や術を学んでもらいたいと思います」

 無鉄砲な行動に出そうな子がいる場合は、活動中の安全管理により神経を使わなければなりません。どのように管理するのかは難しいテーマであると、先輩指導者の金子さんは指摘します。

 「自然体験活動は、安全管理と楽しさのせめぎ合いです。どこで線引きをするのかが大切で、管理だけに徹底すれば窮屈になるし、楽しさだけを求めるわけにもいきません。ですから、活動の現場に集まった子供たちの様子をよく観察し、注意をすべき子がいたら、しっかりその子の行動を見守りながら、全体的にどのぐらい管理してくべきか考える必要があります」

 だからこそ、なるべく保護者も一緒に参加してほしいと村川さんは語ります。

 「外で遊んだ体験が乏しい子の場合は、保護者も加わって一緒に体験してほしいですね。子育てもさることながら、親も一緒に育ててあげることも大切になってきています」

 時代とともに自然に触れる機会が減っている、島の子供やその親御さんたち。自分たちの故郷に愛着を持ってもらうため、海洋クラブと「ふるさと探検隊」は今年度も春から冬まで35~40を数える、さまざまな体験活動を計画しています。

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水泳教室で練習に励む地元の子供たち。最近は、言うことを聞かない子や勝手な行動を取る子が目につくようになったため、安全管理には細心の注意を払っています

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ライフジャケット浮遊体験を行う子供たちを、プールサイドでお母さんたちが見守っています。なるべく保護者の方々にも現場に足を運んでもらうようにしています

地域の人的資源を発掘しよう

海洋クラブは漁業倉庫の一部を艇庫として借りて活動しており、漁港内のスロープも利用させてもらっています。地域の理解を得ながら活動の幅を広げてきました

 かつて、海洋クラブの活動は町の補助金によって支えられましたが、現在は、その大部分が打ち切られています。そのため村川さんは、あらゆる方面に補助金の申請を出す努力を続けています。

 「これまでに、農林系の『環境保護』に関する補助金や、生命保険会社の『地域活動』補助金、社会福祉協議会の『地域活動』補助金などをいただいて活動資金に充ててきました。補助金は、いろいろ探せば出てくるもので、どうしたら受け入れてもらえるか提案する企画の内容や説明文を作ることに頭をひねっています」

 申請する自分たちの思いと、補助金を用意している先方の思いを、どのように擦り合わせるかが大切で、先方の思いを考慮して企画内容を変更する場合もあるそうです。

 「募集を掛けた先方は、『誰かに補助金を使ってもらいたい』と願っています。ですから、その思いに応えるかたちで、応募する側も強い気持ちで自分たちの考えを提案すべきです。また、どのようにプレゼンテーションしたら良いのか不安な場合は、先方に直接、電話で聞いてみるのが効果的です。自分で悩むより、はるかに安心できます」

 予算が少ないという理由だけで活動の幅を狭めたくないと語る村川さん。補助金集めに力を入れる一方、金子さんという先輩指導者や小野さんや町田さんのような意欲的なボランティアの力を借りながら事業の可能性を追いかけています。

 「3人の皆さんが、それぞれに持っている『勢い』は大きな原動力になっています。ときには『いまから子供たちを海洋センターに連れていってバッタの観察をするから、たくさんのバッタをつかまえておいてくれ』などと、ムチャを言われることもありますが、それで活動の幅は広がります。

 どの地域にも、熱心なB&G指導員のOBやボランティアがいるはずで、その貴重な人的資源を掘り出すことも、海洋クラブの事業を進めるうえでは大事な仕事なのではないかと思います。幸いにも、生月B&G海洋クラブは『ふるさと探検隊』と手を組むことができて助かりました」

 予算も必要だが、ボランティアのような人的資源も欠かせないと語る村川さん。海洋センター、クラブはプールや艇庫といったハード面で支えられていますが、ハードを動かすためにはマンパワーというソフトが必要です。予算の削減や人員整理に悩む海洋センターも多いはずですが、地域指導者会や熱心なボランティアの力を借りることで新たな事業展開が見えてきます。

 「沖縄の指導者養成研修では、自分たちで事業を考えて行動に移すことの大切さを教え込まれ、誰もが希望を抱きます。しかし、地元に戻ると目の前の仕事に追われて、自分で考えることを忘れがちになってしまいます」

 研修で培った大きな志も、郷里に戻って何もしなければ半年もしないうちに魔法が解けるように忘れてしまうと語る村川さん。そうならないよう、同期の皆と沖縄で分かちあった初心を大切にしながら、これからもさまざまな事業を考えていきたいと希望を燃やしていました。(※完了)

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近年、整備された海水浴場。シャワーや更衣室が利用できることから、この一角に艇庫を移す構想も練られています

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改装によって新たに観覧スペースを設けた、海洋センター体育館。一般のスポーツ利用に加え、「ふるさと探検隊」でも大勢の子供を集めてクリスマスの飾りを作るときなどに利用しています