連載企画

注目の人:全国の海洋センター・クラブで活躍する方や、スポーツ選手など、B&G財団が注目する人にインタビューをしています。

No. 85

町の活性化に励む、センター育成士出身の若き町長


2013.02.20 UP

~45歳のフレッシュリーダー、北海道鷹栖町の谷 寿男町長~

昨年11月、現職では青森県南部町の工藤町長に続いて2人目となる、センター育成士出身の町長が誕生しました。北海道鷹栖町の谷 寿男町長がその人で、45歳という若さで人口7400人の町政を担います。
谷町長は、地元の高校を卒業後、昭和60年(1985年)に鷹栖町役場に就職。2年後にセンター育成士の資格を取って、6年間、鷹栖町B&G海洋センターに勤務し、その後も、ボランティアで海洋クラブや各種スポーツ少年団の指導に力を注ぎました。
「海洋センターを核に、スポーツや健康づくりで地域コミュニティーを広げたい」と語る谷町長。長年にわたって町のスポーツ行政に携わった宝田庄十郎教育長にも同席いただいて、海洋センター・クラブが歩んできたこれまでの道のりや、今後の抱負などをお聞きしました。

プロフィール
●谷 寿男 町長

昭和42年1月生まれ、北海道鷹栖町出身。昭和60年4月、地元鷹栖高校卒業後、鷹栖町役場に就職。農政課、教育委員会、自治広報課、福祉課、企画課などを経て、平成22年4月に議会事務局長。平成24年6月に退職後、同10月の町長選に立候補し初当選。教育委員会時代に第18期センター育成士訓練課程を修了し、6年間、鷹栖町B&G海洋センターに勤務した。

●鷹栖町B&G海洋センター

昭和57年(1982年)開設(体育館、上屋付きプール)。水泳をはじめ各種スポーツ少年団の拠点として利用されており、平成16年にはプールの上屋シート全面張替え、缶体塗装などの修繕を実施している。
また、艇庫がないものの、昭和55年(1980年)に設立されたB&G鷹栖海洋クラブでは、海や川に移動してカヌーやローボートの活動に励んでいる。

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第3話まちづくりは人づくり

1つのきっかけで成長した中学生

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「たかす歩くスキーフェスティバル」に参加する子どもたち。A君もこのような経験を経てクロスカントリーに関心を寄せていきました

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クロスカントリーの練習に励む人々。平地が多い鷹栖町では、冬になるとクロスカントリーで賑わいます

 海洋センターを核に、さまざまなスポーツが盛んになっていった鷹栖町。そのなかで、谷町長は現在掲げている「まちづくりは人づくり」のスローガンにつながる出来事を体験しました。

 「町内でジョギング大会などのスポーツ事業が企画されていきましたが、歩くスキークラブに入ったことでクロスカントリーに興味を持ったA君という中学生がいました」

 冬になると、谷町長は同僚の職員とともに自前で買ったスノーモビルを使い、海洋センターの周囲にクロスカントリーのコースを作って地域の人たちに利用してもらっていました。するとA君が毎日来るようになり、1人で黙々と練習を始めるようになりました。

 「その子は小学生のときに野球少年団に入っていましたが、落ち着きがなくて練習もさぼってばかりいました。ですから、毎日必ず来てクロスカントリーの練習を黙々とするので驚いてしまいましたが、あまりにも熱心なので投光機を用意して夜でも練習できるようにしてあげました」

 中学時代に練習を重ねたことで、A君はスキー競技に強い高校に入ることができ、在学中に開催された国体のクロスカントリー競技で見事に4位の成績を獲得。その後、スキー部のある大学に進学してスポーツに熱心な大企業に就職することができました。

 「就職後、A君は町に帰ってくるたびに必ず手土産を持って海洋センターを訪れ、『あのときはお世話になりました』と言って頭を下げてくれます。そんな姿からは、落ち着きがなくて練習をさぼってばかりいた小学生の頃の彼を想像することはできません。

 ですから、子どもにはいろいろなチャンスを与えて、埋もれている才能を伸ばしてあげることがとても大事なのだということが分かります。A君だって、クロスカントリーに出合っていなければ、まったく違った人生を歩んでいたかも知れません」

 とても大切なことを子どもに教えられたと振り返る谷町長。人は町の貴重な財産であると語っていました。

一石二鳥のフロアリズム

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幼児のプール活動に励む宝田教育長。やさしい人柄が出ています


 宝田教育長も、海洋センターの事業を通じて有意義な時間を過ごしてきました。

 「いまから数年前、町の宝物である幼児をどのように育てていくか教育委員会で話し合いました。そのなかで、B&G財団に自治体職員の派遣交流で1年間勤めていた大内職員が、『B&Gフロアリズム運動プログラム』(以下、フロアリズム)の導入を提案したので実施したところ、大きな成果を得ることができました」

 手始めに町営の保育園で行ったところ、幼児たちは目の色を変えて楽しんだと振り返る宝田教育長。そこで、私立の幼稚園にも足を伸ばしていきました。

 「なぜ私立の幼稚園まで行くのかという声もありましたが、自分たちの町なのだから良いものは公平に広めたいという気持ちでした」

 フロアリズムを行う職員や先生に、宝田教育長は「子どもたちと共に遊び、積極的に保護者とも会話をしてほしい。そうすれば、フロアリズムを楽しむ子どもたちの笑顔を介して保育園、幼稚園と保護者との距離が縮まり、無理を言う親がいなくなるし、逆に良いアイデアも出してくれるようになる」と伝えました。

 「先生が子どもに持たせるお便り帳の文章は、たとえ丁寧に書いたつもりでも見る側が悪い意味に解釈してしまうこともあります。ですから、文章のやり取りだけでなく、定期的に先生と保護者が目を合わせて会話をすることが大切です」

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子どもたちにフロアリズムを指導する宝田教育長。自ら足を運んで私立幼稚園でも実施していきました

 お便り帳の文章だけでは相手の顔が見えないので、読む側は不安になる場合もあると語る宝田教育長。フロアリズムの時間なら、子どもが元気に楽しむ姿を共有しながら先生と保護者のコミュニケーションが進みます。

 まさに一石二鳥の効果を発揮したフロアリズムの導入。私立の幼稚園では大勢の保護者が集まる参観日に実施して好評を得ました。

 海洋センターの事業を通じて人づくりに励んだ谷町長と宝田教育長。やがて、2人のB&G指導員は手を携えて新たなステージに向かうことになりました。(※続きます)